日本のジャズ、高鳴る響き――新星台頭、ポップス界にも新風
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夜の雰囲気にジャズが溶け込む(渋谷区桜丘町のセルリアンタワー東急ホテル)
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ジャズの響きがボリュームを上げ始めた。シンガー・ソングライターの井上陽水が自分のヒット曲をジャズ風にアレンジしたアルバムを出すなど、ジャズを取り入れる動きが目立つ。いわゆる「Jポップ」でもジャズが隠し味になっている。新星、新世代の台頭もあって、日本のジャズは新たな進化を遂げつつあるようだ。
「飾りじゃないのよ 涙は」、「ダンスはうまく踊れない」、「最後のニュース」――。言わずと知れた井上陽水のヒット曲だ。しかし、最新のアルバム「Blue Selection」で聴くと、新しい曲の表情が感じられる。同アルバムは陽水初のジャズアレンジ盤だ。自らジャズ風に編曲し、新たにレコーディングし直した。
ただ、ジャズアレンジとは言いながら、実際には正統派のジャズシンガーが歌うような感じとは異なる。どちらかと言えば、歌謡曲風ジャズで、日本のポップスの歴史の中で消化されていった「ジャズ」への意識を感じさせる。
陽水は現在続いている全国ツアー「Blue Selection Tour」でもジャズアレンジを取り入れている。1月にはジャズクラブ「ブルーノート東京」のステージに初めて立った。大ホールでも満席になる陽水がこうしたクラブで演奏するのは異例で、陽水の「ジャズの聖地」への敬意を感じさせる。
2月23日に発表された、米音楽界最高の栄誉である第45回グラミー賞では、最優秀クラシカルクロスオーバーアルバム賞にジャズピアニストの小曽根真がノミネートされた。惜しくも受賞は逃したものの、日本人ジャズミュージシャンの本場米国での存在感をあらためて証明して見せた。小曽根は20年を超えるキャリアを持つベテランだが、ジャズの世界では近年、期待の新星、新世代の台頭がめざましい。
ジャズで楽器といえば、トランペットやサックス、ピアノが思い浮かぶが、寺井尚子はジャズバイオリニスト。1998年、CDデビューを果たした「Jジャズ」の旗手の1人だ。アルバム「アンセム」をリリースし、3月14日の大阪・サンケイホールを皮切りに全国9カ所を公演で回る。
ジャズボーカルではかつては阿川泰子、近年は綾戸智絵が有名だが、新顔も相次いで登場している。ケイコ・リーは日産自動車のテレビCMで、英国のロックバンド、クイーンのヒット曲「WE WILL ROCK YOU」を歌って注目を浴びた。男性R&Bデュオ「CHEMISTRY(ケミストリー)」の初のアルバム「The Way We Are」にも参加した。
日本人ジャズシンガーには海外からも熱い視線が向けられている。2月末にアルバム「akiko’s holiday」をリリースしたakikoはジャズの名門レーベル「ヴァーヴ」初の日本人女性歌手として2001年にデビューした。SHIHO(ボーカル)と横田明紀男(ギター)の男女2人組「フライド・プライド」も米国の名門ジャズレーベル「コンコード」からアルバムを出している。
男性ボーカルでは若手の小林桂が成長著しい。1999年のデビュー作がジャズでは異例の10万枚を超す売り上げとなった。女性ボーカルを思わせる天性のハスキー・ボイスが魅力だ。
これまでジャズのレコードは「5000枚売れれば成功」といわれてきたが、小林のアルバムは1作品10万枚クラスの売れ行きで、ケイコ・リーのベストアルバム「VOICES」は20万枚に迫る驚異的なセールスを記録した。新世代の「ジャズ者」は音だけでなく、ビジネスの面でもジャズの常識を覆しつつあるようだ。
(ニュース編成部 西村 顕治)