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デザイン担当者及び上級副社長、独占インタビュー
アップル、最新の魔法は、ハードとソフトの境界線を無くした
「Dynamic Island(ダイナミックアイランド)」

iPhone登場15周年の今年、新たに発表された上位モデル、iPhone 14 ProとiPhone 14 Pro Maxは、サイドボタンを押しても画面が消えない「常時表示」など、今後のiPhoneの操作の方向性を隠喩するマイルストーン的な製品に仕上がっている。

そのなかでも特に注目に値するのが「Dynamic Island(ダイナミックアイランド)」だろう。今回、この画期的な新機能を開発したAppleデザインスタジオのヒューマンインターフェースデザイン部門を率いる副社長のアラン・ダイとソフトウェアエンジニアリング担当の上級副社長、クレイグ・フェデリギに画期的新機能誕生の背景や、それを実現したAppleの開発体制について話を聞いた。

▲5年前のiPhone Xが採用したfluid interface以来、最大の変更がiPhone 14 Pro/14 Pro Maxで採用されたダイナミックアイランドだ。

iPhone X以来、最大の変化

ダイナミックアイランドを知らない人のために、最初に簡単に紹介しよう。最近のスマートフォンは、本体いっぱいに広がった画面の上端に自撮り用のカメラや赤外線カメラなどが組み込まれたセンサーが凝縮された黒い領域があることが多く「ノッチ(切れ込み)」などと呼ばれている。iPhone 14 Pro/Pro Maxでは、このセンサー領域を小型化し画面上端から切り離した。まるで画面の上に浮かぶ島(Island)のような形になっている。面白いのはここからだ。

▲iPhone14 Pro/Pro Maxの画面上のセンサー領域は小型化され画面上端から切り離された小島のようになっている。ユーザーがiPhoneを耳に当てて通話中かを認識する近接センサーは画面内に埋め込まれた。

なんとアップルはこの画面上の黒い部分に新たな役割を与えた。例えば曲の再生やタイマーでのカウントダウン、録音・録画操作や地図でのナビの設定をした後、アプリを切り替えると、切り替えられたアプリの画面がこの黒い領域に吸い込まれ進捗状況が表示される。またApple Payで決済をしたり、AirDropでファイルを受信したときも、この黒い領域からそれを知らせるアニメーション表示が飛び出してくる。これまでのノッチが、逆転の発想で、直観的で操作のわかりやすさを促す必要不可欠な要素に昇華されたのだ。

▲Apple Payでの支払いを顔認証で承認しているところ。ダイナミックアイランドから顔認証が成功したことを示すアニメーションが飛び出してくる。

ソフトウェア開発を統括するクレイグ・フェデリギは、この機能を次のように総括している。
「おそらくiPhone Xが出て以来、5年ぶりの大きな操作の変更です。5年前、われわれはiPhnoe Xでホームボタンを無くしました。これによりロック画面の解除やホーム画面への戻り方、アプリの切り替えの方法などiPhoneのさまざまな操作方法が根底から見直されました。今回の新機能もiPhoneの見た目を大きく変える変更であり、複数アプリの実行や通知、バックグラウンドで進行中の動作をどのように管理すべきかを改めて考えさせてくれました。今、自分のiPhone上で起きている出来事を、この小さくインタラクティブな1カ所に集約するということはわれわれにとってとてもエキサイティングな挑戦でした」。

インターフェースデザインを手がけたアラン・ダイが付け加える。「Appleではひとつの目的のために、ハードウェアとソフトウェアの担当パートナーが同じスタジオに集まって一緒に解決していきます。この新機能もハードとソフトの境目を見せずに、アラートや通知、進行中の動作をリアルタイムで表示するという目的を可能にしました。Appleらしい開発の好例だと思います」。

そもそもこの機能はどのように生み出されたのか。
ダイは言う。「Appleで、アイデアの源泉を辿るのは至難の業です。なぜなら、われわれの仕事は異なるグループの人々と重ねた膨大な議論の上に成り立っているからです。ただ、そうした議論のひとつにもし画面上のセンサー領域をもっと小さくできたら余剰のスペースで何ができるかというものがありました。ここ1年とかに出てきた議論ではなく、もっと何年も前から議論されていた話題のひとつです」。

そうした膨大な会話のなかでダイらデザインチームにはひとつの気づきがあったという。画面上端のノッチと呼ばれていたエリアの左右には現在時刻や電波状況、バッテリー残量などを表示するステータスバーと呼ばれる領域がある。
「よく考えるとこのステータスバーは狭い割に、ユーザーがいつも活用する重要な情報を提供する役割を担っているんです。1ピクセル辺りに込められたわれわれの頑張りが物凄く大きな効果を発揮するエリアになっています。そこで、どうせならこのエリアで何かもっとスペシャルなことをしようという話が出てきました。何かとてもエレガントで、それでいてひじょうに有用性が高い何かを」。

▲9月の発表会でダイナミックアイランドなどを紹介するアラン・ダイ。

ダイが、思い出したように付け足す。
「ブレーク・スルーとなった瞬間は、(ダイナミックアイランドの)アニメーションをステータスバーの領域だけにとどめる必要はないと気づいたときでした。例えばFace IDで顔認証に成功したとき、ダイナミックアイランドが一瞬だけ少し大きくなり、どんな操作をしているかを知らせます。これは大きなブレークスルーの一例で、使う人もその効果を感じてくれればうれしいです。なぜなら、この体験がとても滑らかで自然に感じるように、われわれはデザイン、エンジニアリングの両側面から細心のケアと技を注ぎ込んでブラシアップを重ねたからです。そこに静的物理的ハードがあることを忘れさせ、まるで全体が流体のようなダイナミックなソフトウェアだと思わせることがわれわれの目標でした」。

フェデリギもすかさず付け足した。
「(発表会が行われた)スティーブ・ジョブズシアターで、画面にこの機能が映し出され、センサーエリアが膨らんでステータス表示になった瞬間、会場全員が息を飲み静まりかえり、その後、「おー」と驚きの声があがったのを感じました。われわれがApple社内で初めてこの機能を目にしたときも同じでした。私個人はまるでiPhoneに命ある新しいアイデンティティが宿ったかのように感じました。アプリをスワイプアップすると、それを吸収してアイランドが少し膨らむ。とっても繊細なアニメーション効果ではあるのですが、それが擬人化とはちょっと違いますが、iPhoneに新しい強烈な個性と生命力を与えたと思います」。

ハードとソフトを融合する秘訣

筆者自身も発表を直に見ていて同じ感想を持った。ダイナミックアイランドが、ただのアニメーションではなく、魔法のように感じられる秘密は何なのだろう。

▲ダイナミックアイランド3態。通常はいちばん上の状態だが、音楽をバックグラウンドで再生すると真ん中の状態に。さらにそれを長押しするといちばん下のミニプレイヤーの表示になる。

ダイが答える。「それはわれわれがハードとソフトの境界線を消し去る良い仕事ができたということでしょう。多くの人はカメラがある部分もディスプレイの一部だと思っていて、この領域もタップして操作をしようとします。でも、実際にはそこはディスプレイではなく静電容量式タッチセンサーも組み込まれていません。なので、われわれデザインチームはハードウェアチームと密接に協力し、ユーザーがその部分をタッチしたときでもちゃんと認識されるように膨大な労力をかけました」。End