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女性アイドルはなぜ「謝らされる」のか?

ライターの武田砂鉄が、女性アイドルグループの「労働体系」について考える。 Words 武田砂鉄 Satetsu Takeda Illustration ワキサカコウジ Koji Wakisaka
女性アイドルはなぜ「謝らされる」のか

かつてアイドルグループAKB48に所属し、グループから卒業した面々の中ではもっとも活躍している川栄李奈が、昨年、出演したテレビ番組で、現在の女優業とAKB時代を比較しつつ、「今のこの(女優の)仕事って、次何の作品入ります、スケジュールこうですっていうのが大体先まで分かるんですけど、AKB48の時は前日の夜にスケジュールが分かるんですよ」(2018年11月20日放送「火曜サプライズ」・モデルプレス記事より引用)と述べていたのには、とっても驚いた。

現状はどうか知らないし、系列グループの中でも人気の度合いによって変化があるのだろうが、前日の夜にならないと明日の仕事が知らされていない状態って、労働者として、なかなか異様である。日によっては夜12時頃に伝えられることもあったという。あれだけ頻繁に表に出る仕事をこなす彼女たちが、その仕事内容を前日の夜に知らされる。笑顔だろうがボケだろうが涙だろうが、その都度、最適な振る舞いが求められる彼女たちの心労が想像できる。想像できるが、おそらくその想像を上回っているはず。

このグループからは、定期的に「体調不良」を理由に休業・脱退するメンバーが出てくる。総人数の分母から考えても多すぎる。その組織の根幹を問題視する動きはなぜか少ない。彼女たちは、組織の内から、そして外のファンや視聴者から、常に勝負をする存在であれ、との要請を受け続けている。ファンと、距離の近いコミュニケーションを繰り返す。いつも最適な笑顔と最適な対応を繰り返さなければいけない。そんな彼女らが、前日の夜に明日の仕事を伝えられているのだとすれば、相当な負荷が個々人にかかるに決まっている。

モーニング娘。の人気メンバーだった後藤真希が、昨年掲載されたインタビューでこれまたインパクトの強い発言をさらりと漏らしている。彼女らのグループでも、今と同じく誰かの「卒業」が話題になり続けていたが、エース的存在だった後藤が卒業する時にも大きく取り上げられていたことを思い出す。

その実情をインタビューで語る。卒業について、「本当に突然でした。いきなり『卒業するから』って言われて、その後のスケジュールも決まっていたんです」「そりゃあ、なんとも言えない気持ちでしたよ。でも偉い大人が言っているんだからしょうがないし、私にとって一番大切なのはファン。だからファンが嫌だと思っていることだけはやらないようにしようという気持ちでやっていました」(オリコンミュージックストア)

偉い大人から突然「卒業するから」と言われるなんて、そのころ放送されていた「電波少年」のごとき。いや、「電波少年」より大変だ。なぜならば彼女たちは、その場で驚いてもいけないからだ。

私たちは、という複数が乱暴ならば、私は、という単数に戻すけれど、酷使されているアイドルグループの労働体系なるものに相当な偏見を持ってきた。個々人に自由など与えられていないのだろうと邪推してきた。だが、その邪推が邪推ではなかったことを、先に引用した2つの発言が教えてくれる。明日、何をやるかわからないし、急に辞めることになったから、と告げられるかもしれないのだ。で、その動揺を、絶対にお客さんの前で見せてはいけないのだ。

1月上旬、NGT48の山口真帆が、男性2人に襲われたことを明らかにし、その事後対応を運営側が怠ったこと、グループ内部に犯人たちと通じている人がいることなどをSNSや動画配信によって激白した。昨年12月8日午後9時頃、山口の自宅玄関前に男2人が押しかけ、顔をつかむなどの暴行におよんだという。2人は、翌日、新潟県警に逮捕されたが、後に不起訴処分になった。山口自身は運営側が対応してくれるのを待っていたが、一向に対応してくれないことにしびれを切らし、涙ながらに「今回私は助かったけど、殺されたらどうするんだろうと思う」と訴えた。

その山口が、なぜか劇場公演の舞台で、迷惑かけてすみません、と謝らされることになった。謝るではなく、謝らされる、と書く。以前も、男性との交際が発覚したメンバーが坊主姿で謝らされた時、その非道さを原稿に記したら、ファンと思しき人から「謝らされたのではなく、自分から謝ったのです」という意見が届いたのだが、先に引用した記事を振り返ってみよう。こんな時に、「自分から謝る」を選べるだろうか。

彼女たち周辺のビジネスのやり方を批判する方法は形骸化している。形骸化しているけれど、新たな切り口を探す必要もない。肉体的にも精神的にも疲弊した個人が出てくれば、管理する大人たちは「体調不良」というハンコをおして、いつものアレです、と言わんばかりで立ち去らせる。それこそ、事件が発覚する前、山口は「体調不良」で休んでいた。言わずもがな、犯行に及んだ男性たちを許してはならない。だが、当人たちの自由を奪いながら、問題が生じた時に、当人たちに問題を押し付ける仕組みを継続している管理者たちに、繰り返し、それってどうなんだよ、と厳しく指摘しなければいけないと思う。被害にあった女性を謝らせたのだ。この罪の大きさに気づいているだろうか。いつまでやり過ごすつもりなのか。

Satetsu Takeda
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリーに。著書に『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』、『芸能人寛容論』、『日本の気配』など。多数の雑誌連載を持ち、インタビュー・書籍構成なども手がける。