「メジャースポーツへの道」
発表者:大島健男(01DA036W),桑原(01DA074F),中村()
<初めに>
われわれの立てた仮説は、「スポーツが消費財化しているのではないか」ということであった。これは、近年スポーツが”消費の対象として”存在しているのではないかという考えに立ち、スポーツブームを消費社会論の論理で読み解いてみようという動機から出てきた仮説である。
この仮説を検証するため、われわれはさまざまなデータを用いて、スノーボード・サッカー・バスケットボールに見られるブームがどのような要因で発生したか、ということを考察した。以下にその調査結果をスポーツごとに順次載せていく。
<スノーボード>
・スノーボード人気の要因
表で示したように、近年スノーボードの競技者人口に、著しい変化がみられる。この点を考察してみたい。
スノーボードとスキーの競技人口の推移(単位:万人)
|
1990年 |
1995年 |
1998年 |
スノーボード |
7 |
40 |
416 |
スキー |
1290 |
1770 |
1020 |
【仮説の検証】
スノーボードのブームの背景を、消費社会論の論理で読み解こうと試みてみた。はじめはスノーボードブームの要因を、ゲレンデで見られるスノーボーダー特有のファッションや、各種メディアによって構築されたスノーボードを中心とするカルチャーに求め、それを裏付けるためのアンケート調査などを行い、さらにトリクルダウンセオリーや記号論などによる裏づけも行おうと計画した。
しかし、実際調査をしてみると、調査機関が短かったことや、”スノーボード経験者”というカテゴリーの調査対象者を、データとしての有効性を確保できるだけの人数集めることが個人では困難であったことなどから、十分な調査は行えず、スノーボードブームについては仮説を検証することができなかった。非常に心残りであるので、機会があればぜひリベンジを果たしたいと思う。
【新たな仮説】
そこで今回個人で調べられる範囲から、スノーボード人気の要因について、個別に新たな仮説を立ててみたいと思う。それは、「バブル経済の崩壊が、スノーボードブームを生んだ」というものである。
1)スキー客の推移
バブル経済全盛期、日本各地のゲレンデはスキーヤーであふれていた。好景気に沸く日本では豊かさの象徴として、スキーがブームになっていたからである。これを受けて、全国各地にスキー客をターゲットとした大型レジャー開発が進み、スキー場の数は激増した。正確な数の把握にはいたらなかったが、バブル期の前後で、全国のスキー場の数はおよそ2倍程度増加したようである。
ところがバブルが崩壊すると、スキーブームも終わり、人々のスキー場に行く頻度も落ちてしまう。これは、景気が悪くなったことで、スキーのように出費のかさむレジャーは敬遠される風潮が強まったことが要因として考えられる。このことは、表1に示した新潟県におけるスキー場入場者数の推移から見当がつく。バブル期からバブルが終わる91年まで、スキー場の入場者数は増加の一途をたどっていたが、92年をピークに右肩下がりが続き、現在はピーク時の半分程度にまで落ち込んでいる。しかしバブル期に増えたスキー場は減っているという現状が指摘でき、各スキー場にとっては新たな利用客の確保が重要な課題となっているのである。
表1
2)スキー客減少を補う対策としてのスノーボード
そこでスキー場が目をつけたのが、90年ごろ日本に入ってきた「スノーボード」の存在である。
スノーボードが日本に入ってきた90年前後、日本のスキー場でスノーボードの滑走を許可しているゲレンデはほとんどなかった。(正確な数字はわからないので、表2からの推測)この要因は、スノーボードがまだ日本に入ってきて日が浅く、人々に認知されていなかったということもあるが、それよりも大きな要因はスキー客からの苦情である。
スノーボーダーがゲレンデに現れ始めたころ、彼らの「ゲレンデの真中に座り込む」「リフトから飛び降りる」「滑走禁止区域をすべる」といった行為が、「危険だ」「迷惑だ」として、まだゲレンデにおいて圧倒的なマジョリティであったスキーヤーから多くの非難を浴びた。これを受けて、ほとんどのスキー場ではスノーボードを許可するどころか禁止して、スノーボーダーをゲレンデから締め出していた。ところが先に挙げたように、バブル経済が崩壊してスキー客が減ると、スノーボーダーを締め出していたスキー場に変化が見られるようになる。徐々に「スノーボード可能」のスキー場が増えていったのである。これは表2を見ればわかる。
ここから、バブルの崩壊によるスキー場利用客の減少をスノーボード客によって補おうとするスキー場の考えが伺える。
表2 スノーボード滑走可能箇所数の推移
区分 |
6年度 |
7年度 |
8年度 |
9年度 |
10年度 |
11年度 |
12年度 |
13年度 |
14年度 |
滑走可能箇所数 |
56 |
70 |
78 |
82 |
83 |
94 |
95 |
95 |
94 |
スキー場全体に占める比率 |
51.9 |
65.4 |
70.9 |
75.9 |
76.9 |
86.2 |
88.0 |
89.6 |
87.9 |
【結論】
以上の仮説の検証から、次のような結論が導き出される。
スノーボードブームの要因の一つに、バブル経済崩壊による人々のレジャー頻度が減り、スキー場利用客が減ったことが挙げられる。そしてその減少分を補うために、スノーボードの滑走可能なゲレンデを増やし、これがスノーボードブームを助長したのである。
もちろんブームの本質には、ほかにも若者をひきつける他の要因が挙げられるだろう。しかし、人気の高まりを見せつつあったスノーボードがブームたりえるには、皮肉にもバブル経済の崩壊という人々の消費生活上の大転換が必要不可欠だったといえるのである。
スポーツブームが、必ずしもメディアイベントやそのスポーツにまつわる副次的な要因(ファッションやヒーローの存在など)だけではなく、経済社会構造という、よりマクロな、より間接的な要因によってももたらされる可能性があるということは、大変に興味深いことである。
【参考HP】
・SIMSNOW http://www012.upp.so-net.ne.jp/sim/index.html
・長野県公式ホームページ「チャンネルながの」 http://www.pref.nagano.jp/index.htm
<サッカー>
日本において、サッカーはもともとそれなりに人気のあったスポーツと言えるだろうが、それがもっとも注目されるスポーツとして流行し始めたのは、1990年代ということが出来るだろう。その根拠としては、それまで社会人リーグであったサッカーが1991年(1992年から本格的に始動)にJリーグとしてプロ化され、さらに1993年にはW杯アメリカ大会予選の最終戦において、ドーハの悲劇として有名な敗戦を喫しその本戦出場の切符を逃したことで、サッカーに対する一般視聴者の意識が変わったことなどが挙げられる。ここでそれを裏付けるデータとして、下のグラフに注目して欲しい。
これはJリーグの年間総入場者数を全試合数で割ったものであり、一試合における平均入場者数の推移を示している。※1Jリーグ発足当初の1992年における平均入場者数は11,111人だったが、1994年においては19,927人にまで急増している。しかしその後平均入場者数は減少を続け、1998年において一旦は下げ止まりを見せたかと思われたが、2000年の時点で過去最低の8,635人を記録した。その後は徐々に回復し、2003年における平均入場者数は12,246人となっている。これはTVの視聴行動に関しても同様の推移を示している。(参照:http://www.videor.co.jp/data/ratedata/junre/11soccor.htm)※2
それではここで、先ほどのグラフと次の表を見比べて欲しい。
1992 |
Jリーグ創設 |
1993 |
W杯アメリカ大会予選(12月・ドーハの悲劇) |
1994 |
W杯アメリカ大会 |
1995 |
アトランタオリンピック予選 |
1996 |
アトランタオリンピック本戦出場 |
1997 |
W杯フランス大会予選 |
1998 |
W杯フランス大会本戦出場 |
1999 |
シドニーオリンピック予選 |
2000 |
シドニーオリンピック本戦出場 |
2001 |
toto(サッカーくじ)販売開始 |
2002 |
W杯韓国・日本大会本戦出場 |
これはJリーグ創設以降の、日本サッカーに関する主な出来事の年表である。この表と先ほどのグラフを照らし合わせると、Jリーグの観客動員数はW杯に関するイベントがある場合は著しく反応し、オリンピックにおいてはあまり反応していないということがわかる。また観客のJリーグ離れを懸念して創設されたtotoも、その効果がある程度あったことが見てとれる。しかし相対的に見てみると、日韓共催で行われた2002年のW杯後においても、Jリーグの人気はそれほど高まらなかった。このように、Jリーグは1994年をピークに、その人気を下げてきたといえるだろう。だが果たしてそれは、サッカーというスポーツに対する人気と比例しているのかといえば、一概にはそうではない。たしかにJリーグ発足当初においては、その人気はサッカー人気と比例していたと考えられるが、そうしたサッカー人気に乗り、CSチャンネルが海外クラブの試合を積極的に放送するようになり、またW杯やオリンピックにおいて日本代表が海外の強豪と対戦していくにつれて、海外のクラブチームに対する人気が高まっていった結果、Jリーグ人気に陰りが見えてきたというのは、すでに指摘されている通りであろう。それを裏付ける資料として、ここでトヨタカップの視聴率推移を参照してもらいたい。(参照:http://www.videor.co.jp/data/ratedata/program/soccor/toyota_c.htm)※2このトヨタカップ(別名UEFAチャンピオンズリーグ)は、欧州各国のクラブチャンピオンによるリーグ戦で、つまり欧州最強のチームを決定する大会である。当然日本のチームにその出場権はないが、世界レベルの試合を間近で見るチャンスであり、そのTV視聴率もやはり1992年頃から確実に上昇してきている。またW杯に関する視聴率についても同様で、サッカーに関する視聴率全体の底上げを認めざるを得ないだろう。(参照:http://www.videor.co.jp/data/ratedata/program/soccor/s_index.htm)※2そしてさらにサッカー人気が衰えていないことを示すために、次のグラフを見て欲しい。
このグラフはスポーツライフデータ(SSF笹川スポーツ財団調べ)の調査結果を元に推計した、サッカーの競技者人口の推移を示したものである。これを見る限り、おおまかな推移は“〜”の形状をしていて、Jリーグの平均観客動員数と似たものとなっているが、2002年において推定サッカー競技者人口は721万人となっており、過去最高を記録している点において、Jリーグのそれとは異なっているといえるだろう。
ここまで見てきたように、サッカー人気は1990年代に入り加速的に高まってきた。そしてそれはより売れるコンテンツを探していたメディアの目に留まり、メディアの広告戦略なども功を奏してさらにその人気を拡大し、放映権料の爆発的な急上昇という結果をもたらした。(参照:http://www.mainichi.co.jp/entertainments/sports/worldcup/newsWorld/0205/21-1.html)現代におけるサッカーを語るとき、それとメディアを切り離すことが出来ないのはこのためである。サッカーはすでにそのスポーツ的な意義だけではなく、消費社会の中で重要かつ高価な商品としての価値を与えられているのだ。
※1:Jリーグ公式HPのデータをもとに作成
※2:このデータの使用に際してはビデオリサーチ社の許諾を得ている
<バスケットボール>
日本におけるバスケットボールブームの背景とは?
バスケの競技人口の推移
年度 |
1990年 |
1995年 |
1998年 |
2000年 |
2002年 |
競技人口 |
約550万人 |
約640万人 |
約620万人 |
約645万人 |
約601万人 |
近年の日本におけるバスケットボールの競技人口の移り変わりは上の図のようになっている。1990年から95年の五年間で競技人口が、およそ90万人も増加している。これは数字的に十分ブームと呼べるだろう。この間どんな要因がバスケットボールの競技人口を押し上げたのだろうか。
まず、思い浮かぶのが人気バスケットボール漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』(作・井上雄彦)である。『スラムダンク』は、『週刊少年ジャンプ』誌上に1990年から96年まで連載され、テレビアニメが93年から96年まで放映された。『週刊少年ジャンプ』は、94年末に653万部を突破する発行部数を記録した。その記録の原動力ともいえるのが、当時人気絶頂で連載中であった『スラムダンク』である。『スラムダンク』の単行本は、91年2月に第一巻が発売され、全部で31巻刊行され、単行本の総発行部数が、一億部を突破するなど空前の大人気を博した。マイケル・ジョーダンらのスパースターのいるNBAブームが巻き起こったのも『スラムダンク』の影響が大きかったと思われる。『スラムダンク』とNBAブームの相乗効果で、中学・高校のバスケットボール部員は急増した。
同時に、バスケのファッションも注目を浴びた。特に、ナイキ社のバスケットシューズはブームになり、普段バスケをしない人でも、競って高額で買い求め、街中で履いて歩く姿が多く見られた。挙句の果てに、バスケットシューズを狙って窃盗、強盗事件まで発生した。
このような熱狂的なバスケットブームは、『スラムダンク』の連載が終わった頃から鎮静化したようだ。現在、中学校では、『週刊少年ジャンプ』に連載中の『テニスの王子様』の影響でソフトテニスが部員数を増やしている。その一方で、ブームの反動からか、中学・高校のバスケットボール部員が大きく減っている。しかし、それでも競技人口は90年と比べれば大幅に多い。それでは、その要因はなんであろうか。
考えられる要因は、NBAの根強い人気ではないだろうか。スポーツそのものをテレビ観戦する人だけでなく、ファッションとして格好良いと捉える人が増えている。その証拠に、多くのスポーツ雑誌が、ヒップホップミュージックやニューヨーク、ロサンゼルスの最新ストリートファッションと結びつけてNBAを紹介している。バスケットボールを普段あまりプレーしない人でもNBA選手の名前入りユニフォームとだぼだぼの服とを組み合わせて着て街中を歩いている。NBAのユニフォームやシューズだけでなく、NBAとは直接関係ない、ヒップホップミュージックやアメリカのストリートファッションまでも、NBAの格好いいイメージと関連付けられて、一つのブランドといったかたちで商品化されていると言える。
日本のバスケットボールは、いまいち国内での盛り上がりに欠けている。競技人口は減る傾向にあり、日本代表チームのレベルがそんなに上がっているとも聞かない。現段階では、スポーツそのものの魅力よりも、ファッション性という商品価値の高さで注目を浴びている面があるものの、そうした側面が、競技人口をある程度保つことに役立っているとは思われる。
<まとめ>
以上のように、スポーツブームが発生する背景にはさまざまな要因が考えられるが、それらに共通して見られる特徴はブーム裏側に巨大な利益をはらむマーケットが存在するということである。ブームのきっかけはわれわれの考えていた以上に多様であったが、スポーツが消費財化しているのではないかという点に関しては、われわれの考えていた通りであった。今日スポーツはそれ自体を楽しむものであると同時に、そこから生み出される巨額な利益を追求するための優良なコンテンツとして存在しているということは否定できないだろう。今後予想されるブームとしては、アイスホッケーのテレビドラマをきっかけとした、アイススケートブームではないだろうか。機会があれば今後のアイススケートリンクの入場者数の推移を追跡し、またアイスホッケーに関連するグッズの売上動向も追跡し、われわれが今回導き出した結論が正しかったかどうかということをさらに検証していきたい。