医療法人を維持・発展させていくための選択肢 経営戦略としてのM&A。その効果とメリットとは?

2024年に医療・介護・障害福祉の診療報酬トリプル改定を迎えるヘルスケア業界。
慢性的な人材不足や求められる効率化など課題が山積する現状を打破する選択肢として、
M&Aを検討する医療法人が増えている。
医療法人のM&Aで豊富な実績を持つM&Aキャピタルパートナーズの企業情報部課長 三浦仁志氏に、
経営戦略としてのM&Aのメリットやスキームなどについて聞いた。

三浦 仁志氏

企業情報部 課長/ヘルスケア業界
プロフェッショナルチーム リーダー

三浦 仁志

欧州外資系製薬企業にて法人営業を経験の後、大手米国外資系企業にて医療コンサルティング業務に従事。直接医業承継課題に触れたことをきっかけに、ヘルスケア領域に特化したスペシャリティファームにキャリアチェンジ。多数のM&Aを支援し、M&Aキャピタルパートナーズへ参画。ヘルスケア、医療法人を中心としながらも幅広い業界のM&Aを手掛けている。

財務省の方針で示されている診療報酬マイナス改定の懸念

医療法人にとって、ヘルスケア業界を取り巻く環境変化への対応は大きな課題となっている。とりわけ最大の関心事の一つが、診療報酬改定なのではないだろうか。とくに2024年は6年に1度の医療・介護・障害福祉のトリプル改定となるだけに、改定内容に注目している医療法人経営者は多いはずだ。

今後の診療報酬改定を占う上で重要なヒントとなるのが、2023年11月に財務省が発表した財政制度等審議会財政制度分科会の資料だ。M&Aキャピタルパートナーズで企業情報部課長を務める三浦仁志氏は、同資料をこう読み解く。

「2024年度の改定では、従業員の給与アップを主な理由として、プラス改定されることが2023年12月に正式決定となりました。しかし、財務省の見解は、高齢化や医療の高度化などを背景に診療所の収益は増えており、将来的には診療所の初診料や再診料といった報酬単価を引き下げ、診療報酬本体をマイナス改定することが適当だというものです」(三浦氏)

過去の報酬改定を見ると、薬価がマイナス改定のためトータルとしてはマイナスとなっているが、診療報酬本体はプラス改定で推移してきた。財務省の資料で診療報酬本体のマイナス改定という方向性が示された点に関連して、重要なポイントがあると三浦氏は指摘する。

「財務省は診療所の経営状況が良好であるという前提で、医療従事者の処遇を改善する仕組みの構築を求めています。つまり経営者からすると、将来的には診療報酬が下がるにも関わらず、人件費は上がる可能性が高くなるという状況なのです」(三浦氏)

課題は他にもある。医師の働き方改革として、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用される。1人当たりの労働時間を減らすためには人員の拡充が必須だが、医療や福祉の有効求人倍率は他産業と比べても高く、慢性的な人材不足に陥っているという現実がある。

2010年度以降の診療報酬改定の推移

2010年度以降の診療報酬改定の推移

2010年度以降の診療報酬改定の推移を見ると、診療報酬本体がプラス改定、薬価等がマイナス改定。トータルではマイナス改定になっているのが分かる。2024年度の改定では、医療・介護従事者らの賃上げを主な理由としてプラス改定となったものの、財務省の資料には、将来的に診療所の診療報酬をマイナス改定とする方針が明記されている(図は2023年11月1日発表の財務省資料「社会保障」をもとに作成)

M&Aで診療と非診療業務を切り分けて効率化する

こうした流れを受け、業界の変化に対応し、医療法人を維持・発展させていくための経営戦略としてM&Aを検討する経営者が増えていると三浦氏は話す。

「従来からあった後継者不在問題解決のためのM&Aに加え、近年はとくに40代から50代の経営者様を中心に、経営戦略的な観点で提携したいというM&Aのご相談が多く寄せられるようになっています」(三浦氏)

では、実際にどのような課題があり、M&Aでどのような戦略が描けるのかを具体的に見ていこう。まずは、診療と非診療業務の切り分けだ。

「個人経営の医療法人では、医師が事務や経理も含めた経営的な面を見る必要があります。M&Aによって、例えば譲受法人側から経営管理のプロが入ることで、医師は非診療部分に手を煩わされることなく診療に専念できます。また、診療報酬改定が実施された際にどのような対策を打つべきかについても、的確な判断が下せるようになるでしょう」(三浦氏)

M&Aによる規模拡大は人材面においても、採用や教育、コスト削減、流出防止といったメリットが期待できる。

「一定規模以上のグループ経営となれば、採用する数が多いだけに有能な人材が集まりやすい傾向はありますし、採用した人材の教育研修や管理といった面でも、個人経営の医院と比べて効率的なのは言うまでもありません。また、ヘルスケア業界の離職理由で意外と多いのが人間関係ですが、グループ内に複数の医院があれば相性の合う医院に転籍させるなど、環境を変えることでグループでの人材流出リスクを下げることができます。結果的に、採用や教育にかかるコストの削減にもつながるでしょう」(三浦氏)

M&Aによる再編や規模拡大によるコスト削減は、人材に関するものだけにとどまらない。

「経営に必要な医療器具や消耗品の購入、DX、マーケティングなども、グループ一括で行うことでスケールメリットが生まれます。また、個人経営を長年続けてきた医院の場合、施設の老朽化に悩まれている例も少なくありません。M&Aによる経営効率化で利益が確保できるようになれば、建て替えや設備投資に資金を回すことも現実的に検討できるようになります」(三浦氏)

運営体制

従来の運営では、医療法人の経営者に経営負担がかかることになる。M&Aによって事務や経理を含む非診療業務を切り分けることができれば、本来の診療に集中できるようになるため、事務作業の負担軽減や医療サービスの向上、経営判断の精度向上といったメリットが生まれる

目的や条件を詳細に調整可能書面での条件提示までは無料

M&Aキャピタルパートナーズが支援する一般的なM&Aのスキームについても触れておこう。

「医療法人の場合は株式会社と違って資本と経営権がひも付いていないので、両方の譲渡を行います。資本については出資持分がある場合のみ譲渡し、経営権については社員総会の議決を経て社員の交代、必要に応じて理事の入れ替えなども行われます。もちろん目的や条件は様々なので、M&Aのプロフェッショナルである当社のアドバイザーが責任をもって最適なご提案をさせていただきます」(三浦氏)

M&A完了までの期間は案件によって差はあるものの、面談や条件提示といった初期フェーズで2~4カ月、詳細条件の調整や契約締結のフェーズで2~3カ月とのことなので、半年程度が一つの目安になるだろう。

「この間、医療法人の資産価値、経営陣や従業員の処遇、不動産の取り扱いといった細かい条件を調整し、ご納得いただいてから次のフェーズに移行していきます。譲渡先から書面での条件提示が行われるまでは料金は発生しませんので、お気軽にご相談いただければと思います」(三浦氏)

2024年度の改定ではプラス改定となったものの、今後、診療報酬マイナス改定が懸念される中、ヘルスケア業界にとってM&Aが成長をもたらす経営戦略になり得る。これは頭に入れておくべき情報であろう。