レビュー

USB DACでハイレゾもCD音源もネットワーク再生。3.5万円のNAS「Soundgenic」が快適

 CDやハイレゾなど様々な音源をまとめて管理し、スマートフォンやパソコンなどからの操作で聴けるネットワークオーディオ。その楽曲を保存するNASにおいて注目のモデルが登場した。手持ちのUSB DACを接続して再生でき、価格も抑えたアイ・オー・データ機器のオーディオ向け「Soundgenic(サウンドジェニック)」だ。

Soundgenic(HDD搭載「HDL-RA2HF」)

 外形寸法168×134×43mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトながら、オーディオ再生に特化した操作性や音質を追求。USB DACと組み合わせてネットワークオーディオプレーヤーとしても使えるのが特徴。2月発売の新製品だが、アイ・オーの直販サイトでは既に初回出荷分が完売したという人気ぶりだ。

SSD搭載の「RAHF-S1」

 使い勝手や音質に配慮したオーディオ用NASとしては、「fidata」(アイ・オー・データ機器)や「DELA」(メルコシンクレッツ)がオーディオファンの間で知られる。これらは徹底した音質設計や豊富な再生機能などが特徴的だが、数十万円という値段や、サイズ(設置面積)の大きさにより、“誰でも簡単に導入できる”わけではない。

 今回登場したSoundgenicは、fidataのソフトウェア技術を継承しつつ、2TB HDD内蔵の「HDL-RA2HF」は実売35,000円前後に抑えたのが魅力。さらに、オーディオ専門店向けモデルとして、静音性をさらに高めた1TB SSD搭載の「RAHF-S1」(実売83,000円前後)も用意されている。これらの製品で、実際にネットワーク再生が簡単に使えて、オーディオ用として納得のいく音質を奏でてくれるのかどうか試した。

USB DACとスマホで手軽にネットワーク再生を始める

 Soundgenicの本体は横置き型で、PC用で一般的な縦型のNASに比べると広いスペースが必要だが、実物を見ると片手にのる程度のサイズ。机のパソコンの横などにも置きやすい。

片手で持てるサイズ

 フロントパネルは、輝度を抑えたLEDとハイレゾロゴのみでスッキリしたデザイン。筐体は同社の既存製品より1.5倍分厚いという1.2mm厚の板金を使って制振対策を施し、ファンレス構造で静音性も追求している。表面はヘアライン仕上げで、他のオーディオ機器と並べても違和感なく馴染むだろう。

表面はヘアライン仕上げ

 背面には、電源ボタン、USB端子が3.0/2.0と2.0の2つ、1000BASE-TのLAN端子を配置している。底面には半球状のラバーインシュレーターを備え、外部振動がNASに伝わるのを抑制している。

背面
底面

 まずはUSB DAC再生で聴いてみる。ネットワークオーディオで一般的な「DLNA再生」を簡単に説明すると、曲を保存する「サーバー」と、選曲などの操作をする「コントローラ」、プレーヤーなどの「レンダラー」の3つを用意するのが基本だが、USB DACをSoundgenicに直結すれば、これらがサーバーとレンダラーになるので、ネットワークプレーヤー機器を持っていなくても、すぐに楽しめるのがメリットだ。手持ちのUSB DACがヘッドフォンアンプを内蔵していれば、ヘッドフォンを接続して聴けるし、他のコンポやアンプ内蔵スピーカーなどに音声出力して聴いてもいい。コントローラとしてはスマホやタブレットが使える。

USB DAC使用時の接続例

 「ネットワークオーディオは最初の設定が難しそう」と敬遠する人もいるかもしれないが、Soundgenicはオーディオ用NASを謳っているだけあって、再生までの準備も簡単。ネットワーク設定を特に意識することなく、音楽データを入れればすぐに使える。

 まずは音楽データをNASに保存する。Windows PCにある楽曲をコピーする場合は、PCと同じネットワーク内に、LANケーブルでSoundgenicを接続。

 Windowsの場合、データのコピーは対応ソフトの「LAN DISK コネクト」をインストールし、デスクトップに表示されるLAN DISKを実行。Windowsのエクスプローラ画面に表示された「RAHF」で始まる端末を選んで、その中の[contents]フォルダへ楽曲をコピーするのが基本的な方法だ。

ソフト「LAN DISK」を起動すると、contentsフォルダと設定画面が容易に開ける

 LAN DISK コネクトを使わない場合は、ネットワークのコンピュータ一覧にSoundgenicの型番と同じ「RAHF」で始まる端末が表示されていれば、それをダブルクリックするとcontentsフォルダが見える。メディア機器一覧からSoundgenicのIPアドレスを確認して、「\192.168.0.XX」とエクスプローラーで検索してもcontentsフォルダは参照できた。contentsフォルダに対して「ネットワークドライブの割り当て」を行なうと、Windowsの[コンピュータ]からも見える。

ネットワーク一覧からNASの型式をダブルクリックしたときの画面
ネットワークドライブの割り当てを行なった後の表示

 次は手持ちの楽曲をcontentsフォルダ内にコピーする。contentsフォルダ直下にはCDリッピングした音楽データのフォルダ「CD Library」や、ハイレゾ配信サイトのe-onkyo musicから自動ダウンロードされるフォルダ「e-onkyo」が作られる。後々の管理を考えて、筆者はMusicフォルダを作り、同フォルダ内にアーティストごとのフォルダ→アルバムのフォルダ→各楽曲データという構成で保存した。転送(書き込み)速度は、SSD/HDDともに70MB/s程度はキープしており、実用上まったく不便を感じない。

 データをコピーしたら裏面のUSB端子にUSB DACを接続。端子は2つの内どちらを使ってもいいが、USB 3.0/2.0と書いてある側を使用した。ネットワークオーディオは、スマホやタブレットにインストールしたコントローラーアプリを使って選曲・再生などを行なえる。

USB DAC「uDSD」をSoundgenicに接続

 スマホ/タブレットからの操作は、OpenHome(OpenHome Media)やDMR(Digital Media Renderer)に対応したアプリで行なえる。OpenHome対応のLINN KINSKY、Bubble UPNPや、DMR対応のNePLAYER などを既に使っている人は、これらのアプリでもSoundgenicを操作できる。今回は、手軽に使えるアイ・オー公式アプリ「fidata Music APP」とiPad miniを使った操作の流れを説明する。

 アプリをインストールしたスマホ/タブレットを、Soundgenicと同一のネットワークに接続。なお、動作検証済みのUSB DACはアイ・オーのサイトに掲載されているため、事前に確認しておくことをおすすめする。

 アプリを起動したら、iPadの左下に表示される[サーバー設定]からSoundgenic(RAHFから始まるサーバー名)を選ぶ。次に右下の[レンダラー設定]から、「RAHF」で始まる端末を選択する。

サーバー選択
レンダラー選択

 次はトップ画面からNASを選び、選曲方法を設定する。筆者がよく使うのはアーティスト検索とアルバム検索。聴きたい楽曲リストを表示させたら、[サーバー]から[プレイリスト]に楽曲を追加する。すぐに再生もできるが、続けて曲を聴くためには、楽曲追加をしてローカルプレイリストを作ってからの方がいいだろう。同リストは個別に保存してアプリから呼び出せる。操作に迷った場合も、使用方法はアプリ内のマニュアルにあるので、困った時に読めば慣れていけるだろう。

アプリからマニュアルも見られる

 USB DAC再生は、専用のネットワークプレーヤーやPCも要らないし、楽曲検索はアプリから快適にできる。選曲動作に待たされることもないのは、NASがプレーヤーを兼任していることも有利に働いているのかもしれない。アンプ内蔵スピーカーや、小型プリメインアンプ、コンポなどを既に持っている人にも特におすすめできる使い方だ。音量はアプリから変えられるが、USB DACやアンプ側にボリューム調節があればそちらを使おう。音量設定はアプリから無効にすることもできる。

 試聴用のUSB DACは、主にNuPrime製の「uDSD」を使った。ヘッドフォンで聴いたり、RCA端子からアンプに繋いでスピーカーでも試すと、uDSDならではの素直な音が心地よく聴けた。DSDのネイティブ再生も5.6MHzまで可能だった。SoundgenicからのDSD出力はDoP(DSD over PCM)のため、DAC側がDoPに対応していることが必要だ。

 なお、今回の試聴に使ったもう一つの機種であるMeridian「Explorer2」はMQA再生にも対応しているが、アプリ側で音量を100もしくは設定無効にしないと、MQA形式の楽曲はデコードできなかった。MQAはDACにネイティブで伝送することが必須のため、音量を初期値の100から少しでもいじるとMQAとしてDACが認識できないからだ。

Meridian「Explorer2」を接続

 実際に使ってみると、NASがネットワークプレーヤー代わりとなるのはとても便利。USB DACをNASに直結して再生する機能は、高級モデルを中心に対応が増えてはいるが、この価格帯で利用できることは、ネットワーク再生を手軽にする大きなポイントといえる。SoundgenicはDSD配信にも対応しており、組み合わせるDACをグレードアップすることでの将来性もある。

ホームネットワーク内の様々な機器で再生

 続いて、ネットワークプレーヤーを使用した再生も試した。OPPOのユニバーサルプレーヤー「BDP-103DJP」を使い、アンプへ同軸デジタルケーブルで接続した。

OPPO「BDP-103DJP」(左)で再生

 SoundgenicはカスタムされたTwonky Server 8を採用。筆者はオーディオ用NASの先駆けでもあるアイ・オーのNAS「RockDiskNext(2TB)」を愛用しているが、このRockDiskNextに比べて豊富なナビゲーションツリーに対応しており、表示する分類は好みに応じてカスタムできる。豊富な分類があるが、特に便利だと思ったのは、フォーマットで絞り込む方法。

 タグが付いてないことが多いDSDファイルは、普段はフォルダで管理/選曲しているが、膨大なフォルダに埋もれて見つかりにくいこともある。しかし、DSDの拡張子で絞り込めばどのフォルダに格納されていてもすぐ一覧にできる。再生は、慣れ親しんだOPPOのアプリで行なった。アプリの挙動については、RockDiskNextとほぼ変化無し。再生はまったく問題なく楽しめた。音質について詳しくは後述するが素晴らしいもので、コンパクトな外見からは想像も付かないハイクオリティな音を聴かせてくれた。

フォーマット検索もでき、DSDだけの抽出も可能

 NASならではの再生方法も試してみた。筆者の自宅には、防音室のメインシステム以外にもリビングにネットワーク対応のヤマハAVアンプ「RX-V483」を設置してNASのハイレゾを聴けるようにしている。防音室とリビング間は無線中継器を介して接続し、他はすべて有線接続だ。

リビングのAVアンプからも再生

 ルーターに接続したSoundgenicを、リビングのAVアンプ側でも認識。DSD 5.6MHzも192kHz/24bitも音切れなくスムーズに再生できた。ヤマハのコントロールアプリもサクサク動作。このようにNASを一台導入すれば、家庭内の対応オーディオシステムでどこでも聴ける。一度味わうとこの便利さからは離れがたい。

e-onkyoダウンロードやCDリッピングも

 このほかにも、Soundgenicにはオーディオ向けの便利な機能がいくつも搭載されている。特に嬉しいのがe-onkyo musicからの自動ダウンロードとCDドライブを直結してのリッピング(取り込み)。パソコンを使わなくても簡単に利用できて便利だ。

 e-onkyoダウンロードは、サイトにログインして[デバイス]からデバイス認証キーを取得。Soundgenicのメディアサーバー設定から認証キーを10分以内に入力すれば完了。ログイン情報の入力は不要だ。最新の購入分のみがダウンロード対象のため、以降は新しく購入する度に自動でダウンロードされる。スマホで購入している場合、外出先で買った音源が自宅に帰ったら既にNASに入っているので便利。筆者は、今までノートPCでダウンロードしてから有線でNAS直近のLANハブに接続しコピーするという操作を行なっていたが、なんともいい時代になったものだ。

 CDリッピングは、USB接続の外付けドライブを1台用意すればすぐに行なえる。今回は対応の薄形ドライブ「CDレコ(CDRI-LU24IXA)」を組み合わせて使用した。

アイ・オーのCDレコ(CDRI-LU24IXA)

 Soundgenicの設定から、リッピングの細かな内容を事前に設定できる。読み込み速度の設定はもちろん、FLACでは圧縮率の設定をしたり、Gracenoteに曲名などのタグ情報がないCDは「未登録楽曲を取り込む」に設定すればタグ無しでリッピングできたり、かゆいところをフォローする充実のカスタム性が魅力だ。今まで、デスクトップPCのドライブで取り込んで、それを一旦ノートPCに移してからNASにコピーしていた筆者にしてみればその差はかなり大きく、最短経路でNASに取り込める。

CDレコ(DVD/CDドライブ)をSoundgenicに直接つないでリッピング

 ちなみに、CDからリッピングしなくても、外付けドライブから直接再生する「CDトランスポート機能」も利用可能で、買ったCDなどをすぐ聴きたいときなどに便利。ドライブにセットしたCDに、Gracenote Music IDで取得した楽曲情報やアルバムアートワークを添えてネットワーク配信し、接続したUSB DACなどを経由して再生できる。

CD音源やハイレゾを高音質のまま再生

 ここまでは使い方を中心にレポートしてきたが、実際に聴いたHDDモデルとSSDモデルの音質インプレッションもお伝えする。聴き慣れた環境で比べるため、ネットワークプレーヤーはBDP-103DJPを使用した。

 まず、直接ドライブを繋いでCDリッピングした曲として、二人目のジャイナのアルバム「Friday Night」より「Night Flight」、佐藤嘉風の「TRULY TRULY DO」より「Because Of You」などを聴いてみる。解像感が高く、音像のディテールがクッキリと映えている。リバーブの消え際は極めてクリアで、聴き慣れたCDが生まれ変わったようだ。ソースをハイレゾに変えて女性ボーカルの亜咲花「SHINY DAYS」やインストのBeagle Kick「VOTEVOLUTION」を聴いてみる。オケとボーカルの分離に優れ、今まで埋もれていた音がちゃんと聞こえてくるのにはゾクゾクした。ホール録音のオーケストラは音数が減ったときのホールの静寂感、残響から伝わる空気感が俄然リアル。

 ゲーム「蒼き革命のヴァルキュリア」の劇伴である、光田康典「VALKYRIA : AZURE REVOLUTION」より「蒼き革命」を再生。管楽器の演奏が実にエモーショナルだったことに気付かされる。総じて音楽ソースの本来の姿に大きく近づいた印象だった。

 HDD版は、音の解像度とサウンドステージの透明感では、SSDに比べて惜しいと感じる部分はあったものの、約35,000円という価格からは想像も付かない良い音質。本音を言えば、既にNASでハイレゾを楽しんでいる方なら、音楽の忠実度が高いSSDモデルをおすすめしたい。筆者が総合プロデュースする、ハイレゾ音楽制作ユニット「Beagle Kick」の音源では、スタジオでの生演奏も含め、完成まで何回も同じ曲を聴いている自分でも、新たな発見があったくらいSSD版の音質は素晴らしかった。実売で5万円近くの差はあるが、検討する価値は十分にあるだろう。

 なお、SSD版は、ドライブ以外はHDD版と違いはないとのことだが、ゼロスピンドル=内部振動がほぼ皆無であることが音質にも寄与しているのだろう。アイ・オーによると、搭載するSSDは、fidataのサウンドエンジニアが聴感的に優れていると認定したモデルを使用しているとのことだ。

SSD搭載モデル

ネットワーク再生やハイレゾが身近に

 今回Soundgenicを試してみて、NASでの再生は難しくないことを改めて実感できた。普段はパソコンとUSB DACを接続してヘッドフォンで聴いているという人も、SoundgenicにそのUSB DACを接続すれば、多くの曲を手軽に扱えて、パソコンを立ち上げなくても聴けるネットワーク再生の便利さを感じられると思う。

 まだネットワーク再生を本格的に使っていない人だけでなく、NASの買い換えを検討していたが置き場所や価格で躊躇していた人にも、現実的な選択肢になるだろう。

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橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト