物語は、主人公の祐巳が、憧れの「紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)」の祥子から、突然「姉妹宣言」される騒動から始まります。
説明の必要があるでしょう。
リリアン女学園の生徒会は、山百合会と呼ばれます。幹部生徒たちは、「白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)」「紅薔薇さま(ロサ・ キネンシス)」「黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)」と呼ばれていおり、その妹は、それぞれ「白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・ アン・ブゥトン)「紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)」「黄薔 薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)」と呼ばれます。
物語は、さまざまな姉妹の関係を軸に展開します。少女たちの憧れや、悲しみ、喜び、さまざまな気持ちを、彼女たちの生活を通して豊かに細やかに描くのです。
少女が、先輩の少女に憧れ、お姉さまのちょっとした一言に傷ついたり、幸せになったり。
"少女同士の友情以上、恋愛未満の物語が、短編として連作で収められているおセンチな小説集です" これは、嶽本野ばら『ミシン』の中で、吉屋信子の『花物語』について説明している文章です。ですが、この説明は『マリみて』にもぴたりとあてはまります。
「姉妹」という固い絆で結ばれた、少女同士の友情以上、恋愛未満の物語集。
そうです。『マリみて』はエス小説の傑作『花物語』の現代バージョンなのです。(少女同士のこういった関係をエスと呼ぶそうです)
嶽本野ばらの『ミシン』もエス小説の傑作です。主人公はお気に入りの同性と、プラトニックに交わりたいという関係を切望する少女。だけど、彼女は"チビでデブでブスで、社交的でもなく性格は暗"いために、諦念が支配する殺伐とした青春をおくっていました。けれども、パンクバンドのボーカル、ミシンという名の少女をテレビで見たときから、彼女の人生は変わっていくのです。それは、傍目には破滅に見える方向へ……。『ミシン』が、ふたりの関係を守るために世界と戦うYOU&I; VS WORLDの物語なのに対して、『マリ見て』は、姉妹の関係だけで閉じてしまわぬように必死に戦っているYOU&I;&WORLD;の物語です。
『マリア様がみてる パラソルをさして』の104ページには次のようなフレーズが登場します。"でも、祥子さまと会わずにいる間に、いろいろな人と触れあって。世界は祥子さまと自分だけで構成 されているわけでなくて、同時進行でたくさんの人が生きているのだと気づいた" そういった視点が、このシリーズでは放棄されません。1冊の中に複数の短編が収録されている巻も多いのですが、無関係なエピソードではなく、ほとんど同じエピソードを違う視点で描いていたり、同時期に他の人がどのように感じていたりしたかを丹念に描いたものが多いのも、たくさんの人が同時進行で生きていることを表現したいためなのではないかと思います。
栗本薫『ウンター・デン・リンデンの薔薇』は、六道ケ辻シリーズの2冊目。良家子女の教育機関である青渓女学院に通う大導寺笙子と向後摩由璃お姉さまの交換日記が熱烈です。"摩由璃さま、摩由璃さま! いいえ、お姉さま!"(P39) 二人が交わす交換日記を軸に、これも他者から見れば破滅への道へと進んでいく少女たちの物語です。
映画ですが、『乙女の祈り』も二人の少女と世界の闘争の物語。医師により「同性愛」と診断され、交際を禁じられた少女たちの選んだ路は……。監督は、『ロード・オブ・ザ・リング』『ブレインデッド』のピーター・ジャクソン。夢で描かれる粘土細工のクリーチャーたちの映像も素晴らしい。
|