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第11回 ─ ニューミュージック


掲載: 2007/03/22

ソース:『bounce』誌 284号(2007/2/25)

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

文/久保田 泰平

1 ニューミュージックの成り立ちと特徴

 え〜、今日の講義テーマは〈ニューミュージック〉。物の本によると〈1970年代前半のフォーク・ソング・ブーム以降、台頭してきたシンガー・ソングライターたちによって形成された音楽ジャンル〉と記されている。70年代前半といえば、極端な話、日本のメジャー音楽シーンには歌謡曲とフォークしかなかった時代なんだ。ロックはそれに比べるとまだまだアンダーグラウンドな存在だったようだね。ちなみにこの当時、歌手と作家が分業されているものを〈歌謡曲〉、自作自演のものを〈フォーク〉と、かなり乱暴に分けて呼んでいたんだな。しかし、新しい音楽や文化もどんどん輸入され、そういったものを貪欲に吸収した若者たちが頭角を現してくると、大雑把なカテゴリーには収まり切らないアーティストが登場しはじめるんだ。例えば荒井由実などがそうだったわけよ。彼女が書く歌詞やメロディーにはフォーク・ソングに見られたような日本人的ウェットさは少なくて、細野晴臣、鈴木茂らから成るキャラメル・ママによるバッキングも、アコースティック・サウンドをメインとしていたフォーク・ソングとは明らかに違うものだったんだ。かといって歌謡曲ともロックとも言えない。〈ニューミュージックという言葉を最初に言い出したのはどこの誰か?〉ということには諸説あるけれど、ニューミュージック=ユーミンというイメージで語られることは多いようだね。ニューミュージックはその後、80年代初頭ぐらいまで歌謡曲とは別の流れを築いたいちジャンルとして君臨していたわけだけど、サウンドの傾向ということで言えば、これといって限定できるものはないんだ。だけど、これから挙げるアーティストたちの作品には、歌謡曲とはニュアンスの異なるコマーシャリズムや、その時代特有のメロウネスやテンポ感が共通してあると思うんだな。まあ、何はともあれ実際にいろいろ聴いて確認してみることにしようか!

2 では、実際に聴いてみよう! その1


五輪真弓 『少女』 アルファ/ソニー(1972)
金延幸子『み空』と並んで、女性シンガー・ソングライターの草分け的作品だね。フォーク的ニュアンスの強い『み空』に対して、本作がニューミュージック的だと言えるのは、本場アメリカ仕込みのフィーリング……というか、タイトル曲ではキャロル・キングがピアノを弾いてるのよ!



井上陽水 『氷の世界』 ユニバーサル(1973)
大ヒットした“心もよう”を聴くだけでも、こりゃもうフォークじゃないな、って。洗練されたメロディーとアレンジ、そしてティン・パン・アレーやサディスティック・ミカ・バンド界隈の錚々たるメンツによる的確なプレイ。このセンスは玉置浩二、奥田民生に引き継がれていくわけで。



荒井由実 『ひこうき雲』 東芝EMI(1973)
ニューミュージックといえばユーミン。彼女がブレイクした頃あたりから〈ニューミュージック〉という言葉も躍り出したような気がするからね。キャラメル・ママの演奏、村井邦彦のプロデュース・ワークもさることながら、彼女が描く世界観は四畳半のアパートからは生まれ得ない。



チューリップ 『TULIP BEST』 東芝EMI(1973)
〈和製ポール・マッカートニー〉を自称する財津和夫が率いるチューリップ。“心の旅”“サボテンの花”といったヒット曲の数々はTVCMソングやカヴァーといった形でたびたび再生されてるよね。よりバンドらしくなった時期のヒット“虹とスニーカーの頃”は名曲だなあ。



中島みゆき 『愛していると云ってくれ』 ポニーキャニオン/ヤマハ(1978)
サウンドの先鋭性ということでいえば、初期の作品は少々時代遅れ感が拭えないものもあったような気がするが、今作は別。情念深いヴォーカルは当時から魅力的だけど、ラジオDJでの面倒見よさそうな甲高い声もファンに親しみを与えていたはず。



尾崎亜美 『ストップモーション』 東芝EMI(1978)
76年の初作『SHADY』が松任谷正隆プロデュースだったこともあって、〈ポスト・ユーミン〉の最右翼として注目された彼女。初のセルフ・プロデュース作となった本作では、ヴォーカリスト、ソングライターに加え、アレンジャーとしても特異な才能を発揮しているんだな。


2 では、実際に聴いてみよう! その2


アリス 『VII』 東芝EMI(1979)
名曲“チャンピオン”を収録した7作目。いまや逆さにしても顔になるようなルックスの谷村新司と、ウェストコースト的な乾いた感性も演歌歌手となって微塵も感じられない堀内孝雄。個性的な2人のヴォーカル&シンガー・ソングライターを擁したスーパー・グループ……で、もうひとりは誰だっけ!?



八神純子 『八神純子ポップ・ヒッツ』 ヤマハ 
70年代後半にはニューミュージックにもAOR的サウンドが反映されはじめたが、そこで思い出すのが彼女。ハイトーン・ヴォイスを武器に“みずいろの雨”“想い出のスクリーン”などヒット曲を連発。80年の“パープルタウン”には何とデヴィッド・フォスターの名が!



松山千春 『起承転結』 ポニーキャニオン(1979)
“初恋”“季節の中で”といったヒット・シングルばかりを集めた初のベスト盤。ちょっと神経質そうなルックスと、時折オンナ視点で語られる純な詞世界で、開通前の女子を中心に絶大なる支持を得た千春は、元祖〈サッカー好きを公言したミュージシャン〉でもある。



久保田早紀 『夢がたり』 ソニー(1979)
いわゆる〈一発屋〉と呼ばれ、1曲のヒット、そのインパクトだけを強烈に残して消えていくアーティストが多かったのもニューミュージック時代の特徴。彼女の場合、厳密に言えば81年の“オレンジ・エアメール・スペシャル”もそこそこ売れたけど、やっぱ“異邦人”なんだよね。



オフコース 『We are』 東芝EMI(1980)
美しいコーラス・ワークを武器とし、〈日本のカーペンターズ〉というフレコミで70年にトリオ編成でデビュー。その後、5人組のバンド編成になってからは、“さよなら”“Yes-No”などのヒットを飛ばし、ビッグネームの仲間入り。本作は彼らにとって初のNo.1ヒットとなったアルバム。



チャゲ&飛鳥 『熱風』 ワーナー/ヤマハ(1981)
中島みゆきや長渕剛らを輩出したアマチュア向けのコンテスト、通称〈ポプコン〉。ニューミュージック・ブームにもひと役買った同コンテストの入賞アーティストで、その後も活躍している最後の世代が彼ら。大陸的ムードのヒット曲“万里の河”を収録。


3 その後の流れと、現在の音楽シーンに見るニューミュージックの影響力

 80年代に入るとニューミュージックという言葉は徐々に使われなくなっていって、その筋の新人もめっきり減っていくわけだが、その影響は当時全盛だったアイドル・ポップにしっかり落とし込まれていった。象徴的なのは松田聖子で、ユーミン、財津和夫、細野晴臣、大瀧詠一などニューミュージック時代から活躍していたソングライターが彼女に楽曲を提供し、他のアイドルとは一線を画した魅力の原動力となったんだ。また、時期的にはニューミュージックに括られなかったが、陽水チルドレンの安全地帯や尾崎亜美チルドレンの杏里などは、こうした流れを汲むアーティストかな。
さて、最近はどうだろう? ニューミュージック、というか70〜80年代の日本のポップスが持っていたメロウ感やグルーヴ感、その魅力をかいつまんで、新鮮に響かせてくれるアーティストもちらほら現れているようだね。例えば、ミドル・テンポ主体のメロディアスなサウンドがニューミュージック感を醸し出している安藤裕子や、〈あの時代〉の洋楽のエッセンスと日本語の響きを匠の技で編み上げる冨田ラボとか。そういえば、つい先日、渡辺真知子が17年ぶりにニュー・アルバムを出したんだよね。77年のデビュー曲“迷い道”などのセルフ・カヴァーも良かったけど、新曲の“それでも I lo-ve you”が素晴らしい出来だったよ!
▼関連盤を紹介。
松田聖子の81年作『シルエット』(ソニー)
安全地帯の84年作『安全地帯 III 〜抱きしめたい』(ユニバーサル)
冨田ラボの2006年作『Shiplaunching』(ソニー)
渡辺真知子のニュー・アルバム『鴎30 〜海からのメッセージ〜』(ソニー)


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