働き方改革・HR/人事DX FORUM 2024 -
RE:WorkLab特別パネルディスカッション

コロナ後の働き方と
ウェルビーイング向上の
秘訣を議論

2024年3月25日に開催された「働き方改革・HR/人事DX FORUM 2024」。その同時開催イベントとして、「RE:WorkLab特別パネルディスカッション」が行われた。テーマは「新しいハタラクを考える。ウェルビーイング経営を実践するためには」だ。企業のウェルビーイング経営に詳しい3人の識者が登壇し、オフィスとリモートを組み合わせたハイブリッドワークの今後と、経営や人事が持つべき視点などについて議論した。

《モデレーター》
日経BP 総合研究所
小林 暢子

EVOL株式会社
代表取締役CEO
前野 マドカ 氏

株式会社ロジクール
執行役員
法人営業本部 本部長
猪瀬 小里江 氏

株式会社ビズリーチ
ビズリーチWorkTech研究所
所長
友部 博教 氏

RE:WorkLab Special Panel Discussion - 01

従業員の生涯価値(ELTV)を意識せよ

まず、モデレーターの小林氏がディスカッションのテーマを示した。コロナ禍で普及したリモートワークには、「ワークライフバランスを作りやすい」「健康を重視した働き方ができる」などの利点がある。しかしその半面、「職場のコミュニケーションが希薄になりやすい」「新入社員が溶け込みづらい」といった課題も指摘されている。

コロナ禍が去った今、「原則出社」を打ち出す企業が出てきている。しかし、ロジクールが2023年9月に国内企業を対象に行った調査によれば、従業員の82%がリモートワークを支持しており、「オフィスでのフルタイム勤務制に戻るなら、離職を検討する」と回答した人が62%に上った。「これらの現状を踏まえ、今後の働き方について考えたい」と小林氏は述べた。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所でウェルビーイングを長く研究してきたEVOLの前野氏は、「ウェルビーイングとは、心も体も社会的にも『良い状態』のことだ」と述べる。

ウェルビーイングが向上すると、アイデアが浮かびやすくなり、新製品の開発や生産性の向上に寄与することがわかっている。物事を俯瞰的に見やすくなり、仕事を部分最適ではなく全体最適で捉え、戦略性が高まる。メンバーとのコミュニケーションが活性化し、良い関係性を作りやすくなる。病気になりにくく、長期に渡って効果的に働ける。「リモートワークとオフィスワークには一長一短があり、どちらか一方に頑なになるのはお勧めしません」と前野氏は語った。

ロジクールの猪瀬氏は「リモートワークの欠点を補うテクノロジーが、次々に登場しています」と述べる。リモートワークを体験した従業員は、場所や時間を問わず自分のやりやすい状態で働けば最高の成果が出せることを知った。もはや以前の状態に戻ることはない。「ワークライフバランスという言葉が注目されていますが、私はワークインライフだと考えます。生活の中で、仕事をどう捉えるかが重要です」と述べた。

ビズリーチの友部氏は、自身が研究している「WorkTech(ワークテック)」とHRテックは違うと話す。HRテックは従業員の管理を主体とする技術であるのに対し、ワークテックは働く人が精神的、肉体的、社会的に幸福に活躍できることを目指す技術だ。

ウェルビーイングの価値は可視化しづらく、経営者の間で認識に大きなズレがある。ウェルビーイングが企業の成長に大きく影響していることを知るには、従業員の生涯価値(ELTV=Employee Life Time Value)を考える必要がある。ELTVとは、従業員が入社してから退職するまでに生み出す価値の総和だ。横軸に時間、縦軸にアウトプットを取り、その面積を最大化することこそが、今日の経営に課せられた課題だと友部氏は語る。従業員にとっても、ELTVが小さいまま転職を繰り返すことは、あまり幸せとは言えない。ELTVとは、企業と従業員の双方にとって重要なコンセプトになっている。

ELTVの概念。横軸に時間、縦軸にアウトプットを取り、その面積を最大化することが求められている

「やることはシンプルに2つ。縦軸を伸ばすか横軸を伸ばすかしかありません」(友部氏)。経営施策の優先順位を検討する際は、縦と横のどちらに効く施策なのかを意識すべきだ。このELTVが、従業員の数だけある。その総和が、企業の中長期的なバリューということになる。

RE:WorkLab Special Panel Discussion - 02

ポーラが見出した「7つのティップス」とは?

ウェルビーイングを意識している企業は、どのような取り組みをしているのか。

前野氏は「まずは、コミュニケーションの活性化だ」と述べた。結論を求める会議のようなコミュニケーションではなく、雑談のような業務に直結しないコミュニケーションが重要だという。それによって生まれる人間関係が、結果として生産性の向上や組織の一体感につながる。

前野氏はポーラの事例を紹介した。ポーラには、全国に2800店舗、2万3000人の「ビューティーディレクター」がいる。同じサロンで同じ商品を展開していても、店舗によって成果が異なる。結果を出しているオーナーを調べた結果、共通点が見られた。これを「7つのティップス」と呼び、重要な価値と捉えている。

ポーラが店舗で成果を出しているオーナーを調査して見出した「7つのティップス」

猪瀬氏は「リモートワークの大きな課題は、疎外感だ」と話す。会議室にいる人は、その場の雰囲気やメンバーの表情、動きなどをリアルに感じられるが、リモートで参加している人には空気感が伝わりにくく、疎外感を与えることがある。

「そうした課題は、テクノロジーで解決できます」(猪瀬氏)。例えば、ロジクールは「ロジクールSight」という人工知能(AI)を内蔵したカメラを提供している。発言者をAIが自動認識し、その人の映像を自動的に拡大表示する。これにより、発言者の表情やしぐさがよくわかり、リモートで参加している人にも現場の空気感が伝わりやすくなる。「わずかな投資で課題は解消できます」と述べた。

「ロジクールSight」のイメージ。AIが発言者を自動認識し、拡大表示することで臨場感を高める

昨今、友部氏が顧客企業から受ける相談の多くが「経営層にどう説明したらよいか」だ。1つは、ウェルビーイング施策のコスト面の話はしやすいが、効果の面で説得力のある説明が難しいことだ。「従業員がこう変わる」とは言えても、どのようなメリットを生み出すかを説明するのが難しい。もう1つは、すでに実行している施策の効果を測定できないため、継続か中止かの判断が難しいことだ。

友部氏は、いくつかの提案をしている。「例えば、高性能なカメラがあれば、会議中に誰がどれくらい発言しているか、メンバーがどのような表情をしているかを測定し、解析可能になります」(友部氏)。テクノロジーが進化し、測定できなかったものが可能になっている。さらに、そうしたデータを定期的に取り、蓄積していけば、時系列的な変化を把握できる。「生産性を表す指標の変化との相関関係を見れば、その施策が効果を発揮しているかどうかがわかります。つまり、継続すべきか中止すべきかの判断がしやすくなるわけです」と友部氏は述べた。

RE:WorkLab Special Panel Discussion - 03

「幸せ」の概念は、すでに可視化可能になっている

猪瀬氏が前野氏に尋ねた。「ウェルビーイングを理解できていない人に、その重要性を話してもなかなかわかってもらえません。どのような説得方法があるでしょうか」(猪瀬氏)。

前野氏は、「幸せという概念は、目に見えません。しかし、研究によって様々なことがわかってきました」と答えた。「幸せ」という概念は曖昧であり、宗教や哲学が扱う領域だった。しかし1980年頃から、心理学の分野で研究が進んだ。効果的なサーベイで定性面と定量面のデータを取り、全体の傾向を把握する手法が確立されている。

ある介護系の企業では、様々な施策の前後で従業員の幸福度を測定し、どの取り組みが効果的かを判断している。従来は、そうした判断に数年かかると考えられていたが、やり方次第では1年ほどで結果が出せることもわかってきた。そうした事例を活用することで、論理的な説得が可能になっている。

ディスカッションのまとめとして、前野氏は「まずは自分のウェルビーイングを整えてください。元気よく挨拶するとか、人への思いやりを伝えるなど、勇気をもって実践してください」と述べた。

猪瀬氏は「働き方は確実に変化しています。もはや、コロナ禍の前には戻れません。過去へ戻そうとするのではなく、新たな働き方に挑戦しましょう。それを支えるのが、テクノロジーです」と語った。

友部氏は「自分のパフォーマンスとその時のエンゲージメントを定期的に記録しましょう」と話した。例えば、今のやる気は「5段階の3」とか、毎週でも毎月でも良いから記録する。データが1年間溜まると、自分の働き方が見えてくる。どういう時に幸福感が高まり、どういう時にパフォーマンスが上がるのか。それがわかれば、自身のパフォーマンスを高める方策も検討可能になる。

最後に小林氏が「ウェルビーイングと働き方について、いくつもの気づきがありました。視聴者の皆さんのウェルビーイング経営に生かしていただきたいと思います」と述べ、ディスカッションをまとめた。

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