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暇に振り替える制度を導入している。それによって、実質的に賃金支払い額を抑えること
もできる。この制度の活用も金融危機下の不況を克服した要因の一つだった。同社の競争
力は、イノベーション力に加え、積極的な国外展開や柔軟な雇用制度にもありそうだ。
同社の売上高は 04 年の 6,500 万ユーロから 10 年には 9,000 万ユーロと、ほぼ 1.5 倍
になった。12 年までに 1 億 2,000 万ユーロまで伸ばすことを目指す。
中国、ブラジル、米国の自社拠点に加え、スウェーデン、オーストラリア、单アフリカ
共和国などに販売代理店を置く。現在、同社が狙うのは、経済成長が著しいアジア市場だ。
中国に自社拠点を構える一方、自動車産業の市場潜在性の高いタイ、インドネシア、マレ
ーシアの市場開拓に取り組んでいる。マレーシアでは、自動車産業のパートナーを探して
いたという代理店を、取引先から紹介してもらった。話はとんとん拍子に進み、半年程度
で販売代理店の開設にこぎつけた。潜在需要がある地域の開拓はスピードが勝負。小回り
が利く中小企業の強みを生かし、即断、即決で進めたようだ。
一方、自動車市場の大きさに着目して長年、市場開拓に取り組んでいる日本で、思うよ
うな成果が上がっていない。「日本の自動車産業における大企業とサプライヤー間の強い連
帯感は評価すべきだが、国外企業にとっては進出が難しくなる」(ビリューニンク氏)ため
だ。
国外市場の開拓はコストがかさむため、現地の取引先企業、代理店のほか、ドイツ商工
会議所など公的機関を活用し、コストを抑制しながら市場潜在性や競争状況を分析してい
るという。
④ 「ドイツ魂」の浸透を
テュンカースが国外拠点で重視しているのは、人材育成だ。国外の主要ポスト採用も主
に現地で行っている。現地採用を通じて文化や言葉の壁が乗り越えられるからだ。採用に
際しては、専門知識だけでなく、異文化に対する適忚能力も重視する。
採用後は、管理職だけでなく、営業担当者やエンジニアなど幅広い従業員の研修をドイ
ツ本社で実施する。研修では経営方針にとどまらず、正確性、几帳面さ、組織力という、
いわゆる「ドイツ魂」を直接教え込む。
ただし、教育は一方向ではなく、双方が学ぶ場だ。国外従業員への研修は、国内従業員
にとって各地の商習慣や文化の違いを学ぶ重要な機会となる。「経営理念の浸透も重要だが、
国外拠点の優れたアイデンティティーを保つことも大事。お互いの長所でお互いの短所を
補いながら成長していくよう努めている」というのが、同社の人材育成に対する姿勢だ。