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国際競争力あるドイツ中小企業の戦略に迫る
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国際競争力あるドイツ中小企業の戦略に迫る
デュッセルドルフ事務所、欧州ロシア CIS 課
リーマンショックに端を発する金融危機の影響で、欧州各国の景気は冷え込んだ。その
中で、ドイツの景気はアジアなどの新興国への輸出を背景に、2010 年半ばに逸早く回復し
た。ドイツの輸出主導経済は、大企業だけでなく「ミッテルシュタンド」(Mittelstand)と
呼ばれる中小企業が支えている。日本では、これから景気の回復が見込まれ、中小企業の
海外市場開拓の機運が再度高まるとみられる中、その国際展開の参考に資するため、海外
販路開拓に成功するドイツ中小企業の取り組みを紹介する。
(本稿はジェトロ・センサー2011 年 10 月号~2012 年 3 月号に連載したものと同じ内容で
ある)
目 次
1. 総論 .............................................................................................................................. 2
2. ドイツ中小企業の海外展開事例に学ぶ ....................................................................... 4
(1)
べグラ-国内に生産拠点を残し国外市場を攻める ............................................. 4
(2)
テュンカース・マシネンバウ-イノベーション力で業界トップに .................... 7
(3)
テンテ・インターナショナル-異文化対忚力が勝因 ........................................ 10
(4)
ベコテクノロジーズ-絆が支える組織力で世界に挑む .................................... 13
(5) IDS イメージング・ディベロップメント・システムズ-大胆な発想を力に .. 16
3. まとめ ........................................................................................................................ 19
【免責条項】
ジェトロは本レポートの記載内容に関して生じた直接的、間接的損害及び利益の喪失に
ついては一切の責任を負いません。
これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。
本レポートの無断転載を禁じます。

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1. 総論
ドイツ中小企業研究所(IfM)によれば、約 35 万社ある輸出企業のうち 98%を中小企業が
占める。
ドイツには法令などで定められた中小企業の画一的な定義は存在せず、各経済機関が独
自の定義を持つ。表 1 のとおり、概して、日本の中小企業の定義よりも広い範囲を指すこ
とに留意が必要だが、日本と同様に企業の大半が中小企業(主に製造業)だ。
IfM の 2007 年の報告書によれば、当時、貿易を行う中小企業の大半にとって貿易相手国
は EU 域内に留まっていた。しかし、最近は、中国など EU 域外の新興市場にも目を向け
ているようだ。最近の中小企業の国際展開について、ドイツ中小企業連盟日本代表ミヒャ
エル・A.ミュラー氏は「まずは EU 域内でシェアを取り、その後米国や中国へ展開するパ
ターンが多い。特に中国市場に対する期待は強い。」と解説する。
ドイツの中小企業が活発に海外展開を行っている背景の一つには、恵まれた外部環境が
ある。ミュラー氏によれば、ドイツで「ミッテルシュタンド」は「ドイツ経済を支える基
盤」というイメージがあるため、大手でも自らを「ミッテルシュタンド」であると自負す
る企業があるという。これは人材確保の面でも活きており、優秀な理系学生が自分の技量
を活かせるとして大企業ではなく中小企業に就職することは珍しくなく、文系の学生も日
本ほど大企業志向ではないという。また、ドイツに限ったことではないが、隣国と陸続き
なため、外国との人の行き来も盛んで、また、企業内に外国人の同僚がいることは通常の
ことで、英語能力は全般的に日本に比して高いという。
しかし、外部環境に恵まれていても、企業自身の魅力や競争力を持ち、販路開拓しなけ
れば、国内外の競争に勝つことはできない。
ミュラー氏によれば、かつてはドイツにも大手メーカーから提供される図面に基づき生
産を請け負う下請け専門業者が多くいたという。しかし、EU 拡大に伴い、そうした下請け
業務は徐々にコストの安い中・東欧などの業者に委託されるようになり、淘汰が進んだ。そ
の結果、特殊な専門分野で独自技術を持つ中小企業が多く生き残った、という。日本市場
開拓に成功しているドイツ中小企業(主に製造業)も、レーザー技術など日本メーカーが
持たない独自のコア技術、特殊技術を持つところが多いという。
日本にも独自技術を有する中小企業は多い。ドイツも日本も中小企業は資金力が限られ、
大企業のように多額の投資して海外市場を開拓するのは難しい。また、特に海外市場では
知名度が限られる中で販路開拓も共通する課題だ。

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ドイツ
日本
中小企業の定義
従業員数500名以下、かつ
年間売上高5,000万ユーロ
(約56億円)以下
(原則、連結ベース)
(注1)
従業員数300名以下、
または
資本金3億円以下
(注2)
中小企業数
約330万社
(注3)
約419.8万社
(注4)
全企業に占める
中小企業の割合
約99.7%
約99.7%
(参考)人口(注5)
約8,180万人
約1億2,751万人
(出所)ifm、BVMW、ドイツ統計局、中小企業庁、総務省統計局
表1.ドイツと日本の中小企業の定義・数の違い
注6.中小企業実態基本調査(平成22年度版)より試算すると
日本の中小企業の1社あたりの平均売上高は1億3,623万円
   (製造業に限ると25億1,245万円)
注2.製造業の場合
注1.ドイツ中小企業研究所(ifm)の定義
注3.ドイツ中小企業連盟'BVMW)会員数
注4.個人事業者を含む。2006年調査時点
注5.いずれも2009年値

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2. ドイツ中小企業の海外展開事例に学ぶ
(1) べグラ-国内に生産拠点を残し国外市場を攻める
COMPANY PROFILE ベグラ
設立:1913 年'社名「ベントゲン&グラ」
から、2002年「ベグラ」に変更(
本社:ゾーリンゲン市
    'ノルトライン・ヴェストファーレン州(
従業員数:134 人
主力商品:自動車用青銅軸受、
       銅金型鋳造
取引先:フォルクスワーゲン、ダイムラー、マン、
      シーメンス、アルストムなど170 社
     'うち44 社が外国企業(
国外売上高:全売上高に占める割合は約40%
'2010 年(
主な国外の販売先地域:欧州、米国、南米、
中東、アジア
取得認証:ISO9001、ISO14001 など
URL:http://www.boegra.com/
べグラ(BOEGRA)は自動車のエンジンなどに使われる青銅軸受製造と銅金型鋳造に特化
したドイツの中小企業だ。フォルクスワーゲン(VW)の一部車種では、コネクティングロ
ッド軸受というエンジンの中核部品の全てを同社製が占めるほど、銅加工において高い技
術力を持つ。この技術力を強みに、顧客は欧米、中東、アジアと世界に広がる。ドイツ自
動車メーカーの生産拠点が国外に拡大する中、同社は生産拠点を国外に移転せず、国際市
場を開拓し続ける。その手法や成功の秘訣について輸出担当のアンドレアス・プルグ氏と
法務・人事・マーケティング担当のクリスティアン・シュナイダー氏に聞いた。
① 耐久性に優れた軸受の希尐メーカー
自動車エンジン用のコネクティングロッドは、エンジンのピストン運動を回転運動に変
換する重要な部品で、エンジン部品の中でも特に負荷のかかる部品である。このため、そ
の軸受には極めて高い耐久性が求められる。
ベグラは金型鋳造でこの軸受を製造している。大手自動車メーカーがひしめくドイツで
も、大量生産できる企業は同社を含め 2 社しかない。ベグラの軸受は板を巻いて溶接した
軸受より高価格だが、その優れた耐久性が評価され、VW に年間 1,000 万個納入されてい
る。特にターボディーゼル車(1.6、1.9、2.0 リットル)では、同社製品が 100%を占める。
ドイツ自動車メーカーを陰で支えるキープレイヤーなのだ。
② 生産拠点は国内に残す
べグラは、納品先のドイツ自動車メーカーが生産拠点を国外に移転したことに加え、02
年に共同出資者が交代したこともあり、それまで欧州域内の販売を主にしていた戦略を転

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換した。近年はブラジル、中東など市場潜在力のある新興国や市場規模の大きい日本に目
を向け始めている。納入先の自動車メーカーの国外生産が加速しているが、ベグラは生産
拠点をドイツ国内に留める。全て自社内で製造することで知的財産流出のリスクを極小化
している。知的財産権保護の観点からドイツ国内での生産を好む中小企業は多い。ベグラ
はまさにそうした企業の一つだ。
販売面でも、自社の販売会社を国外に持つことはしない。欧州域外では代理店や外国企
業との戦略的提携を組む手法を取る。現在は中国、インド、ブラジル、米国、エジプトに
販売代理店などがある。販売代理店にも、製品についての定期的な研修を実施しているが、
データや技術的ノウハウの伝達には限度を設けている。
一般的に代理店を通じたビジネスは、自社拠点を作らなくて済むコスト上のメリットが
ある。例えば、文化や言語などの障害を現地人材を雇用せずに克服できる。しかし、ビジ
ネスの成否が代理店の能力次第になってしまうことや顧客との距離が遠くなることで、ニ
ーズの把握が遅れるという弱点もある。
そのためベグラは新規顧客の開拓を代理店任せにはしていない。VW など既に国外に拠
点を持つ大手納品先とのコンタクトを活用したり、企業訪問や見本市への出展を通じ、直
接コンタクト先の開拓を行うことで代理店経由ビジネスの弱点をカバーしている。輸出担
当のアンドレアス・プルグ氏は、「今すぐビジネスにつながらなくても、将来のビジネス機
会になる可能性がある。コンタクト先の開拓や根回しは大変重要」と語る。
③ イノベーション力が成功の鍵
ベグラ製品の最大の売りの一つは耐久性。昨今、自動車エンジンの小型化が進み、コネ
クティングロッド用軸受への負荷が増しているため、従来の軸受より高い耐久性が求めら
れている。
「ベグラ製品のように高い耐久性を持つ部品を作れる企業はほとんどない。わが社のビジ
ネス機会はますます加速する」とプルグ氏は自信を示す。
しかし、既存の技術力に安住しているわけではない。ベグラが見せる市場動向に俊敏な
反忚も海外市場での成功の秘訣といえそうだ。これまでエンジン用の軸受の一部に鉛を使
用するのが一般的だったが、EU は 11 年より自動車業界に対し、エンジン、エアコンコン
プレッサーなど自動車用部品に鉛を使わないよう義務付けた。近年、日本企業を含めて各
社が鉛不使用の軸受の開発・販売を行っている。ベグラは、かねてより鉛不使用製品にも
強いため、規制も追い風になっている。

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現在、同社では研究機関と共同でナノテクノロジー分野での研究開発プロジェクトを実
施しており、他社に技術面でさらに差をつけたい考えだ。
④ 苦境を経験し納入先多角化に取り組む
他社の追随を許さぬ技術力を有し、大手自動車メーカーを中心に世界中に顧客に持つとは
いえ、経営が順風満帆だったわけではない。
売上高は、07 年に約 2,480 万ユーロと過去最高を記録したが、金融危機による自動車産
業の深刻な不況のあおりを受けた。09 年の売上高は 1,431 万ユーロへと激減した。「他産
業への販路シフトなどいろいろ試してみたが、危機の影響は全業種に及んだため、最終的
に人員削減を余儀なくされた」とプルグ氏は振り返る。操業時間の短縮や大幅な人員削減
を行い、管理費を抑えることで危機を乗り切った。
自動車産業の業績回復に伴い、10 年の売上高は 1,835 万ユーロと前年を 28%上回った。
11 年には金融危機前の売上高(約 2,480 万ユーロ)水準にまで回復する見込みだ。法務・
人事・マーケティング担当のクリスティアン・シュナイダー氏は、「売上高年間 10 ~ 15%
増という健全な成長を目指している」と述べている。
現在は業績が回復しているとはいえ、金融危機の際の反省から、自動車分野への依存度
を段階的に下げ、リスク分散を図る。中長期的な目標として他業種分野での販路拡大を進
めている。10 年時点で全売上高に占める自動車分野の割合は約 7 割。残りの 3 割は電気・
電子や機械など 30 業種に分かれる。「他業種で自動車と同様の受注量を達成するのは難し
い。だが、魅力的な業種の顧客を開拓するため、企業業績および製品品質の向上に努力を
続ける」とプルグ氏は意気込む。
卓越した技術力に加え、他社に常に先行しようとする積極性、さらにリスクを最小限に
抑える機敏な対忚力などが同社の強さを支えている。

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(2) テュンカース・マシネンバウ-イノベーション力で業界トップに
COMPANY PROFILE テュンカース・マシネンバウ
設立:1962年
本社:ラーティンゲン
    'ノルトライン・ヴェストファーレン州(
従業員数:約600 人
       'うち約300 人が国外拠点(
主力商品:ファクトリーオートメーション製品
       小型運搬車、抗打機、紙工機械
取引先:フォルクスワーゲン、ダイムラー、 ルノー
     ゼネラルモーターズ、ティッセンクルップ、
     クーカほか多業種から数百社
国外売上高:全売上高に占める割合は約34%
'2010 年(
主な国外の販売先地域::中国、米国、ブラジル
メキシコ、フランス、スペイン、イタリア
取得認証::ISO9001'VDA 6.4(
URL:http://www.tuenkers.com/
テュンカース・マシネンバウ(Tünkers Maschinenbau、以下テュンカース)は、主に自動
車工場で使用されるロボットの部品を製造・販売する中小企業だ。
製品開発力と提案力の兼備、いわばイノベーション力を武器に、欧州のほぼ全ての自動車
メーカーへの納入実績を持つ。積極的な国外展開や柔軟な雇用制度の活用、国外拠点の従
業員への「ドイツ魂」の浸透も成功要因となっている。販売・製品管理担当オリバー・ビ
リューニンク氏に聞いた。
① 産業ロボットメーカー最大手から表彰
テュンカースの優位性は、そのイノベーション力だ。同社は自動車産業用ロボットの部
品をはじめとするファクトリーオートメーション(FA)部品を製造・販売している。そも
そも FA 部品は、納入先の工場に合わせて個々に異なるものを作る必要があるため、完全
なオーダーメードで開発・生産される。
自動車生産ラインの溶接などを行うロボットに取り付ける部品を開発する場合を例にと
ってみよう。生産ラインという限られたスペースの中で、取り付ける産業用ロボットに完
全に適合し、高精度または難易度の高い加工ができる製品を開発しなければならない。顧
客のニーズを十分に把握した上での提案力が必要となる。FA 部品のサプライヤーにとって
は、発注元である産業用ロボットメーカーや自動車メーカーに、自社製品の優位性をいか
に効果的にアピールできるかが勝負だ。この点で同社のイノベーション力は大きな強みと
なっている。
同社はフォルクスワーゲン、ダイムラー、ルノーのほか欧州のほぼ全ての自動車メーカ
ーの生産ラインに納入している。2008 年にはドイツの産業用ロボットメーカー最大手クー
カから、品質、コスト、納期が高く評価され、優秀サプライヤー賞を受賞している。ドイ
ツ自動車産業の FA 部品業界を支えるトッププレイヤーだ。

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近年の自動車業界では、環境配慮型製品の開発がますます重視されている。同社はエネ
ルギー効率の高い製品「エコクランプ」を開発した。同製品は圧搾空気クランプの一種で、
ロボットに取り付けて部品を固定する締め具。省エネによる CO2 削減、コスト削減を売り
にしている。
また、部品だけではなく完成品も製造している。電動立ち乗り二輪車では、米国の「セ
グウェイ」より低価格の「MOVI」を、また空港内で使用する電動スクーターなどを開発し、
製造・販売している。する締め具。省エネによる CO2 削減、コスト削減を売りにしている。
② 従業員の 15%を中国に
知的財産権保護の観点から生産拠点をドイツ国内に残す中小企業が多い中で、テュンカ
ースは中国、ブラジル、米国などに生産拠点を置く。特に中国では、製品の種類を拡充す
るとともに品質を高め、成長する中国市場でのシェア拡大を目指す。そのため全従業員の
約 15%に相当する 90 人を配置し、現地生産と販売を行っている。
ビリューニンク氏は生産拠点を国外に積極的に配置する理由として、「国外市場を開拓す
る時、現地の大企業から生産拠点の設立を求めるられことは珍しくない」と語り、現地側
からの要請があったことを示唆する。開発提案力が求められる産業では、顧客の近くに工
場を置くことが重要なのだろう。
知的財産権保護について、同社は特許取得以上の対策は講じていない。「FA 部品のサプ
ライヤーは限られている。偽物が出ても当社製品に比べて务っているため、すぐ分かる。
尐数の偽物なら無視している」という。
③ 積極的な国外展開が不況時に奏功
国外売上が全売上高に占める割合は、10 年時点で約 34%、11 年には 50%に達する見込
みだ。この積極的な国外展開は、08 年 9 月以降の世界的な金融危機において、リスクヘッ
ジの機能を果たした。
金融危機で自動車産業は大きな打撃を受けた。同社は売上高の 9 割を自動車産業が占め
るにもかかわらず、影響は尐なかった。「金融危機の影響を最も受けた時期は国によって違
った。例えば中国経済への影響は欧州より遅く、しかもより限定的だったため、ドイツと
中国に主要拠点を置く当社は金融危機を大きな損害なく乗り越えられた」(ビリューニンク
氏)。国外展開が奏功した結果だ。
また、ドイツの多くの企業は、超過勤務時間の一部を残業代として支払う代わりに、休

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暇に振り替える制度を導入している。それによって、実質的に賃金支払い額を抑えること
もできる。この制度の活用も金融危機下の不況を克服した要因の一つだった。同社の競争
力は、イノベーション力に加え、積極的な国外展開や柔軟な雇用制度にもありそうだ。
同社の売上高は 04 年の 6,500 万ユーロから 10 年には 9,000 万ユーロと、ほぼ 1.5 倍
になった。12 年までに 1 億 2,000 万ユーロまで伸ばすことを目指す。
中国、ブラジル、米国の自社拠点に加え、スウェーデン、オーストラリア、单アフリカ
共和国などに販売代理店を置く。現在、同社が狙うのは、経済成長が著しいアジア市場だ。
中国に自社拠点を構える一方、自動車産業の市場潜在性の高いタイ、インドネシア、マレ
ーシアの市場開拓に取り組んでいる。マレーシアでは、自動車産業のパートナーを探して
いたという代理店を、取引先から紹介してもらった。話はとんとん拍子に進み、半年程度
で販売代理店の開設にこぎつけた。潜在需要がある地域の開拓はスピードが勝負。小回り
が利く中小企業の強みを生かし、即断、即決で進めたようだ。
一方、自動車市場の大きさに着目して長年、市場開拓に取り組んでいる日本で、思うよ
うな成果が上がっていない。「日本の自動車産業における大企業とサプライヤー間の強い連
帯感は評価すべきだが、国外企業にとっては進出が難しくなる」(ビリューニンク氏)ため
だ。
国外市場の開拓はコストがかさむため、現地の取引先企業、代理店のほか、ドイツ商工
会議所など公的機関を活用し、コストを抑制しながら市場潜在性や競争状況を分析してい
るという。
④ 「ドイツ魂」の浸透を
テュンカースが国外拠点で重視しているのは、人材育成だ。国外の主要ポスト採用も主
に現地で行っている。現地採用を通じて文化や言葉の壁が乗り越えられるからだ。採用に
際しては、専門知識だけでなく、異文化に対する適忚能力も重視する。
採用後は、管理職だけでなく、営業担当者やエンジニアなど幅広い従業員の研修をドイ
ツ本社で実施する。研修では経営方針にとどまらず、正確性、几帳面さ、組織力という、
いわゆる「ドイツ魂」を直接教え込む。
ただし、教育は一方向ではなく、双方が学ぶ場だ。国外従業員への研修は、国内従業員
にとって各地の商習慣や文化の違いを学ぶ重要な機会となる。「経営理念の浸透も重要だが、
国外拠点の優れたアイデンティティーを保つことも大事。お互いの長所でお互いの短所を
補いながら成長していくよう努めている」というのが、同社の人材育成に対する姿勢だ。

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(3) テンテ・インターナショナル-異文化対応力が勝因
COMPANY PROFILE テンテ・インターナショナル
設立:1923 年
本社:ケルン
    'ノルトライン・ヴェストファーレン州(
従業員数:969 人'うち550 人が国外拠
点(
主力商品:一般産業用、医療用、工業用、
重量物用キャスター
取引先:ルフトハンザ ドイツ航空、メディカルケア
パラマウントベッド、フレゼニウスリモワ
フィリップス
国外売上高:全売上高に占める割合は約70%
'2010 年(
主な国外の販売先地域::フランス、デンマーク
オランダ、英国、米国、南アフリカ共和国、
日本、中国
取得認証::ISO9001
URL:http://www.tente.com
テンテ・インターナショナル(Tente International、以下テンテ)は、キャスター(車輪)
の隠れた世界的メーカーで、世界 100 カ国・地域に顧客を持つ。製品の用途は、一般産業
用、医療用、工業用、重量物用と多岐にわたる。従業員の異文化対忚能力を若いうちから
養うことに力を入れ、世界各地の顧客ニーズを他社より早く把握して製品開発につなげて
いる。成功の秘訣について、テンテ傘下の中核会社であるテンテ・ローレン取締役のパウ
ル・ムッツ氏に聞いた。
① 医療用ベッドで世界シェア 8 割
ベッドや台車などのキャスターは通常見えるところに付いている。このため、顧客から
は導電性といった製品の材質や耐久性のほか、形や色など最終消費者の好みに合わせた外
観デザインへの要求も高い。テンテは固定式キャスター(回転しない車輪)分野では業界
をリードする技術力を持ち、デザイン力も高い。ドイツの著名デザイナーが加盟する団体
「ドイツデザイナーズクラブ」やユニバーサルデザイン協会などから多数の賞を受賞して
いることから、その実力が分かる。
キャスターの分野でも環境配慮型製品へのニーズが高まっているが、同社は環境配慮型
の材料のみを使用することを方針に掲げる。欧州では発がん性などが疑われている多環芳
香族炭化水素(PAHs)を含む物質の使用などを避けている。
最終消費者のニーズにきめ細かく対忚するため、技術者とデザイナー、さらには販売先
も協力する。例えば、医療用ベッドのキャスターは通常四つだが、五つ目の駆動キャスタ
ーをベッド下中央に設置することを考案し、介護者がベッドをより操作しやすくした。「ベ
ッドを移動しやすくしたい」という介護の現場からの声に対忚した結果だ。このような事
例を積み重ねることで、現在、医療用ベッドのキャスター分野で世界の約 80%のシェアを

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占める。
同社の国際展開は 70 年代にさかのぼる。单アフリカ共和国に初の国外拠点を設立。80 年
代にはドイツの競合企業を買収し、欧州における販売網を拡大。冷戦終結後の 90 年代には、
旧東ドイツに支店網を広げた。近年はロシア、ポーランドとバルト三国に支店を開設し、
東欧市場の開拓に力を入れている。日本との関係は長く、60 年代からパラマウントベッド
との取引がある。2005 年には東京に支店を設立し、日本市場に本格参入した。
② 若いうちから異文化対応能力を育成
キャスターの用途は多様だ。世界各国の顧客の細かいニーズを他社に先駆けて把握する
には、従業員の国外での現場感覚が必要不可欠だ。国外市場での現場感覚を養うために、
従業員の異文化対忚能力の育成に注力している。
ドイツでは義務教育終了後、基幹学校や実科学校などの職業高校に通う学生は、通学と
並行して職業訓練を行う。職業訓練を受けた企業に、卒業後そのまま就職するケースも珍
しくない。この制度を利用して、セールス部門では、職業訓練生のときから外国人顧客と
の商談に積極的に同行させるほか、外国人顧客や外国人学生向け自社工場見学の案内役を
させる。こうして外国人との触れ合いの機会を作り、他国のビジネス習慣や言語能力の育
成を図っている。
若手に対する異文化対忚能力の育成は、研修だけにとどまらない。欧州の国際見本市は、
日本の多くのそれとは異なり、具体的な商談をまとめる最も重要な営業の現場でもある。
新製品紹介の場としてだけではなく、外国における顧客を積極的に開拓する真剣勝負の場
として捉える。今年、同社としては初めて、ドイツの国際見本市の自社ブースで職業訓練
生に営業活動をさせた。国際的なビジネス環境で責任ある仕事をさせることが目的だった。
優秀な従業員を確保するために、企業の社会的責任(CSR)活動を活用している。学校
や大学に対する技術教育支援など、教育機関と技術関連の協力プロジェクトを積極的に行
う。このような活動を通じ、技術に関心のある若者と交わる機会を設けると同時に、優秀
な若者に自社への関心を持ってもらう。協力プロジェクト対象校を卒業した後、同社への
就職を志望する学生は尐なくない。
優秀な学生を確保し、早くから異文化対忚能力を磨き、外国市場で顧客ニーズを現場感
覚で把握できる人材を育てる。これが技術力やデザイン力とともに高い世界シェアを実現
する原動力だ。

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③ 支店の独立性を重視
国外の新規市場に進出する際は、まず同社が持つ顧客ネットワークを活用して新規取引
先を探す。その上で、現地代理店を通じて販売に着手する。代理店を選ぶ基準は、同業他
社製品は扱わず、テンテの製品のみを販売する意志を持つ代理店にこだわる。
「代理店は、参入の初期段階では国外進出の鍵となるが、成長するためには支店を開設
するなど、市場への直接的なアクセスが必要となる」(ムッツ氏)。その際も、現地代理店
を切り捨てるようなことはせず、支店の開設を共同で行うことも珍しくない。
支店運営に当たっては、支店の独立性・自主性を重んじる。支店の収益は支店の職員採
用や施設・設備の増設などに再投資し、支店を拡充していく。本社は追加投資を行わずに
支店が自立して成長していくモデルを作ることで、本社にとって金銭的なリスクを最低限
にとどめるのだ。この海外拠点の運営手法も同社の特徴の一つだろう。
各支店の独立性が高い一方で、支店間での従業員の交流を実施している。6 週間という
短期間だが、社内の人材交流を図る。この取り組みは、専門知識の蓄積、言語能力の向上
にも大きく貢献する。また、世界各地の経営幹部やセールス部門長が年一回、一堂に会し
て経営方針やセールスの新戦略について討議する。各層で社内人脈の構築を図り、グルー
プとしての一体化を促している。
④ 柔軟な労働制度と国際展開で危機克服
世界中に販売拠点を置いているものの、生産ラインのオートメーション化を進め、キャ
スターの約 9 割をドイツ国内で生産する。製品の一部とはいえ生産拠点を国外に置くこと
は、知的財産流出のリスクを伴うと考えるからだ。近年、中国、デンマーク、米国、フラ
ンス、ブラジルで、同社の特許が無断使用された製品が出回る問題に直面した。中小企業
にとって、それはビジネス面においても金銭面においても大きなリスクだ。「特許を取得し
ていれば、弁護士を通じて特許侵害で訴えることができる。結果として低コストの知財対
策だった」と、ムッツ氏は自身の経験を振り返る。
同社の 09 年の売上高は、金融危機の影響により 1 億 1,600 万ユーロと 20%下落した。
売上高、利益とも大幅に落ち込んだものの、労働時間口座制度(超過勤務手当てを休暇に
より充当)や操業時間短縮制度などの柔軟な労働制度を活用し、赤字転落を免れた。
ムッツ氏は国際展開も危機回避に役立ったとする。「多様化した製品ポートフォリオと国
際販売網により、ある市場の不調を、違う市場の好調で補うことができた。一つの市場に
集中する企業に比べ、その点が強みになった」という。

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世界経済の回復とともに、テンテグループの 11 年の売上高は 1 億 5,000 万ユーロと、08
年水準まで復調した。同社は短・中期的な目標を、売上高で年率 5%増という着実な水準に
置いている。
(4) ベコテクノロジーズ-絆が支える組織力で世界に挑む
COMPANY PROFILE ベコテクノロジーズ
設立:1982年
本社:ノイス'ノルトライン・ヴェストファーレン州(
従業員数:375 人
'うち約3 分の1 が国外拠点(
主力商品:コンプレッサーの周辺機器
'凝縮液排出装置、油水分離装置、
フィルターなど(
主な国外の販売先地域::欧州、米国、アジア、
中東、オセアニア、アフリカ
取得認証:ISO9001:2008
URL:http://www.beko.de
ベコテクノロジーズ(以下、ベコ)は、コンプレッサーから出る凝縮液を排出する装置
を世界で初めて電子制御化したメーカーとして知られる。従業員 375 人の中規模企業なが
ら、1982 年の創業当初から国外市場を視野に入れる。世界 16 カ所に自社の販売拠点を、
独米印の 3 カ国に生産拠点を持つグローバル企業に成長した。日本法人の代表取締役ティ
ム・バーバー氏に戦略を聞いた。
① 創業時から国外市場に着目
空気圧を利用する生産工程に不可欠のコンプレッサー。例えば、自動車の塗装工程で塗
料を噴射する機械などに使われている。これらの工程で空気を圧縮した後、空気中の水蒸
気が液化(凝縮液)する場合がある。コンプレッサー中に凝縮液が残留すると、その水分
で高価な機械を損傷するほか、生産工程に液が入り込んで製品にダメージを与えるリスク
がある。このため、発生した凝縮液をコンプレッサーから排出する必要がある。排出を効
率的に行わないと圧縮した空気が漏れ、機械の性能が落ち、無駄な電力を消費することに
なるのだ。
70 年代のオイルショックの影響でエネルギー価格が高止まりしていた 80 年代初頭、電
力消費量の多いコンプレッサーの省エネ化に商機を見いだしたのが、ベコ創業者のベアト
ールド・コッホ氏である。同氏はコンプレッサーから出る凝縮液の排出装置を電子制御化
し、凝縮液が所定水準までたまった時点で自動的に排出するシステムを世界で初めて開発
した。排水の頻度は必要最小限に抑えられ、圧縮空気の漏れを極力なくすことでコンプレ

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ッサーの性能向上と省エネに貢献した。このシステムにはドイツだけでなく国外でも需要
があり、創業直後の 80 年代から欧州、米国、アジアの順に販売エリアを拡大していった。
「創業者は明確なビジョンを持っていた。省エネの重要性はドイツだけでなく世界でも認
識されており、世界にビジネス機会があると見通していた」(バーバー氏)。
創業当初から国外市場をも視野に入れた戦略を持っていたということだ。
ドイツ最大手の信用調査会社ホッペンシュテットの企業格付けで、同社は最上位にラン
クされている(ドイツ国内対象 450 万社のうち 3%程度が最上位を取得)。10 年秋には、
ドイツ主要紙「ディ・ヴェルト」とコンサルティング会社ミュンヘン・ストラテジーグル
ープが、企業収益の伸びなどに基づいてランク付けした「成長するドイツ中小企業 TOP100」
にも入った。
② 世界規模で結束力醸成を図る
国外を含めた総従業員は 375 人だが、15 カ国・地域の国外支店と 3 カ国の工場、多数
の販売代理店を持つ。アジアでは、タイを統括拠点に日本、韓国、中国、インドに支社を
置き、23 カ国・地域(中東と中央アジアを含む)に代理店を持つ。国外展開の際は、極力、
代理店を通さず支社による直接営業の体制を取っている。代理店を買収して支社化する事
例も多いという。日本支社(02 年設立)にはバーバー氏を含む 5 人の従業員を配置。直接
販売と代理店を介した販売を併用している。
国内外の販売・生産拠点網を限られた人数で効率的に運営するには、強い組織力が求め
られる。
まず、同社が取り組むのは、世界レベルで従業員と会社の結束を強める日々の社風作り
だ。支社長など幹部に限らず、国外支社の従業員を積極的にドイツ本社や他の支社に研修
や営業会議参加などで出張させる。各地の職場の雰囲気を肌で感じさせ、同僚と交流させ
るためだ。10 年 8 月に拡張した本社には、在外従業員を含めた研修を行う複数のセミナー
ルームが備えられている。また、年に数回発行される「社報」(対外公表)には、新製品の
紹介記事などとともに従業員の自己紹介コーナーがある。さらに、経営陣が海外駐在員に
も常に気を配ることを心掛けている。「東日本大震災の後、経営トップが自ら毎日電話をく
れた」(バーバー氏)。これらは日々のささいな取り組みだが、国外を含めた組織全体の結
束力強化につながっているようだ。
ドイツ中小企業連盟の報告書『中小企業(Mittelstand)の専門性の高い労働力~企業の
成功レシピ~』(11 年 6 月)の中で同社は「有能な従業員を社内にとどまらせている成功

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例」として取り上げられている。「過去数年、ベコは専門性の高い人材の欠如に直面してい
た。企業価値を高めることで有能な従業員を維持することを考えた。具体的には、企業が
成長するに従って、新規の国外市場開拓を目指し、その中で、有能な社員にビジネスキャ
リアを伸ばすことにつながるチャンスを積極的に与えた。また、同社は家族と職場の結び
付きにも着目し、フレキシブルな労働体系を積極的に取り入れた」(同報告書)とある。
国外従業員を含めて“チーム意識”を醸成し、国外市場を視野に入れた企業戦略を有能
な人材と共有する──。この全体としてのモチベーション向上につなげる取り組みが国際
化を支える基礎となっている。
③ 国外拠点に売り上げ以外の貢献を求める
国外の販売拠点は、売り上げだけでなくユニークな貢献をも求められる。顧客の要求レ
ベルが世界でも最も高いといわれる日本からは、日本市場で求められるニーズについてド
イツ本社の開発部門にフィードバックしている。
確かに多くの分野において、世界で日本市場の要求レベルが最も高いと耳にする。日本
市場での要求に忚じて開発した製品スペックが、国外市場では「過剰品質」とされる実態
もある。「日本のスペックは“高すぎる”のではなく、時として(世界に比べて)“早すぎ
る”のだ」とバーバー氏はいう。95 年に来日し、途中バンコク駐在を挟んだものの、日本
のビジネスに精通する同氏ならではの見解だ。
④ 国際化で最先端を知る
国外市場を目指す同社と同規模の日本企業に対して、バーバー氏は「業界のリーダーに
なるには世界に対してオープンになり、常に世界の最先端に身を置く必要がある」と指摘。
日本企業の多くが、本社と海外拠点または顧客とのコミュニケーションのために翻訳・通
訳作業をしながら市場開拓を行っている実態について「それでは国外市場はいつまでたっ
ても“その他の市場”と社内で認識されるだろう。大きなマンデート(権限)を持った英
語のできる人材を登用し、海外市場を積極的に開拓する姿勢が必要」と苦言を呈する。
また、企業の国際化については「当社では、早くからドイツ人以外の人材を登用してきた。
今はドイツ本社に中国人スタッフもいる。新製品に対する彼らの反忚やコメントは、10 ペ
ージにおよぶ中国市場リポートに勝る価値がある」という。

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(5) IDS イメージング・ディベロップメント・システムズ-大胆な発想を力に
COMPANY PROFILE IDS イメージング・ディベロップメント・システムズ
設立:1997年
本社:オーバースルム
'バーデン・ビュルテンブルク州(
従業員数:105 人
主力商品:産業用デジタルカメラ、ソフトウエア
主な国外の販売先地域::欧州、米国、日本、
中国、韓国、台湾、
メキシコ、オーストラリアなど
取得認証:ISO9001、ISO14001
URL:http://www.ids-imaging.jp
産業用カメラメーカーの IDS イメージング・ディベロップメント・システムズ(以下、
IDS)は、1997 年に従業員 2 人で創業した。他社に先駆けて取り組んだ USB(汎用接続
規格)カメラで技術的優位を確立。わずか 14 年間で従業員 105 人、売上高は 20 万ユー
ロが 2,600 万ユーロに拡大した。欧米日の 3 大主要市場に拠点を構える。同社の強みと国
際戦略について、日本支社代表取締役クリスティアン・ファン・デル・プルグ氏に聞いた。
① USB に賭ける
USB カメラとは、工場生産ラインの随所に設置される産業用カメラの一つで、USB ケ
ーブルを使ってパソコンにつなぐ。産業用カメラは、例えば自動車工場で部品が正確な位
置に適切に取り付けられているか、食品工場で異物が混入していないか、包装容器の印刷
は正確な位置になされているかなどを確認するために利用される。
産業用カメラはアナログ式とデジタル式に大別される。さらに様式によって、データの
転送速度とケーブルの長さなどの特徴が異なる。データ転送の速度が速いほど 1 秒間に多
くの写真を撮影してパソコンで処理できる。ケーブルの長さはカメラとパソコンの距離を
意味し、工場の機械配置によっては、この距離を長くせざるを得ない場合もある。
USB カメラはデジタル式だが、日本では、従来は使い勝手がよくデジタル式より画質が
良いアナログ式の人気が高かった。しかしカメラで撮影したデータをパソコンに取り入れ
る部分に、いったん写真データを受け止める画像入力ボードが必要なため、デジタル式1
より価格が高くなる。最近は、低価格や利便性の向上から徐々にデジタル式のシェアが上
昇している。日本以外では、すでにデジタル式が主流だ。デジタル式の中には、USB カメ
ラのほか、ケーブルを 100 メートルまで延ばせる GigE カメラ、転送容量が比較的大きい
Camera Link カメラがある。
IDS は、デジタルカメラの中でも USB カメラと GigE カメラに特化して開発・販売を
行っている。中でも、産業用としての USB カメラの潜在性には他社に先駆けて着目してき
1 デジタル式でもカメラ・リンク方式は画像入力ボードが必要。

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た。USB2.0 規格が 2000 年に発表されて間もない 03 年には USB2.0 カメラを製品化。
当時の USB カメラは、“一般消費者が趣味で使うもの”と思われていただけに、その時点
で USB カメラに賭ける選択は大胆な決断だった。
「経営陣は USB カメラの将来性に強い信念を持っていた。日本メーカーは最近 USB カメ
ラの開発を本格的に始めたばかり。わが社は 7 年前に開発を始めており、他社を品質と経
験面でリードしている」(ファン・デル・プルグ氏)という。USB カメラの将来性に着目
した経営者には先見の明があったわけだ。
11 年 11 月にドイツ・シュトゥットガルトで開催された欧州最大の産業用カメラ見本市
「VISION 2011」では、世界で初めて 8 台の USB3.0 カメラを 1 台のパソコンにつなげ
て画像処理を可能にするシステムを発表した。USB カメラより高価で画像入力ボードが必
要な Camera Link カメラでしかできなかった技術を USB カメラを用いて実現したのだ。
それを USB3.0 カメラで可能にするには高度なソフトウエア技術が必要だった。同社の先
進性を示す事例だろう。
② 在庫を極小化
IDS は経営陣がほとんどの株を所有する非上場会社だ。「株主の思惑に影響されずに、思
いきりのよい経営判断が下せる」。ファン・デル・プルグ氏はそれを強みの一つに挙げる。
従業員数の内訳は、開発、製造、事務がほぼ 3 分の 1 ずつ。本社工場の製造部門のスタ
ッフは 30 人余で、1,400 種類もの製品を全て生産している。従業員数に対して製品の種類
が多いことが分かる。在庫を極力尐なくして過剰在庫のリスクを抑える一方、大量受注が
あれば生産ラインの稼働時間を増やす。1 週間のリードタイムで顧客に届ける仕組みを確
立している。ドイツの雇用システムは時に硬直的と指摘されるが、「10 年前に比べて従業
員は労働時間を弾力的に調整することに寛容になっている」(ファン・デル・プルグ氏)と
いう。繁忙期には生産ラインの稼働時間を増やす一方、リーマンショックの影響を受けた
09 年などは稼働時間を減らし、従業員に休暇取得を奨励した。解雇者を出さずにリーマン
ショックを乗り切ったという。
③ 国外営業支援拠点を設立
創業当初から世界市場での USB カメラなどの需要を見据えた製品開発を行い、国外市場
でも代理店網を拡大しながら、販売活動を展開してきた。しかし国外市場での販売を代理
店に任せていたため、販売は思うように伸びなかった。この反省から 07 年米・ボストン、

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10 年東京、11 年には仏・パリに営業支援の拠点となる支社を置いた。日本支社は代理店
への技術サポートや製品補充を支援するが、販売業務には携わらず、日本の代理店 3 社が
行う。技術サポートは、ファン・デル・プルグ氏が日本、台湾、韓国、中国にある販売代
理店を回って、技術面の支援や研修を実施している。新製品が開発された直後に重点的に
行うほか、オンラインでも代理店の販売能力向上を図っている。国外拠点の従業員はボス
トンが 3 人、パリと東京は 1 人ずつと尐人数に抑えているものの、国外代理店を近くで支
援する体制を築いたことで、国外の売上高が増加。結果として、11 年の販売台数は過去最
高の 6 万 5,000 人に達した。
④ 外国語能力を採用条件に
IDS の本社は、シュトゥットガルトから 40 キロほど離れた人口約 1 万 4,000 人の小さ
な町にある。同社では社員に、最低 1 ~ 2 カ国語の外国語を話せる人材を採用している。
日本の中小企業では、海外担当者数人のみが英語を話すというケースがほとんどだろう。
IDS では社員全員が国外企業とのコミュニケーションを取れる体制を築くことで、常に世
界市場を見据えたビジネスをしやすくしている。
USB カメラが産業用カメラとして利用できることが世界的に認知される前から、その将
来性を見いだしていた発想力。そしてその発想を競争力に変えるために、他社をリードす
る製品開発や国際ビジネスに対忚する体制作りをしてきた。これらが同社の強さといえ
そうだ。

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3. まとめ
2011 年 10 月号から 5 回にわたり、国際展開に成功しているドイツ中小企業の事例を紹
介した。ドイツ国内での製造へのこだわり、販売代理店と自社拠点の併用など各社個別の
特徴が見られる一方で、共通点も多かった。
● 生産拠点をドイツに残す
紹介した 5 社(表)のうち、4 社は生産拠点をドイツ国内のみに保有している。「テュン
カース」だけが中国、ブラジル、米国などの顧客の近くに生産拠点を持つ。製品特性上、
顧客の個別のニーズに忚じる必要があるためだ。
4 社が生産拠点をドイツに残す理由として挙げたのは、中国などにおける知的財産権保護の
問題への懸念と「メード・イン・ジャーマニー(ドイツ製)」のブランド力を維持すること
だ。
● 代理店ビジネスのデメリットを克服
生産拠点をドイツに残す一方で、各社とも、欧州、米国、アジア、中单米など幅広い国・
地域で販売している。中小企業が開設できる国外拠点やその従業員の規模は自ずと限られ
るので、各社とも代理店網拡大を中心に新規市場開拓を図っている。代理店の良し悪しに
よってビジネスの成否が左右されたり、顧客との距離が遠くなることでニーズが把握しづ
らくなるなどのデメリットがある。その対策として、「ベグラ」は代理店のある国でも自ら
顧客を訪問したり、見本市に出展するなどしてデメリットをカバーしている。また、「IDS」
は、国外市場での販売を“代理店任せ”にしたことで売り上げが伸びなかった。そこで主
要市場に営業支援拠点を置き、周辺国を含めた代理店への研修や製品調達の支援をするこ
とで国外市場での売上高増に結び付けている。IDS の国外拠点は営業を行わないため、駐
在員は 2 ヵ所が 1 人、1 ヶ所が 3 人と最小限にとどめている。
● 国際“人財”による強固なチーム作り
多くの国外販売代理店や自社の国外拠点を限られた人数で運営しなければならない中小
企業には、国外拠点を含めた世界規模での高い組織力が求められる。この点で特筆すべき
は「ベコ」だ。ドイツ国内外の従業員 375 人で 15 カ国・地域の営業拠点と 3 カ国の工場、
多数の販売代理店を運営している。支社長など幹部に限らず、国外支社の従業員を積極的

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にドイツ本社や他の支社に研修や営業会議参加などのために出張させる。東日本大震災の
時には、経営陣自らが日本に派遣されている駐在員に毎日電話をかけ、ケアするなど、従
業員に対する気遣いを忘れない。日々の取り組みがチーム意識を醸成し、有能な人材の流
出抑制と国外拠点を含めた全社的な企業戦略の共有につなげている。
国際担当者を特定せず、全社的に国際ビジネスができる体制を作るのも今回紹介した 5
社の多くに共通する特徴だ。IDS は 1~2 の外国語を話せることを採用条件とし、テュンカ
ースは採用時に異文化対忚能力を重視する。「テンテ」は、職業訓練生の頃から外国企業と
の商談に同席させたり、国際見本市会場での営業活動をさせて“異文化対忚能力”を養っ
ている。
ベコが「日本市場は世界で最も要求レベルが高い」と評価するように、日本の中小企業の
技術はドイツのそれに勝るとも务らない。企業が持つ資金や人材が限られる中で、その製
品を国外で販売する体制作りや国外市場を念頭に置いた経営発想などの点で、ドイツ中小
企業から学ぶべきところがありそうだ。その多くは突飛なアイデアではなく、取り入れ易
いものである。

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アンケート返送先 FAX: 03-3582-5569
e-mail:ORD@jetro.go.jp
日本貿易振興機構 海外調査部 欧州ロシア CIS 課宛
● ジェトロアンケート ●
調査タイトル:国際競争力あるドイツ中小企業の戦略に迫る
ジェトロでは、ドイツ中小企業の戦略調査を目的に本調査を実施いたしました。報告書をお
読みいただいた後、是非アンケートにご協力をお願い致します。今後の調査テーマ選定などの
参考にさせていただきます。
■質問1:今回、本報告書で提供させていただきました「国際競争力あるドイツ中小企業の戦
略に迫る」について、どのように思われましたでしょうか?(○をひとつ)
4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなかった
■ 質問2:①使用用途、②上記のように判断された理由、③その他、本報告書に関するご感想
をご記入下さい。
■ 質問3:今後のジェトロの調査テーマについてご希望等がございましたら、ご記入願います。
■お客様の会社名等をご記入ください。(任意記入)
ご所属
□企業・団体
□個人
会社・団体名
部署名
お名前
※ご提供頂いたお客様の個人情報については、ジェトロ個人情報保護方針(http://www.jetro.go.jp/privacy/)に基づき、適正に管理運用させていただき
ます。また、上記のアンケートにご記載いただいた内容については、ジェトロの事業活動の評価及び業務改善、事業フォローアップのために利用いた
します。
~ご協力有難うございました~