現生人類とその先駆けとなる初期人類の化石が見つかっているアフリカの遺跡の中で、年代が厳密に特定されているものは数少ない。今回の発見で、ジェベル・イルードはそうした希少な遺跡の一つとなった。
さらに、ジェベル・イルード遺跡の年代は、最近明らかになったホモ・ナレディ(南アフリカで発見された初期人類の一つで、奇妙な解剖学的特徴をもつ)の年代と重なっている。今回の発見により、同じ時期のアフリカに、大きく異なる人類が少なくとも2種生息していたことの証拠が得られた。(参考記事:「謎の人類ホモ・ナレディ、生きた年代が判明」)
モザイク的な進化
ジェベル・イルードの化石が現代的な顔と原始的な頭蓋をもつことから、ユブラン氏らは、現生人類らしい特徴は一度に進化してきたわけではなかったのだろうと提案する。ネアンデルタール人でも見られたように、現生人類は特徴ごとにモザイク的に進化してきたのかもしれない。(参考記事:「ネアンデルタール人と人類の出会いに新説」)
「現生人類は、新しい部品が完備した状態でショールームに飾られる自動車のニューモデルとは違うのです」とウッド氏。「現生人類の形態や行動のさまざまな部分は、徐々に現れてきたのでしょう」
ユブラン氏の研究チームは、今回の発見により、初期人類がアフリカ全域に広く分散していたこともわかると言う。彼らは、過酷な砂漠が周期的に住み心地の良い草原に変わる「グリーン・サハラ」の時期にアフリカ北部に広がったのかもしれない。ただし、ユブラン氏と共同執筆者のシャノン・マクフェロン氏は、現生人類がアフリカ大陸のどこで進化したのか、正確なところはまだわからないと強調する。
さらに、今回の発見からは興味深いジレンマも生じる。古人類学者は、ジェベル・イルード遺跡の化石人類をホモ・サピエンスの一部として扱うべきかどうかだ。