Volume 31, Issue 9 p. 345-352
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小児におけるCOVID–19の特徴と救急診療上の注意点(Characteristics and considerations in the medical treatment for COVID–19 in children)

今井 一徳 (Kazunori Imai) (今井 一徳)

Corresponding Author

今井 一徳 (Kazunori Imai)

名古屋市立大学病院救急科(Clinical Department of Emergency Medicine, Nagoya City University Hospital)

名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野(Department of Pediatrics and Neonatology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences)

〒467-8602 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1

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松嶋 麻子 (Asako Matsushima) (松嶋 麻子)

松嶋 麻子 (Asako Matsushima)

名古屋市立大学病院救急科(Clinical Department of Emergency Medicine, Nagoya City University Hospital)

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齋藤 伸治 (Shinji Saitoh) (齋藤 伸治)

齋藤 伸治 (Shinji Saitoh)

名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野(Department of Pediatrics and Neonatology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences)

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First published: 06 September 2020

要旨

ja

 小児における新型コロナウイルス(SARS–CoV–2)による感染症(COVID–19)は,軽症患者が圧倒的に多く,重症化する割合や,死亡の割合は非常に小さい。重症化した小児では,喘息を含む慢性肺疾患,心血管系疾患,免疫抑制状態の患者が多く,基礎疾患をもつ小児では特に注意を要すると考えられている。最近,小児COVID–19の確定または疑い患者において,肺炎像がないにもかかわらず,長引く発熱,腹痛,心機能低下などを伴い,強い炎症反応を呈する症例が報告されているが,SARS–CoV–2感染との関連はまだ不明な点が多い。小児の特徴として不顕性感染が多く,家族内や地域,医療機関において感染源となることが懸念されている。救急医療の現場では不顕性感染の可能性を考慮した感染予防策が必要である。一方,感染予防対策としての外出制限や休校措置は,健康な小児に対し,予想を超える精神的・身体的な影響を及ぼしている可能性がある。身体症状を訴えて受診するなかに精神的なサポートを必要とする小児や,社会的に孤立し救急外来への受診が唯一の社会的接点になっている小児がいる可能性を考慮して,必要に応じソーシャルワーカーなど多職種と連携して対応することが重要である。

ABSTRACT

en

It is rare for children to be in serious condition or die from Coronavirus disease 2019 (COVID–19) due to the 2019 novel coronavirus (SARS–CoV–2) except for those with underlying diseases such as chronic lung disease (including asthma), cardiovascular disease and immunosuppressive disease. Recently, patients with hyperinflammatory shock have been identified among children who are confirmed or in suspicious of SARS–CoV–2 infection. The presenting signs and symptoms are characterized by prolonged fever, abdominal pain and cardiac involvement without any signs of pneumonia on chest CT. However, it is uncertain at this time whether SARS–CoV–2 infection affects this syndrome. Compared to adults, quite a few children are asymptomatic even when infected with SARS–CoV–2, which could make these children serious sources of infection at home or in medical institutions. Considering these characteristics, it is important to take appropriate precautions during medical examinations and perform infection control in emergency departments to save the lives of both children and adult patients. Most healthy children are suffering huge stress due to restrictions against going outside and school closures as social means to control infection. It is possible that children are socially isolated when they come to the emergency department and they might need mental or social supports even if they complain about their physical condition. Healthcare providers are required to examine the children’s circumstances carefully and cooperate with other multi–professional health workers properly.

はじめに

2019年12月,中国武漢から新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS–CoV–2)による感染症(the novel coronavirus disease 2019: COVID–19)が報告された。その後,SARS–CoV–2による感染は全世界に拡散したが,初期の報告では,小児患者は確認されず,感染者の半数以上が60歳以上であったことから,小児は感染しないか感染しても非常に軽微な症状である可能性が指摘された 1。その後,小児についても病態や疫学の報告が出されており,小児COVID–19の特徴が明らかになってきた。

今回,小児COVID–19の特徴とCOVID–19のパンデミック下における小児救急診療での注意点について,2020年6月10日時点で発表されている文献と疫学データを基にまとめた。文献検索は2020年6月15日時点でPubMedのWebデータベース上に登録された論文を対象に,COVID–19,SARS–CoV–2,childrenを検索用語として検索し,調査報告,システマティックレビューおよび症例報告から臨床的意義が高いと思われる論文を著者らの主観的判断で取り上げた。症例報告はできるだけ症例数が多い報告を優先した。また,社会施策が経時的に変化していることを鑑み,厚生労働省,the World Health Organization(WHO)などの公的機関が公表する疫学データや,日本救急医学会,日本小児科学会などの関連学会のホームページ上に掲載された指針も引用した。

本論文は総説であるため,倫理審査は行っていない。

小児におけるCOVID–19の臨床像

1. 感染者数

各国からの報告では,COVID–19患者(PCR陽性患者)のなかで小児は全体の0~5%程度であり,小児の患者数は非常に少ないと考えられている 2, 3, 4。日本国内でPCR陽性が確認された患者は,チャーター便帰国者,空港検疫での陽性例,ダイアモンド・プリンセス号での陽性例を除いて17,051人で,そのうち10歳未満は284人(1.7%),10歳台は418人(2.5%)である(Fig. 15。COVID–19に対するPCR検査施行率は国によって異なるが,これらのデータと比較すると,本邦における小児COVID–19患者数の割合は各国と大きな差はない。また,小児においては,1歳未満から10歳台後半まで幅広い年齢層で患者が報告されており,年齢による罹患率の違いはないようである(Table 16, 7, 8, 9

Details are in the caption following the image

Age distribution and percentage of critically ill and fatal cases by age group of COVID–19 patients in Japan (as of 6 pm. on June 10, 2020) 5.

critical: patients requiring mechanical ventilation or in the ICU

Table 1. Age distribution of pediatric patients with laboratory–confirmed COVID–19.
Country United States 6 China 7 Italy 8 China 9
Data collection Data reported to CDC Children treated at Wuhan Children’s Hospital 17 pediatric emergency departments Data reported to Chinese Center for Disease Control and Prevention
Study period Feb 12 – Apr 2, 2020 Jan 28 – Feb 26, 2020 Mar 3 – Mar 27, 2020 Jan 16 – Feb 8, 2020
Number of patients* 2,572 171 100 731
Median age, yrs., (range) 11 (0 –17) 6.7 (1 day – 15 y.o.) 3.3 (0 – 17.5) 7 (N.D.)
Age distribution, y.o., no. (%) 15 – 17 813 (32%) 15 – 17 157 (21%)
10 –14 682 (27%) 11 – 15 42 (25%) 11 – 17 24 (24%) 11 – 15 180 (25%)
5 – 9 388 (15%) 6 – 10 58 (34%) 6 – 10 21 (21%) 6 – 10 171 (23%)
1 – 4 291 (11%) 1 – 5 40(23%) 1 – 5 35 (35%) 1 – 5 137 (19%)
<1 398 (15%) <1 31 (18%) <1 40 (40%) <1 86 (12%)
  • *All cases were confirmed by laboratory testing.
  • CDC: Centers for Disease Control and Prevention, N.D.: not described

2. 感染経路

中国からは,1か月から17歳の小児COVID–19確定患者28人において,全員が家族内の感染クラスターに属するか,感染者との濃厚接触を認めたと報告された 10。一方,105人のCOVID–19確定患者と接触のあった同居家族392人を追跡した報告では,家族内での二次発病率は16.3%であったが,このうち18歳未満の小児では4%で,成人(17.1%)に比べ有意に低かった 11

SARS–CoV–2の感染経路は,飛沫・接触感染に加え 12,エアロゾルによる感染の可能性も指摘されている 13。潜伏期間は5~6日間程度とされ,当初は,症状が出た直後にウイルスの排泄量は最大になると言われてきたが 14, 15,最近,発症の2~3日前からウイルスの排泄量は増加し,発症の0.7日前にピークとなることが報告された 16。小児においても,母親がCOVID–19と診断された無症状の乳児において,母親と変わらない程度のウイルス量が鼻咽頭から排泄されていたとの報告がある 17。SARS–CoV–2に感染した小児は,無症状であっても長期にウイルスを大量に排泄し,潜在的な感染源となる可能性が示されている。

世界的に休校措置がとられている影響で,今のところ小児の感染は家族内の二次感染が中心だが,今後は,学校再開に伴い小児の感染患者数が増加する可能性や,無症状の小児を媒介として感染が拡大する可能性が懸念されている。

3. 臨床症状

COVID–19患者3,600人を対象としたメタアナリシスでは,発熱(83.3%),咳嗽(60.3%),倦怠感(38.0%)が頻度の高い臨床症状だったが,無症状の患者も5.8%であったと報告されている 18。小児においてもCOVID–19に特異的な所見はないが,個々の症状の出現割合は成人のそれより低い傾向にある(Table 26, 7, 8, 9。また,小児COVID–19患者171人のうち,27人(15.8%)が無症状かつ放射線検査で肺炎像を指摘できなかったとの報告もある 7。小児では成人に比較して,SARS–CoV–2に感染しても症状が出現しにくく,無症状で経過する割合も成人に比べて高い可能性がある。

Table 2. Signs and symptoms of adult and pediatric patients with COVID–19.
Country United States 6 China 7 Italy 8
Data collection Data reported to CDC Children treated at Wuhan Children’s Hospital 17 pediatric emergency departments
Study period Feb 12 – Apr 2, 2020 Jan 28 – Feb 26, 2020 Mar 3 – Mar 27, 2020
Adults Children Children Children
Median age, yrs., (range) N.D. (18 – 64) 11 (0 – 17) 6.7 (0 – 15) 3.3 (0 – 17.5)
Number of patients * 10,944 291 171 100
Fever 71% 56% 42% 54%
Cough 80% 54% 49% 44%
Shortness of breath 43% 13% N.D. 11%
Myalgia 61% 23% N.D. N.D.
Runny nose 7% 7% 8% 22%
Sore throat 35% 24% N.D. 4%
Pharyngeal erythema NA NA 46% N.D.
Headache 58% 28% N.D. 4%
Nausea/Vomiting 16% 11% 6% 10%
Abdominal pain 12% 6% N.D. 4%
Diarrhea 31% 13% 9% 9%
Fatigue N.D. N.D. 8% 9%
Tachypnea on admission N.D. N.D. 29% N.D.
Tachycardia on admission N.D. N.D. 42% N.D.
  • *Patients with signs and symptoms of COVID–19 confirmed by laboratory testing.
  • CDC: Centers for Disease Control and Prevention, N.D.: not described

4. 検査・画像所見

成人のCOVID–19確定患者について,初診時のPCR検査とCT検査による感度はそれぞれ84.6%,97.2%であったとの報告がある 19。CT検査所見では肺野背側および末梢側に出現するground–glass opacification(GGO)とよばれる間質陰影が特徴といわれるが 20, 21,さらに小児の特徴的所見として,肺葉をまたがず,より限局した範囲に淡い陰影として出現するGGO 22や,haloを伴う浸潤影 23が報告されている。15歳未満のCOVID–19確定患者15人において,無症状であった8人のうち7人(初診時4人,経過中3人)にGGOを認めたという報告もあり 24,小児においてもPCR検査とCT検査を合わせて用いることでより感度の高い診断ができる可能性がある。

血算や一般生化学などの血液検査所見は,小児においてもCOVID–19に特異的な所見はなく,ウイルス感染に伴う非特異的変化を認めるのみである 7。このため,血液検査の結果からはSARS–CoV–2の感染を診断することは現時点では困難である。

このようにSARS–CoV–2の感染に対し感度・特異度が高い検査は限られているうえ,小児の重症化は稀で,現時点で有効な治療法がないことから,小児におけるPCR検査の対象は,濃厚接触歴があり症状から感染が疑われる場合,集団感染が疑われる場合,原因を特定できない肺炎または呼吸窮迫を伴う場合とされ,これらに該当しない無症状者や軽症者に対する検査は推奨されていない 25

5. 重症化の割合・死亡の割合

COVID–19による全年齢の患者の死亡割合は,全世界5.6%と報告されている 5。中国からは,PCR検査で診断が確定されたCOVID–19患者44,672人の重症度について,呼吸不全を伴う重症肺炎14%,呼吸不全・敗血症性ショック・臓器不全5%,死亡2.3%(9歳以下の死亡例はなし)だったと報告されている 2。本邦では,全体の死亡は920人(5.4%)で,19歳以下の死亡は報告されていない(Fig. 15

PCR検査でCOVID–19と確定された小児患者の重症度と死亡患者数の報告をTable 3に示す。15歳以下の小児患者171人において,集中治療室での管理を必要としたのは基礎疾患を有する3人(1.8%)であり,腸重積を合併していた1人が死亡したと報告されている 7。また,18歳以下の小児患者731人において,無症状12.9%,呼吸器症状のみ43.1%,肺炎41%,低酸素血症 2.5%,急性呼吸窮迫症候群または臓器不全 0.4%だったという報告もある 9。さらに,米国からの報告では,17歳以下の小児患者745人について,入院147人(19.7%),ICU入室15人(2.0%),死亡3人(0.4%)であり,1歳未満の乳児も95人(入院59人,ICU入室5人)であったと報告されている 6。この中で既往歴と経過が把握できた295人(入院37人,外来258人)では,入院患者28人(77%)において慢性肺疾患(喘息を含む),心血管系疾患,免疫抑制状態などの1つ以上の基礎疾患を有していたが,外来患者では基礎疾患を有していたのは30人(12%)に過ぎなかった。

Table 3. Summary of studies on the severity of pediatric COVID–19.
Country Japan 5 United States 6 China 7 China 9
Number of patients 702 745 171 731
Age, yrs. ≤19 ≤17 ≤15 ≤17
Number of deaths 0 3 (0.4%) 1 (0.6%) N.D.
Severity of disease
Severe* 0 (0.0%) 15 (2.0%) 3 (1.8%) 21(2.9%)
Moderate** 702(100%) 147 (19.7%) 140 (81.9%) 298 (41%)
Mild*** 580 (77.9%) 314 (43.1%)
Asymptomatic 27 (15.8%) 94 (12.9%)
  • * Severe: patients who were treated in the ICU or required mechanical ventilation or ECMO.
  • ** Moderate: patients who were treated in a general ward.
  • *** Mild: patients who had symptoms of acute respiratory tract infection but did not require hospitalization.
  • N.D.: not described

重症化した小児について,米国とカナダの小児ICUに入室した48人の報告(年齢の中央値13歳)では,48人中40人に基礎疾患を認め(うち24人には複数の基礎疾患を認めた),最も頻度が高い基礎疾患は免疫不全/悪性腫瘍の11人だった 26。また,発達遅延や遺伝的異常により気管切開などの処置を受け,長期に渡る医療的ケアを要する児が19人含まれていた。48人中18⼈に⼈⼯呼吸器を導⼊,1⼈にECMOを導⼊していた。11人に2臓器以上の臓器不全を認め,2人が死亡したと報告されている。

小児においてはCOVID–19による重症化の割合・死亡割合とも成人に比べ非常に低いが,特に基礎疾患を有する小児では,重症化してICU での管理を要する患者も一定数存在するため,注意深い経過観察が必要である。

6. COVID–19に関連した全身性炎症症候群

2020年4月,イギリスより小児COVID–19の確定または疑い患者において,肺炎像がないにもかかわらず,発熱,皮疹,結膜炎,末梢の浮腫,四肢に広がる痛み,著明な消化器症状を伴い,急速に血管拡張性ショックに進展する症例が報告され,SARS–CoV–2と川崎病(Kawasaki disease: KD),KD shock syndrome(KDSS),toxic shock syndrome(TSS)との関連が推測された 27。2020年6月現在,米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)はmultisystem inflammatory syndrome in children associated with COVID–19(MIS–C) 28,欧州CDCはpaediatric inflammatory multisystem syndrome temporally associated with SARS–CoV–2 infection(PIM–TS) 29と,本病態を定義し,症例の集積を開始している。

PIM–TSの定義に合致した58人について,KD,KDSS,TSSと病態を比較した報告によると,PIM–TSの定義を満たした小児の年齢の中央値は9歳(男性43%)で,KD 2.7歳,KDSS 3.8歳に比し有意に高かった 30。58人中15人(26%)が経過中にSARS–CoV–2に対するPCR検査が陽性となり,抗体検査を行った46人中40人(87%)でSARS–CoV–2に対する血清IgGが陽性であった。症状については,発熱(100%),嘔吐(45%),下痢(52%),皮疹(52%),結膜充血(45%)などの非特異的症状が中心であり,呼吸器症状を認めたのは12人(20%)だった。血液検査ではCRP,フェリチンなどの炎症性マーカーの著明な上昇を認め,58人中29人(50%)では心筋逸脱酵素の上昇を伴う心原性ショックを呈した。58人中13人がAmerican Heart AssociationによるKDの定義を満たし,そのうち8人(14%)では冠動脈の拡張が確認された。

MIS–Cの定義を満たした35人(年齢の中央値10歳)の報告では,咽頭スワブによるPCR検査または血清学的検査でSARS–CoV–2の感染が確定されたものは88%であった 31。33%の症例で左室駆出率が30%以下の心機能低下を示し,80%で強心剤投与,28%でECMOの導入が必要だった。冠動脈の拡張を認めたものは17%であった。

本病態ではKDに比べ罹患年齢が高く,アフリカ系,ヒスパニック系,カリブ系の人種の割合が多い。また,消化器症状が中心であり古典的なKDの症状を満たす症例は多くはなく,心臓に関しては冠動脈の変化よりも左室機能の低下が主病態であるなど,当初の指摘よりKDとは異なる特徴も報告されてきた 30, 31, 32。多くの症例でSARS–CoV–2感染または感染歴が指摘されているものの,PCR検査で感染を確認後,数週間経ってから本病態を呈する症例や,受診時の血清IgGが既に上昇している症例が存在している 33。本病態が,SARS–CoV–2が直接関係する病態なのか,SARS–CoV–2の感染によって何らかの免疫反応が惹起された結果生じた二次的病態なのかは今のところ不明であり,今後の症例の集積と病態の解析が必要である。

COVID–19のパンデミック下における小児救急診療での注意点

1. 院内感染対策

アメリカ心臓協会による暫定ガイドラインによると,救急医療においてエアロゾルが発生する手技として,胸骨圧迫,用手換気,気管挿管・抜管,気管吸引,high flow nasal cannula oxygen therapy,非侵襲的陽圧換気,気管切開,ネブライザーの使用が挙げられており,特に蘇生処置に当たっては陰圧個室で行うことが推奨されている 34

日本小児アレルギー学会は,エアロゾルの発生による感染伝播の可能性を考慮して喘息の治療目的でのネブライザーの使用はできる限り避け,スペーサー付きのmetered dose inhaler(MDI)を用いるよう推奨している 35。また,重症児や幼少児などMDIでの吸入が困難でネブライザーが必要な場合,十分な換気など感染伝播の可能性を考慮した対応が望ましいとしている。ただし,米国CDCは5つのコホート研究と5つの症例対照研究によるシステマティックレビューを根拠に,ネブライザーや高流量酸素投与が感染伝播のリスクを増すかどうかは不確実であるとしている 36, 37

SARS–CoV–2に感染した乳幼児を入院させる場合,患児とともに家族が感染者であれば,病状によっては家族も入院・治療を必要とする。また家族が非感染者の場合でも,多くの病院で患児が入院する感染病棟に立ち入ることはできない。乳幼児は全面的な介助を必要とし,行動抑制も困難であることから,家族による付き添いがない場合はケアを行う医療従事者への感染や院内感染の原因となるリスクが高い 38。このため,日本小児科学会は,軽症患児の自宅療養や入院時には保護者の付き添いを考慮することなど,診療に関する具体的な指針を提示している 38

2. 小児の精神的背景や虐待に対する配慮

感染拡大による外出制限や日常行動の制限に加え,休校措置による社会的なつながりの喪失は,「健康な」小児の生活リズムに変化を及ぼし,精神的・身体的に負の影響を与えている可能性が強く示唆される 39。感染隔離をされた小児では,隔離されなかった小児に比し外傷後ストレス症候群のリスクが4倍になるというも報告がある 40。また,小児をケアすべき両親の精神的,経済的な不安が,家庭内暴力や子ども虐待につながる可能性が指摘されている 41, 42。外出制限や休校措置はこれらの問題を家庭内に押しとどめ,被害を受けている小児を孤立させることが懸念される。

小児救急診療においては,子どもの病気を治すだけでなく,子どもにとってよりよい環境になるように,その家族や社会にまで働きかけていくこと(advocacy)が重要とされている 43。身体症状を訴えて受診する小児の中に精神的なサポートを必要とする小児や,社会的に孤立し救急外来への受診が唯一の社会的接点になっている小児がいる可能性を考慮して,診察する際には患者本人とその家族の言動を観察し,必要に応じソーシャルワーカーなど多職種と連携して対応することが重要である。

ま と め

現時点における小児COVID–19の特徴と救急診療での注意点をまとめた。重症化は少ないが,不顕性感染が多い小児は,家族や地域,医療機関において感染源となる可能性がある。一方,外出制限や休校措置は予想を超える精神的・身体的な影響を健康な子どもに及ぼしている可能性がある。救急外来の診療では,COVID–19感染症への対策とともに,必要に応じソーシャルワーカーなど多職種と連携し対応することが重要である。

本論文投稿に当たり,開示すべき利益相反はない。

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