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第 4章 海外展開 ―成功と失敗の要因を探る―
Page 1
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第1節
295
中小企業白書 2014
1. 我が国の現状と成長する海外市場
 第 2 部第 1 章で見たように、我が国の人口は、
2011 年から減少に転じており、中長期的に今後
も減少することが見込まれている 4。一方、海外
に目を向けると、先進国の中間層・富裕層人口は
ほぼ横ばいであるものの、南西アジア、
ASEAN、中国等、アジアでは、中間層・富裕層
人口の増加が見込まれている 5。また、IMF の予
測ではあるが、日本の GDP の増加が今後ほとん
ど見込まれない一方で、中国を始めとするアジア
では大幅な GDP の増加が見込まれており 6、企
業が成長していくためには、積極的に海外の需要
を取り込んでいく必要がある。
2. 海外市場に挑戦する中小企業
 第 3-4-1 図は、我が国の輸出額と対外直接投
資額の推移を見たものである。我が国の輸出額は、
近年ではリーマン・ショック後の 2009 年の時に、
大きく落ち込んでいるものの、長期的にはおおむ
ね増加傾向である。一方で、対外直接投資額は、
バブル崩壊後、2000 年代の前半までは低迷して
いたが、その後大幅に増加していることが分かる。
これは、2000 年代後半から円高方向に推移した
こと 7 によりコスト削減を目的とした生産拠点の
直接投資や、拡大するアジア等の需要の獲得を目
的とした販売拠点の直接投資が増加したものと考
えられる。
第1節
成長する海外市場、挑戦する中小企業
4
海外展開
―成功と失敗の要因を探る―
 アジアを始め新興国の成長は著しく、人々の生活水準は向上し続けている。一方で、我が国の人口は
2011 年から減少に転じ、今後も引き続き減少が見込まれている。国内での需要減少や産業構造、市場
の需要の変化等に直面し、新たな市場を求めて、様々な困難やリスクを乗り越え、海外市場に活路を見
いだそうとする中小企業もいる。第 4 章では、中小企業の海外展開の現状を分析し、成功と失敗の要
因を探るとともに、今後の海外展開支援の在り方について検討をする。
 なお、ここでいう「海外展開」とは、輸出(直接輸出
1
・間接輸出
2
含む)、直接投資
3
(対外直接投資)
をいう。輸入、海外企業との業務提携、外国人観光客の誘致等も海外展開に含まれることもあるが、本
稿では主としては扱わない。
1
「直接輸出」とは、企業が自己又は自社名義で通関手続きを行った輸出をいう。
2
「間接輸出」とは、輸出相手は分かっており、自国内商社や卸売業者、輸出代理店等を通じて行った輸出をいう。
3
「直接投資」とは、出資により海外に法人を設立すること、及び、企業が海外現地法人に資本参加することをいう。
4
前掲第 2-1-7 図を参照。
5
前掲第 2-1-9 図を参照。
6
前掲第 2-1-10 図を参照。
7
前掲第 1-1-11 図を参照。

Page 2
296 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 それでは、中小企業の海外展開について、輸出
及び直接投資の動向を見ていく。まず、中小企業
(製造業)の輸出の現状を見ていこう。第 3-4-2
図は、直接輸出を実施している企業の推移を見た
ものであるが、2002 年以降、中小企業の製造業
で直接輸出を行っている企業の数及び中小製造業
全体に占める割合は増加基調にあることが分か
る。また、小規模事業者について見ても、同様に
増加基調にあることが見て取れる。
第 3-4-1 図
我が国の輸出額と対外直接投資額の推移
資料:財務省、日本銀行の資料から(独)日本貿易振興機構作成。
(注)2012 年の直接投資額は速報値。
(年)
(億ドル)
(億ドル)
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
7,000
8,000
9,000
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010 2012
対外直接投資額(右軸)
輸出額(左軸)
0
200
400
600
800
1,000
1,200
1,400

Page 3
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第1節
297
中小企業白書 2014
 第 3-4-3 図は、輸出企業の業種構成を見たも
のであるが、機械工具、加工機械等の生産用機械
器具製造業の割合が最も高い。さらに、化学工業、
電気機械器具製造業、金属製品製造業といった業
種が続き、中小企業の製造業ではこれらの業種が
輸出の中心を担っていることが分かる。また、第
3-4-4 図は、業種別の輸出企業数の推移を見てい
るが、生産用機械器具製造業の企業が一貫して最
も多いことが分かる。これらのことから、我が国
の中小企業が供給する機械工具、加工機械等、生
産現場で要となる製品が、海外市場でも評価が高
く、輸出の主力となっているといえる。
0
11
(年)
(社)
(%)
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
7,000
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
直接輸出小規模製造業企業数(左軸)
直接輸出中小製造業企業数(左軸)
小規模製造業全体に占める割合(右軸)
中小製造業全体に占める割合(右軸)
4,342
1,389
3,568
964
4,603
4,702
4,838
5,348
1,452
6,196
1,699
6,303
1,811
5,937
1,680
5,920
1,628
6,336
1,916
1,249
1,253
1,340
第 3-4-2 図
直接輸出企業の数と割合の推移(中小・小規模製造業)
資料:経済産業省「工業統計表」、総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‒活動調査」再編加工
(注)1.従業者数 4 人以上の事業所単位の統計を、企業単位で再集計している。
   2. 「平成 24 年経済センサス‒活動調査(再編加工)」によると、従業者数 4 人以上の製造事業所を保有する中小企業数は約 20 万社、
小規模事業者は約 15 万社である。

Page 4
298 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
金属製品製造業
7.5%
業務用機械
器具製造業
5.9%
はん用機械
器具製造業
5.5%
生産用機械
器具製造業
生産用機械
器具製造業
18.8%
化学工業
8.5%
電気機械
器具製造業
電気機械
器具製造業
8.4%
その他
45.4%
第 3-4-3 図
直接輸出企業の業種構成(中小製造業)
資料:総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‒活動調査」再編加工
(注)従業者数 4 人以上の事業所単位の統計を、企業単位で再集計している。
1,400
02
01
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(年)
(社)
1,000
800
600
200
400
1,200
1108
1123
1194
432
473
372
371
519
510
540
469
498
534
447
378
0
生産用機械器具製造業
化学工業
電気機械器具製造業
金属製品製造業
業務用機械器具製造業
816
399
335
255
408
684
313
324
283
226
836
391
429
356
307
871
398
345
439
334
916
418
362
434
332
1027
424
356
462
494
1194
518
467
566
422
1228
527
476
402
523
第 3-4-4 図
業種別の直接輸出企業の数の推移(中小製造業)
資料:経済産業省「工業統計表」、総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‒活動調査」再編加工
(注)1.従業者数 4 人以上の事業所単位の統計を、企業単位で再集計している。
   2.2011 年の上位 5 つの業種について表示している。

Page 5
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第1節
299
中小企業白書 2014
 次に、直接投資を実施している企業の動向を見
ていく。やや過去のものになるが、我が国に所在
する全ての事業所を対象としている「平成 21 年
経済センサス―基礎調査」によると、2009 年時
点で直接投資を実施している中小企業の数は
5,630 社 8 であった。では、近年の中小企業の直
接投資の状況はどうなっているのであろうか。
 第 3-4-5 図は、「企業活動基本調査」により、
海外子会社を保有する企業の割合の推移を見たも
のである。中小企業の製造業で 18.9%、中小企業
全体でも 13.4%の企業が海外子会社を保有してお
り、その推移を見ても増加傾向にあることが分か
る。
 ただし、「企業活動基本調査」は、従業者 50 人
以上かつ、資本金又は出資金 3,000 万円以上の会
社を対象としており、中小企業でも比較的規模の
大きな企業を対象とした調査であることに留意が
必要である。
35.0
02
01
00
99
98
96
97
03
04
05
06
07
08
09
10
11
94
(年度)
95
(%)
25.0
20.0
15.0
5.0
10.0
30.0
28.5
26.0
28.6
29.3
30.2
13.0
14.1
17.9
18.2
18.9
9.3
10.1
12.7
12.8
13.4
0.0
大企業
中小企業(製造のみ)
中小企業
25.1
27.0
8.1
9.0
6.6
7.5
27.3
27.9
10.3
10.3
8.5
8.5
27.8
10.7
8.8
28.1
28.6
11.1
11.7
8.9
8.7
27.6
28.0
15.1
16.3
10.8
11.7
28.2
27.8
17.0
16.9
12.3
11.9
28.2
28.3
17.1
17.3
12.1
12.4
第 3-4-5 図
海外子会社を保有する企業の割合
資料:経済産業省「企業活動基本調査」再編加工
(注)1.「海外子会社を保有する企業」とは、年度末時点に海外に子会社又は関連会社を所有する企業をいう。
   2. 「子会社」とは、当該会社が 50%超の議決権を所有する会社をいう。子会社又は当該会社と子会社の合計で 50%超の議決権を有
する会社も含む。「関連会社」とは、当該会社が 20%以上 50%以下の議決権を直接所有している会社をいう。
8
2012 年版中小企業白書 P76 参照。

Page 6
300 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 また、海外子会社を保有している企業の業種構
成を見ると、中小企業では、製造業が大半を占め
ており、続いて、卸売業が多くなっている(第
3-4-6 図)。ただし、第 3-4-7 図では、2003 年度
の企業数を 100 とした時の業種別の企業数の推移
を見たものであるが、近年では、中小企業でもサー
ビス業や情報通信業の増加も著しいことが分か
る。具体的には、ラーメン店や美容店、情報シス
テム開発会社等といった企業も海外に進出してい
9
0%
100%
製造業
卸売業
情報通信業
サービス業
その他
大企業
中小企業
70.9
6.1
16.2
1.4
18.3
5.9 3.7
1.2
23.2
53.0
第 3-4-6 図
海外子会社を保有する企業の業種構成(2011 年度)
資料:経済産業省「平成 24 年企業活動基本調査」再編加工
(注)1.「海外子会社を保有する企業」とは、年度末時点に海外に子会社又は関連会社を所有する企業をいう。
   2. 「子会社」とは、当該会社が 50%超の議決権を所有する会社をいう。子会社又は当該会社と子会社の合計で 50%超の議決権を有
する会社も含む。「関連会社」とは、当該会社が 20%以上 50%以下の議決権を直接所有している会社をいう。
   3.サービス業は、「小売業」、「宿泊、飲食サービス業」等を含む。
9
事例 3-4-5 で飲食店が海外に進出した事例、事例 3-4-6 で美容店が海外に進出した事例、事例 3-4-10 で情報システム開発会社が海外に進出した事
例を掲載している。

Page 7
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第1節
301
中小企業白書 2014
250.0
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(年度)
(2003 年度 =100)
150.0
100.0
50.0
0.0
200.0
製造業
卸売業
情報通信業
サービス業
101.4
100.0
104.0
99.2
83.7
122.7
95.7
91.3
127.8
129.6
121.8
133.1
133.1
129.9
141.4
168.5
135.8
123.8
144.0
149.6
144.6
143.7
179.7
153.3
143.4
147.7
164.7
143.1
173.9
148.8
162.0
184.2
220.7
第 3-4-7 図
海外子会社を保有する中小企業数の業種別推移
資料:経済産業省「企業活動基本調査」再編加工
(注)1.「海外子会社を保有する中小企業」とは、年度末時点に海外に子会社又は関連会社を所有する中小企業をいう。
   2. 「子会社」とは、当該会社が 50%超の議決権を所有する会社をいう。子会社又は当該会社と子会社の合計で 50%超の議決権を有
する会社も含む。「関連会社」とは、当該会社が 20%以上 50%以下の議決権を直接所有している会社をいう。
   3.サービス業は、「小売業」、「宿泊、飲食サービス業」等を含む。

Page 8
302 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 一方、中小企業はどのような国・地域に直接投
資を実施しているのであろうか。第 3-4-8 図は、
海外子会社の地域構成を見たものであるが、中小
企業の海外子会社は、中国やアジアに大半が所在
していることが分かる。これは、アジアの安価な
人件費を求めての進出や取引先のアジア展開への
随伴に加えて、近年は成長著しいアジアの需要の
獲得を目的としたものが多いと推察される。また、
日本の中小企業の多くがアジアに集中していると
いう現状は、将来、不可抗力のリスク(政治的な
混乱や経済危機、自然災害等)がアジアで発生し
た場合、より被害を受けやすい状態にあるという
こともできる。
0
100
中小企業
大企業
3.6
11.4
6.0
34.4
44.6
10.3
17.6
19.1
28.8
24.2
(%)
80
70
60
40
20
30
10
50
90
中国(含む香港)
アジア(中国を除く)
ヨーロッパ
北米
その他の地域
第 3-4-8 図
海外子会社の地域構成(2011 年度)
資料:経済産業省「平成 24 年企業活動基本調査」再編加工
(注)1.「海外子会社を保有する企業」とは、年度末時点に海外に子会社又は関連会社を所有する企業をいう。
   2. 「子会社」とは、当該会社が 50%超の議決権を所有する会社をいう。子会社又は当該会社と子会社の合計で 50%超の議決権を有
する会社も含む。「関連会社」とは、当該会社が 20%以上 50%以下の議決権を直接所有している会社をいう。
   3.「大企業」とは、中小企業基本法に定義する中小企業者以外の企業をいう。

Page 9
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第1節
303
中小企業白書 2014
 ただし、近年では、中国への直接投資を行う企
業の割合は減少傾向にある。第 3-4-9 図は、「海
外事業活動基本調査」により、投資時期別に中小
企業の海外現地法人の国・地域を見たものである。
これを見ると、2003 年度をピークに中国へ直接
投資をする企業の割合は低下しており、ASEAN
を中心に、中国以外のアジアの国・地域に重心が
移っていることが分かる。この背景としては、こ
れまでは安価な人件費等を見込んで中国に進出す
る企業が多かったものの、近年では人件費の高騰
や法制度・商習慣の不透明性 10 等を理由に、直
接投資先としての魅力が薄れてきていることが考
えられる。
0
100
11
(年度)
(%)
80
70
60
40
20
30
10
50
90
37.4
4.0
8.1
25.3
5.1
5.1
4.0
11.1
1999 年度
以前
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
その他
欧州
北米
その他アジア
ASEAN
韓国
台湾
中国(香港含む)
第 3-4-9 図
投資時期別の中小企業の海外現地法人の国・地域
資料:経済産業省「平成 24 年海外事業活動基本調査」再編加工
(注)1. 「海外現地法人」とは、子会社と孫会社を総称したものをいう。「子会社」とは、日本側出資比率合計が 10%以上の外国法人をいう。
また、「孫会社」とは、日本側出資比率合計が 50%超の子会社が 50%超の出資を行っている外国法人、及び日本側親会社の出資
と日本側出資比率合計が 50%超の子会社の出資の合計が 50%超の外国法人をいう。
   2.国内本社が、中小企業基本法に定義する中小企業者として判定された企業を集計している。
10
付注 3-4-1 を参照。

Page 10
304 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 それでは、中小企業はどのような目的で直接投
資を実施しているのであろうか。第 3-4-10 図は、
直接投資を決定した際のポイントの推移を見たも
のである。これを見ると、2004 年度では、「良質
で安価な労働力が確保できる」と回答する企業の
割合が最も高かったが、近年では、「現地の製品
需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」と回答
する企業が増加しており、最も割合が高くなって
いる。このことから、直接投資の目的が、コスト
削減から需要獲得に移っていることが分かる。
 これまで見てきたように、海外展開を実施して
いる中小企業は着実に増加している。その進出先
の国・地域は、多くが中国であったが、近年では、
ASEAN を中心とした中国以外のアジアへ広がっ
ている。直接投資を実施している業種は、多くは
製造業であるものの、近年では、サービス業や情
報通信業といった非製造業の進出も増加してい
る。また、人件費等コストの削減ではなく、海外
の旺盛な需要を獲得する目的で直接投資を実施し
ている企業が増えている。
0
(年度)
(%)
10
20
30
40
50
60
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
31.2
19.9
22.8
26.3
27.7
20.4
28.4
27.2
29.3
28.7
30.4
31.6
33.2
39.5
45.5
49.0
23.7
17.0
18.5
20.6
21.1
16.4
25.5
30.1
良質で安価な労働力が確保できる
現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる
納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある
第 3-4-10 図
中小企業が直接投資を決定した際のポイントの推移(複数回答)
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
(注)1.国内本社が、中小企業基本法に定義する中小企業者と判定された企業を集計している。
   2.2011 年度に回答の割合の高い上位 3 項目について表示している。

Page 11
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
305
中小企業白書 2014
 第 1 節で見たように、海外展開を実施する中小
企業が増加していることが分かった。しかし、海
外展開がうまくいっている企業、うまくいってい
ない企業がいるのも事実である。中には直接投資
から撤退を経験し、国内の事業自体にも悪影響が
出てしまう企業もいる。
 それでは、海外展開の成功と失敗の分かれ道と
なる要因は何であろうか。ここからは、中小企業
庁が委託し、損保ジャパン日本興亜リスクマネジ
メント株式会社が 2013 年 12 月に実施した「中小
企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調
査」11 を基に、中小企業の海外展開の現状を見て
いく。
1. 輸出企業の現状
 まず、輸出を実施している中小企業(輸出企業)
の成功と失敗の要因を見ていく。第 3-4-11 図は、
輸出企業の今後の輸出の方針を見たものである。
これによると、現在輸出に取り組んでいる企業の
7 割近くが、今後輸出を「拡大したい」と考えて
おり、逆に「縮小・撤退したい」、「今後の計画な
し」という企業はほとんどおらず、多くの企業が
輸出に一定の手応えと将来性を感じていることが
推測される。
第2節
海外展開の成功の要因・失敗の要因
0%
100%
(n=2,489)
拡大したい
維持したい
縮小・撤退したい
今後の計画なし
25.6
2.0 3.0
69.4
第 3-4-11 図
輸出企業の今後の輸出の方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
11
中小企業庁の委託により、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント(株)が、2013 年 12 月に企業 50,145 社を対象に実施したアンケート調査。
回収率 8.7%。

Page 12
306 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 また、第 3-4-12 図は輸出企業の輸出を開始し
た時期を見たものである。これを見ると、中規模
企業でも 4 割近く、小規模事業者の半数以上が
2000 年以降に輸出を開始しており、小規模事業
者を中心に、近年になって輸出を始めた企業が多
いことが見て取れる。
 第 3-4-13 図は、現在主力である輸出先の国・
地域と今後輸出先として重視する国・地域を見た
ものである。これによると、現在主力である輸出
先の国・地域は、中国と回答した企業が最も多く、
次に北米と回答した中小企業が多くなっている。
一方で、今後輸出先として重視している国・地域
では、中国、台湾、韓国等は大きく減少している
一方、タイ、ベトナム、インドネシアといった
ASEAN 諸国では増加しており、今後の輸出先と
して ASEAN を有望視している企業が多いこと
が分かる。また、ミャンマーやインドを有望視し
ている企業の割合も大きく増加していることが注
目される。
0%
100%
小規模事業者
(n=839)
中規模企業
(n=1,648)
3.2
7.2
11.1
15.2
12.1
12.4
16.6
14.7
7.5
2.6 4.1
7.4
12.8
8.3
12.5
21.0
20.9
10.5
1950 年代以前
60 年代 70 年代
80 年代
90~94 年
95~99 年
2000~04 年
2005~09 年
2010 年以降
第 3-4-12 図
輸出企業が輸出を開始した時期
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 13
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
307
中小企業白書 2014
2. 輸出の成功と失敗の分かれ道
 それでは、輸出における成功と失敗の要因は何
であろうか。まず、輸出の開始が企業に与える影
響を見ていく。第 3-4-14 図は、輸出の開始が企
業に与えた影響を見たものである。特に、売上高
の増加、企業の将来性、利益の増加では、良い影
響が出たと回答している企業が 5 割を超えてお
り、輸出の開始が企業業績に良い影響を与えてい
る企業が多いことが分かる。ただし、資金繰りに
ついては、1 割超の企業が悪い影響が出たと回答
しており、輸出の開始にも一定のリスクがあるこ
とには留意が必要である。
0
(%)
現在、主力である国・地域
(n=2,449)
今後、重視する国・地域
(n=2,404)
5
10
15
20
25
30
35
中国
香港
台湾
韓国
タイ
ベトナム
インドネシ
フィリピン
マレーシア
シンガポー
ミャンマー
その他
ASEAN
インド
その他アジ
北米
ロシア・東
西欧
中東
中南米
アフリカ
その他
28.9
5.3
8.8
9.6
2.1
0.7
1.0
0.4
10.6
7.7
6.2
1.6
1.9
2.2
3.7
11.9
5.7
2.2
1.4
8.2
2.4
3.0
1.7
2.2
0.4
1.2
0.7
12.6
6.6
1.9
1.1
1.3
23.8
3.0
6.2
4.2
2.1
1.5
0.7
1.7
0.8
1.2
第 3-4-13 図
現在主力である輸出先と今後重視する輸出先の国・地域
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
0%
100%
良い影響
やや良い影響
どちらとも言えない
悪い影響
やや悪い影響
売上高の増加
(n=2,455)
企業の将来性
(n=2,448)
利益の増加
(n=2,450)
経営管理の高度化
(n=2,434)
資金繰り
(n=2,436)
国内雇用の増加
(n=2,426)
32.4
22.6
24.7
10.1
9.4
7.7
37.4
42.2
34.0
26.9
20.3
17.2
28.1
33.0
36.1
60.1
57.8
70.6
10.2
2.3
1.1
1.5
1.6
4.1
2.3
3.4
0.6
0.5
1.1
0.5
第 3-4-14 図
輸出の開始が企業に与えた影響
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 14
308 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 一方で、輸出の開始をしても売上高の増加につ
ながったとはいえないと回答する企業 12 も約 3
割いることにも目を向けるべきであろう。売上高
が増加した企業と増加しなかった企業では、どの
ような違いがあるのであろうか。第 3-4-15 図は、
輸出を成功させるために最も重要と考えている、
つまり成功と失敗の分かれ道と考えている取組を
尋ねたものである。これを見ると、「販売先の確
保」、次に「信頼できる提携先・アドバイザーの
確保」と回答する企業が、売上高が増加した企業、
売上高が増加しなかった企業のいずれでも多い。
35
外国語や貿易関連事務ができる人材の確
採算性の維持・管理
海外向け商品・サービスの開発
海外展開を主導する人材の確保
現地の市場動向・ニーズの把握
販売先の確保
信頼できる提携先・アドバイザーの確保
現地の法制度・商習慣の把握
リスク・トラブルへの対応
必要資金の確保
その他
(%)
25
20
15
5
0
10
30
売上高が増加した企業(n=1,680)
売上高が増加しなかった企業(n=722)
29.1
25.8
10.6
7.7
7.5
4.2
3.7
3.0
2.7
0.8
6.6
10.2
4.7
4.6
4.8
4.2
1.7
16.8
13.9
16.2
13.2
8.0
第 3-4-15 図
輸出を成功させるために最も重要と考えている(成功と失敗の分かれ道となる)取組
(輸出の開始によって売上高が増加した企業と増加しなかった企業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 「売上高が増加した企業」とは、輸出の開始が与えた「売上高の増加」への影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企
業をいう。また、「売上高が増加しなかった企業」とは、売上高への影響として、「どちらとも言えない」、「やや悪い影響」、「悪い影
響」と回答した企業をいう。
12
輸出の開始が与えた「売上高の増加」への影響として、「どちらとも言えない」、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業を指す。

Page 15
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
309
中小企業白書 2014
 それでは、売上高の増加した企業と増加しな
かった企業の違いは何であろうか。第 3-4-16 図
では、最も重要な取組として「販売先の確保」と
回答した企業が、「販売先の確保」に取り組めた
か否かについて自社の評価を尋ねたものである。
これを見ると、売上高が増加した企業では、約 6
割の企業が「取り組めている」と回答している一
方、売上高が増加しなかった企業は、「取り組ん
でいるが、うまくいっていない」、「十分に取り組
めていない」、「全く取り組めていない」と回答す
る企業が 7 割近くいることが分かる。
 つまり、売上高が増加した企業では自らの成功
の体験を基に、また売上高が増加しなかった企業
では自らの反省を基に、「販売先の確保」や「提
携先・アドバイザーの確保」が輸出を成功させる
ために重要であると回答していると考えられる。
0%
100%
十分取り組めている
ある程度、取り組めている
売上高が増加した
企業  
   (n=489)
取り組んでいるが、うまくいっていない
十分に取り組めていない
全く取り組めていない
4.7
2.7
56.9
29.6
19.4
20.4
16.6
36.0
2.5
11.3
売上高が増加しな
かった企業
(n=186)
第 3-4-16 図
輸出を成功させるための最も重要な取組として
「販売先の確保」と回答した企業の自社の取組への評価
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 「売上高が増加した企業」とは、輸出の開始が与えた「売上高の増加」への影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企
業をいう。また、「売上高が増加しなかった企業」とは、売上高への影響として、「どちらとも言えない」、「やや悪い影響」、「悪い影
響」と回答した企業をいう。

Page 16
310 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
事 例
 神奈川県茅ヶ崎市の株式会社丸越(従業員 22 名、資本金 3,000 万円)は、工場で使用される機械・器具の卸売
を行う事業者である。同社では、受注先の大手企業がシンガポールに進出したことをきっかけに、1970 年代から
輸出を実施している。
 輸出を開始した時期は早かった同社であるが、その取引が大きく拡大したのは、2007 年以降と比較的最近になっ
てからである。そのきっかけは、英語、スペイン語、イタリア語でも閲覧可能なホームページを作成したことであっ
た。それまで、同社では日本語のホームページもなかったが、外国語のホームページを開設することで、それまで
受注のなかった国・地域のバイヤーからも連絡が来るようになり、海外の取引先の数はホームページを開設する前
に比べ、10 倍程度に大きく増えた。
 また、同社では、海外の提携先と協力することで、海外展開を進めている。過去に、同社ではシンガポールに販
売拠点を構え、自社で営業活動を行っていた。しかし、海外拠点に駐在する人材の確保が困難であったことや、見
込み通り販売先を拡大することができなかったため、撤退することとなった。現在では、信頼できる海外現地のバ
イヤーと提携することで販売を拡大させている。「自社で拠点を設置して、販売先を開拓することも挑戦したが、
当社にとっては信頼できるパートナーと協力して販売先を広げていくことが最も良い形だと考えている。」と同社
の大箭剛久(おおやたけひさ)社長は語る。
3-4-1.
外国語のホームページの開設や海外のバイヤーとの提携によって
販売先を確保している企業
株式会社丸越
同社の大箭剛久社長

Page 17
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
311
中小企業白書 2014
同社の製品(スプールバルブ)
 愛知県名古屋市のエイベックス株式会社(従業員 326 名、資本金 1,000 万円)は、自動車関連部品等の製造業
者である。同社の製品は、国内の顧客を通じて、8 割以上が、北米、中国、東南アジア等、海外向けに販売されて
いる。
 過去、同社では、切削・研削を広く請け負っていたが、受注や利益の確保がうまくいっているとは言い難かった。
企業としてより他社と差別化するため、精密加工メーカーとして得意分野を持つ必要があると考え、より高付加価
値の仕事を受注するため、戦略的にスプールバルブ 13 に特化することにした。
 それまでは、国内の一次サプライヤーが主要な取引先であったが、専門メーカーとしてイメージが向上したこと
によって、国内・海外の大手自動車メーカーへも販路を広げることができた。2000 年頃から商社等を介した海外
への販売にも挑戦し、現在ではスプールバルブというニッチな市場で国際的なシェアを獲得することに成功してい
る。
 このように、同社が海外で販売先を確保し、さら
にはニッチな市場で国際的なシェアまで確保するた
めには、独自の技術力の獲得が必要不可欠であった。
その基盤としてあったのは、「人作り経営」という
考えである。同社では、創業以来、人材育成を重視
しており、現在でも社員一人一人が「何でも自前で
やる」という方針の下、技能・技術向上に取り組む
土壌があるという。このことが、世界に通用する同
社の技術力につながっている。
 「現在、高い品質を維持できるのは、国内にしか
ない技術と技能によることが大きい。今後も海外か
らの受注を獲得するためには、人材の育成による技
術力の向上に絶えず取り組んでいきたい。」と同社
の加藤丈典(かとうたけのり)社長は語る。
3-4-2.
ニッチな市場で国際的なシェアを獲得し、
売上高の大半を海外向けが占める自動車部品製造業者
エイベックス株式会社
事 例
13 「スプールバルブ」とは、オートマティックトランスミッションの油圧を制御する自動車部品のことをいう。

Page 18
312 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 福井県越前市の武生(たけふ)特殊鋼材株式会社(従業員 45 名、資本金 5,000 万円)は、包丁等の素材となる、
異なる金属を接合した特殊金属(クラッドメタル)の製造を行う企業である。同社の製造する刃物向けクラッド材
の国内シェアは 6 割を超える。
 同社が、輸出を開始したのは、50 年以上前と非常に古く、最初は同社の製品に関心を持った台湾の企業からの
声掛けがきっかけであった。2006 年には、クラッド材を用いた高級包丁「旬」シリーズの切れ味やデザインが米
国やドイツで受け入れられ、海外への販売が大きく増加した。リーマン・ショックで売上の減少を経験したが、現
在では、売上の 2 割が海外への販売となるに至っている。
 同社では、越前市内の刃物メーカーやデザイナー等、15 者と連携し、「越前ブランドプロダクツ」という共同体
を立ち上げ、積極的に海外展開を進めている。共同体の設立の背景には、「岐阜県関市や大阪府堺市のように知名
度は高くないが、評価は高い福井県越前市の伝統産業である越前打刃物を、和食の人気が根強い欧米で浸透させ、
産業の復権を図りたい。」という思いがあった。「今までの枠を超えた製品を作っていきたかった。」と同社の河野
通亜(こうのみちつぐ)社長は言う。
 「越前ブランドプロダクツ」では、同社が提供する金属素材をメンバー企業の職人が分業で加工し、製品を製造
している。「iiza(いいざ)」という共通のブランドも生み出している。さらには、2010 年には、世界最大級のドイ
ツの消費財見本市「アンビエンテ」に、共同での出展も果たした。
 「連携を進めるに当たっては、福井県庁や越前市役所、地元の武生商工会議所からも助けてもらった。今後は、
アフターケアにも力を入れるため、研ぎの海外拠点を設けるなども考えている。さらに海外事業を進めていきたい。」
と河野社長は語る。
3-4-3.
地域の伝統産業との連携により、
海外展開を進めている金属素材製造業者
武生特殊鋼材株式会社
事 例
同社の河野通亜社長

Page 19
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
313
中小企業白書 2014
3. 直接投資企業の現状
 次に、直接投資を行っている中小企業(直接投
資企業)の現状を見ていく。そもそも直接投資と
一括りにしても、直接投資先の機能は様々である。
第 3-4-17 図は、企業にとって最も重要な直接投
資先の拠点の機能を見たものである。これを見る
と、中小企業の製造業の約 8 割の企業が「生産機
能」と回答している。また、非製造業・製造業共
に約 6 割の企業が「販売機能」と回答している。
その他、「調達機能」や「研究・開発機能」の直
接投資先を持つ企業もいることが分かる。
 ここからは、「生産機能」や「販売機能」の直
接投資先を持つ中小企業を中心に見ていくことに
する。
0
90
生産機能
販売機能
調達機能
研究・開発機能
その他
84.1
43.4
55.0
56.6
25.0
21.1
7.6
11.3
3.6
16.0
(%)
70
60
50
30
10
20
40
80
製造業(n=527)
非製造業(n=399)
第 3-4-17 図
最も重要な直接投資先の拠点の機能(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 20
314 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 第 3-4-18 図、第 3-4-19 図は、直接投資先の
機能別に、直接投資企業の今後の直接投資の方針
を見たものである。第 3-4-18 図は、生産機能の
直接投資先を持つ企業が、今後生産機能の直接投
資をどのように考えているのかを見たものであ
る。これによると、半数以上の企業が「生産機能
の直接投資を拡大したい」と考えていることが分
かる。一方、販売機能の直接投資先を持つ企業に
ついて見たものが第 3-4-19 図であるが、約 6 割
の企業が「販売機能の直接投資を拡大したい」と
考えていることが分かる。すなわち、生産機能と
しても、販売機能としても、直接投資を実施して
いる企業の多くが、一定の手応えと将来性を感じ
ていることが分かる。
0%
100%
拡大したい
維持したい
縮小・撤退したい
(n=535)
39.6
4.7
55.7
第 3-4-18 図
生産機能の直接投資先を持つ企業の今後の直接投資(生産機能)の方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)「生産機能の直接投資先を持つ企業」とは、最も重要な直接投資先の機能として、「生産機能」と回答した企業をいう。
0%
100%
拡大したい
維持したい
縮小・撤退したい
(n=361)
36.3
2.5
61.2
第 3-4-19 図
販売機能の直接投資先を持つ企業の今後の直接投資(販売機能)の方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)「販売機能の直接投資先を持つ企業」とは、最も重要な直接投資先の機能として、「販売機能」と回答した企業をいう。

Page 21
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
315
中小企業白書 2014
 第 3-4-20 図は、最も重要な直接投資先の投資
時期を業種別に見たものである。これを見ると、
製造業、非製造業共に 7 割以上が 2000 年以降に
直接投資を実施している。特に、非製造業では、
半数以上が 2005 年以降の直近 10 年内に実施した
ものである。前掲第 3-4-10 図と併せて見ると、
特に直近 10 年で製造業、非製造業共に海外の需
要獲得のための直接投資が増加していると考えら
れる。
 第 3-4-21 図は、最も重要な直接投資先につい
て、当初の目的と現在の目的を業種別に尋ねたも
のである。これを見ると、製造業では、当初の目
的として、「新規の取引先・市場の開拓」が最も
多く、次に「既往取引先の随伴要請への対応」、「人
件費等のコストの削減」が多くなっている。また、
現在の目的では、「新規の取引先・市場の開拓」
と回答する企業の割合が増加している一方、「既
往取引先の随伴要請への対応」、「人件費等のコス
トの削減」と回答する企業の割合が減少している。
このことから、製造業では、当初は既往取引先の
随伴要請やコストの削減を目的に直接投資を行っ
た場合でも、直接投資後は、新規の取引先や市場
の開拓を進めている企業が多いことが分かる。
 一方、非製造業では、当初より取引先・市場の
開拓を目的に直接投資をしているため、「新規の
取引先・市場の開拓」という目的については、当
初と現在ではあまり変化していない。
 また、製造業、非製造業のどちらも、「投資利
益の獲得」の目的としている企業の割合は、当初
から現在にかけて 2 倍以上増加していることが分
かる。このことから、直接投資の事業が当初の見
込み以上にうまくいき、国内の親会社にも資金を
還流する余裕が出てきている中小企業もいること
が推測される。
0%
100%
0.4
0.4
0.5
1.3
3.8
7.5
11.1
17.6
26.6
29.1
2.5
0.8 6.2
7.4
13.0
23.6
21.7
26.6
製造業
(n=530)
非製造業
(n=398)
1950 年代以前
60 年代
70 年代
80 年代
90~94 年
95~99 年
2000~04 年
2005~09 年
2010 年以降
第 3-4-20 図
最も重要な直接投資先の投資時期
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 22
316 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 第 3-4-22 図、第 3-4-23 図は、直接投資先の
機能別に、現在最も重要な国・地域と今後最も重
視している国・地域を見たものである。これを見
ると、生産機能、販売機能の直接投資先として、
現在最も重要な国・地域は、中国と回答する企業
が最も多く、次にタイ、ベトナム、インドネシア
といった ASEAN 諸国、さらに北米が続く。
 また、今後最も重視している国・地域を見ると、
中国と回答する企業は減少し、ベトナム、インド
ネシアといった国を回答する企業が増加してい
る。生産拠点、販売拠点としても、中国から
ASEAN へ企業の関心が移っていることが分か
る。さらに、生産機能の直接投資先でミャンマー
が、販売機能の直接投資先でインドが、今後最も
重視している国・地域として大きく増加している
ことも併せて指摘しておきたい。
0%
100%
30.1
26.7
21.2
4.7
7.6
5.5 1.1
1.7
1.3
36.7
16.3
14.5
5.6
10.7
4.8
5.1 2.6 3.6
37.4
10.3
11.5
13.1
11.3
6.4
5.4 2.2
2.6
38.2
16.3
15.7
10.1
9.8
6.3 1.3
1.1
1.1
当初の目的
(n=528)
現在の目的
(n=523)
当初の目的
(n=392)
現在の目的
(n=390)
新規の取引先・市場の開拓
既往取引先の随伴要請への対応
人件費等のコストの削減
投資利益の獲得
原材料・部材等の仕入・調達
既往取引先への
サービスの向上
海外市場の調査
優秀な人材の確保
新商品・サービスの開発
製造業
非製造業
第 3-4-21 図
最も重要な直接投資先の当初の目的と現在の目的
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)当初の目的と現在の目的は、それぞれ最も優先順位の高いと回答しているものを集計している。

Page 23
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
317
中小企業白書 2014
0
(%)
現在、最も重要な国・地域
(n=731)
今後、最も重視する国・地域
(n=721)
中国
香港
台湾
韓国
タイ
ベトナム
インドネシア
フィリピン
マレーシア
シンガポール
ミャンマー
その他ASEA
N
インド
その他アジア
北米
ロシア・東欧
西欧
中東
中南米
アフリカ
その他
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
46.2
14.4
2.7 2.1
1.2
5.1
0.3
1.1
0.1
0.1
0.7
0.6
2.1
12.5
7.9
0.7
4.4
1.5
3.1
0.8
3.0
1.9
10.3
4.4
1.0
1.6
1.1
1.4
0.5
33.8
1.0
15.0
3.1
2.2
1.5
5.3
1.2
1.0
0.3
1.7
0.3
1.0
第 3-4-22 図
直接投資先(生産機能)として、現在最も重要な国・地域と今後最も重視する国・地域
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
0
(%)
現在、最も重要な国・地域
(n=706)
今後、最も重視する国・地域
(n=717)
中国
香港
台湾
韓国
タイ
ベトナム
インドネシア
フィリピン
マレーシア
シンガポール
ミャンマー
その他ASEA
N
インド
その他アジア
北米
ロシア・東欧
西欧
中東
中南米
アフリカ
その他
5
10
15
20
25
30
35
40
45
40.7
0.8
0.4
0.8
6.9
2.3
0.6
0.3
1.6
0.8
2.1
2.2
13.4
2.5
5.4
5.0
3.0
3.3
13.6
4.5
6.9
1.7
2.0
2.3
2.4
0.1
32.9
4.0
6.4
9.2
1.5
1.5
1.4
1.3
0.8
7.7
3.5
0.6
0.3
2.0
0.6
0.7
第 3-4-23 図
直接投資先(販売機能)として、現在最も重要な国・地域と今後最も重視する国・地域
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 24
318 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
4. 直接投資の成功と失敗の分かれ道
 次に、直接投資の成功と失敗の要因について見
ていく。まず、直接投資先の機能別に、国内事業
に与えた影響を見ると、「企業の将来性」では、
生産機能と販売機能の直接投資のいずれも、良い
影響が出たと回答する企業が 7 割前後となってい
る。続いて、「売上高の増加」、「利益の増加」、「経
営管理の高度化」で、良い影響があったと回答す
る企業が多い(第 3-4-24 図、第 3-4-25 図)。
また、「国内雇用の増加」について見ると、生産
機能と販売機能の直接投資のいずれも、悪い影響
があったと回答する企業は少ない 14
 一方で、「資金繰り」については、生産機能と
販売機能の直接投資のいずれも、良い影響があっ
たと回答する企業よりも、悪い影響があったと回
答する企業が多く、2 割以上の企業が直接投資の
開始により、資金繰りの悪化を感じている。
23.3
21.9
17.5
10.6
5.6
5.3
44.3
33.2
31.4
29.8
10.8
10.9
29.9
37.2
39.8
54.7
57.8
68.4
5.7
8.5
3.4
19.1
11.5
2.0
2.9
1.5
6.7
3.9
1.2
1.4
0%
100%
良い影響
やや良い影響
どちらとも言えない
やや悪い影響
悪い影響
企業の将来性
(n=592)
売上高の増加
(n=594)
利益の増加
(n=590)
経営管理の高度化
(n=587)
資金繰り
(n=586)
国内雇用の増加
(n=589)
第 3-4-24 図
直接投資(生産機能)の開始によって企業の国内事業に与えた影響
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)最も重要な直接投資先の機能として、「生産機能」と回答した企業の、直接投資の開始による国内事業への影響の回答を集計している。
14
詳細は、コラム 3-4-1 を参照。

Page 25
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
319
中小企業白書 2014
 前掲第 3-4-24 図、第 3-4-25 図で、直接投資
の開始によって資金繰りが悪化している企業もい
ることが分かった。では、直接投資の投資資金の
回収には、どの程度の期間が掛かるのであろうか。
 第 3-4-26 図は、直接投資をした時期別に、単
月で黒字化した経験のある企業の割合と、投資資
金が回収されている企業の割合を見たものであ
る。また、上部には、「調査・検討から投資まで」、
「投資から事業稼働まで」、「事業稼働から直接投
資先が初めて単月で黒字化するまで」、「単月で黒
字化してから投資資金が回収されるまで」の平均
期間をそれぞれ示している。
 これを見ると、「調査・検討から投資まで」は
およそ 1 年間、「投資から事業稼働まで」におよ
そ 9 か月程度、平均で掛かっており、具体的な準
備を行ってから事業稼働のスタートラインに立つ
までには、2 年近くの期間が掛かっていることが
分かる。
 また、「事業稼働から直接投資先が初めて単月
で黒字化するまで」には、平均でおよそ 2 年掛かっ
ており、投資時点から初めて単月で黒字化するま
でには平均でおよそ 3 年近く掛かっていることに
なる。
 単月で黒字化した経験のある企業の割合を見る
と、2010 年以降に直接投資をした企業では約 4
割であるものの、1994 年以前に直接投資した企
業では 9 割弱が単月での黒字化を経験している。
逆に言えば、20 年以上経っても単月で一度も黒
字化しておらず、直接投資先では追加資金を必要
としている企業が 1 割以上いることになる。
 さらに、「単月で黒字化してから投資資金が回
収されるまで」は、平均で 3 年以上掛かっており、
直接投資してから投資資金が回収されるまでには
平均でおよそ 6 年掛かっていることになる。しか
し、実際に投資回収がされている企業の割合を見
ると、直接投資から 6 年が経過している企業が当
てはまる 2005~09 年に直接投資を実施した企業
でも、4 割弱となっている。その後、投資時期が
過去に遡るほど、投資回収がされている企業は増
加するものの、1994 年以前でも 7 割弱となって
おり、20 年以上経っても 3 割以上の企業はまだ
投資資金が回収できていないことが分かる。
0%
100%
良い影響
やや良い影響
どちらとも言えない
やや悪い影響
悪い影響
25.1
19.8
13.1
11.1
4.9
5.3
45.9
36.5
33.9
29.1
10.5
11.1
26.7
37.7
42.9
55.1
60.2
73.5
4.8
7.3
3.6
19.1
7.9
1.2
2.8
1.0
5.3
2.2
1.6
0.8
企業の将来性
(n=499)
売上高の増加
(n=499)
利益の増加
(n=496)
経営管理の高度化
(n=494)
資金繰り
(n=493)
国内雇用の増加
(n=495)
第 3-4-25 図
直接投資(販売機能)の開始によって企業の国内事業に与えた影響
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)最も重要な直接投資先の機能として、「販売機能」と回答した企業の、直接投資の開始による国内事業への影響の回答を集計している。

Page 26
320 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 それでは、直接投資がうまくいっている企業と
うまくいっていない企業を分ける要因は何であろ
うか。第 3-4-27 図は、生産機能の直接投資を実
施した企業の直接投資を成功させるために最も重
要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組を見た
ものである。ここでは、うまくいっている企業(将
来性に良い影響があった企業)とうまくいってい
ない企業(資金繰りが悪化した企業)の別に見て
いる。これを見ると、「販売先の確保」、「現地人
材の確保・育成・管理」、「海外展開を主導する人
材の確保・育成」が、うまくいっている企業、う
まくいっていない企業共に回答する割合が高い。
また、うまくいっていない企業では、「採算性の
維持・管理」と回答する企業が多くなっている。
(%)
1994 年以前
1995~99 年
2000~04 年
2005~09 年
2010 年以降
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
単月で黒字化した経験のある企業の割合
投資資金が回収されている企業の割合
87.3
68.1
86.6
68.1
83.0
52.2
72.9
36.9
40.7
21.6
直接投資先への投資が回収されるまでの平均期間
(か月)
調査・検討から投資まで
投資から事業稼働まで
11.4
8.9
24.7
39.1
事業稼働から直接投資先が初
めて単月で黒字化するまで
単月で黒字化してから投資
資金が回収されるまで
第 3-4-26 図
直接投資の時期別の、黒字化している企業の割合と投資資金が回収されている企業の割合
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 単月で黒字化した経験のある企業の割合とは、事業稼働から直接投資先が初めて単月で黒字化するまでの期間に関する質問に回答し
た企業について、(具体的な期間を回答した企業の数)÷((具体的な期間を回答した企業の数)+(まだ黒字化していないと回答した企
業の数))により算出している。投資資金が回収されている企業の割合についても、同様に算出をしている。

Page 27
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
321
中小企業白書 2014
25
(%)
15
10
5
0
20
23.7
18.2
8.1
6.8
4.8
3.5
2.8
2.0
1.3
0.5
20.7
16.0
4.0
4.7
5.3
3.3
1.3
0.0
19.4
8.8
20.0
16.7
3.3
4.7
将来性に良い影響があった企業(n=396)
資金繰りが悪化した企業(n=150)
第 3-4-27 図
直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組
(直接投資(生産機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1. 「将来性に良い影響があった企業」とは、最も重要な直接投資先への投資が与えた国内事業への影響について、企業の将来性への
影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企業をいう。また、「資金繰りが悪化した企業」とは、資金繰りへの影響
として、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業をいう。
   2.最も重要な直接投資先の機能として、「生産機能」と回答した企業を集計している。

Page 28
322 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 さらに、それらの最も重要と考えている取組に
ついて、自社として取り組めているか否かを尋ね
たものが、第 3-4-28 図である。これを見ると、
いずれもうまくいっている企業の方が「取り組め
ている」と回答する企業が多いが、「販売先の確保」
では特にその差が大きくなっている。また、「海
外展開を主導する人材の確保・育成」でもその差
は大きい。
0%
100%
将来性に良い影響が
あった企業(n=94)
資金繰りが悪化した
企業
(n=30)
将来性に良い影響が
あった企業(n=76)
資金繰りが悪化した
企業
(n=31)
将来性に良い影響が
あった企業(n=71)
資金繰りが悪化した
企業
(n=25)
13.8
3.3
6.6
0.0
4.2
4.0
60.6
43.3
65.8
54.8
64.8
40.0
20.2
26.7
18.4
25.8
23.9
44.0
23.3
9.2
19.4
5.6
8.0
3.3
4.0
4.3 1.1
1.4
十分取り組めている
ある程度、取り組めている
取り組んでいるが、
うまくいっていない
十分に取り組めていない
全く取り組めていない
販売先の確保
確保
育成
管理
現地人材の
海外展開を主導する
人材の確保・育成
第 3-4-28 図
最も重要な取組の取組状況
(直接投資(生産機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1. 「将来性に良い影響があった企業」とは、最も重要な直接投資先への投資が与えた国内事業への影響について、企業の将来性への
影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企業をいう。また、「資金繰りが悪化した企業」とは、資金繰りへの影響
として、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業をいう。
   2. 直接投資を成功させるための最も重要な取組として、「販売先の確保」、「現地人員の確保・育成・管理」、「海外展開を主導する人
材の確保・育成」と回答した企業をそれぞれ集計している。
   3.最も重要な直接投資先の機能として、「生産機能」と回答した企業を集計している。

Page 29
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
323
中小企業白書 2014
 また、同様に、販売機能の直接投資を実施した
企業の直接投資を成功させるために最も重要な
(成功と失敗の分かれ道となる)取組を見ていく。
これを見ると、「販売先の確保」と回答する企業
の割合が特に高くなっており、次に「海外展開を
主導する人材の確保・育成」と回答する企業の割
合が高い(第 3-4-29 図)。さらに、うまくいっ
ている企業とうまくいっていない企業の取組状況
を見ると、いずれもうまくいっている企業の方が
「取り組めている」と回答する企業が多く、「販
売先の確保」の方がその差はより大きくなってい
ることが分かる(第 3-4-30 図)。
35
(%)
25
20
15
5
0
10
30
17.7
13.4
8.5
8.3
7.4
4.6
3.1
2.3
1.4
0.6
0.9
19.3
6.7
6.7
12.6
1.7
1.7
8.4
2.5
0.0
0.8
12.6
31.9
26.9
将来性に良い影響があった企業(n=351)
資金繰りが悪化した企業(n=119)
第 3-4-29 図
直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組
(直接投資(販売機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1. 「将来性に良い影響があった企業」とは、最も重要な直接投資先への投資が与えた国内事業への影響について、企業の将来性への
影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企業をいう。また、「資金繰りが悪化した企業」とは、資金繰りへの影響
として、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業をいう。
   2.最も重要な直接投資先の機能として、「販売機能」と回答した企業を集計している。

Page 30
324 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 これまで、輸出と直接投資について、その成功
要因と失敗要因を見てきた。そこから見えてきた
のは、「販売先の確保」の取組が重要という、あ
る意味では当たり前の結果であった。成長著しく、
チャンスが広がる海外市場であっても、政治的混
乱や二国間関係の悪化、経済危機等の不可抗力的
なリスクに加えて、取引先や販売先の信用リスク
もある海外で成功するためには、様々なリスクを
踏まえた現実的な販売戦略の策定や具体的な販売
先を確保した上で海外市場に乗り出し、進出して
からも販売先確保の取組を継続して行っていくこ
とが重要である。
0%
100%
8.0
3.1
4.9
4.3
68.8
43.8
63.9
52.2
16.1
28.1
23.0
26.1
6.3
18.8
6.6
13.0
6.3
1.6
4.3
0.9
(直接投資(販売機能)によって将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
販売先の確保
海外展開を主導する
人材の確保・育成
将来性に良い影響があった企業
(n=112)
資金繰りが悪化した企業
(n=32)
将来性に良い影響があった企業
(n=61)
資金繰りが悪化した企業
(n=23)
十分取り組めている
ある程度、取り組めている
取り組んでいるが、うまくいっていない
十分に取り組めていない
全く取り組めていない
第 3-4-30 図
最も重要な取組の取組状況
(直接投資(販売機能)によって将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1. 「将来性に良い影響があった企業」とは、最も重要な直接投資先への投資が与えた国内事業への影響について、企業の将来性への
影響として、「良い影響」、「やや良い影響」と回答した企業をいう。また、「資金繰りが悪化した企業」とは、資金繰りへの影響
として、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業をいう。
   2. 直接投資を成功させるために最も重要な取組として「販売先の確保」、「海外展開を主導する人材の確保・育成」と回答した企業
をそれぞれ集計している。
   3.最も重要な直接投資先の機能として、「販売機能」と回答した企業を集計している。

Page 31
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
325
中小企業白書 2014
 愛知県名古屋市の株式会社 TEKNIA(従業員 90 名、資本金 6,500 万円)は、工作機械、産業機械、航空機等の部
品を製造する企業である。2007 年にタイに生産工場を開設した。
 積極的に海外展開を進めるようになったのは、現在の高橋弘茂(たかはしひろしげ)社長になってからであった。
プライベートで何度も足を運んでおり、経済成長を肌で感じていたため、タイへの進出を決めた。リーマン・ショッ
クの時、経営を継続するかどうか悩むほど現地の事業が悪化したが、国内事業が安定していたため何とか留まるこ
とができた。現在では、「ある程度軌道に乗ってきたと感じている。」と言う。
 また、2011 年に同社が中心となり、経営者仲間の中小企業との共同出資で、タイに製造会社「V.I.T. Co., Ltd.」
を設立した。V.I.T. では、小規模な工場団地として、出資者が工場建屋や汎用性の高い機械設備の共同利用ができる。
利用する企業にとっては、単独で進出するよりもリスクを抑えてタイに進出することが可能となる。また、参画す
る企業が金型や熱処理等、各社の強みも持ち寄って、タイに進出する日系の大手・中堅企業から共同で受注を獲得
するなど、中小企業で連携する取組も積極的に進めている。
 「どんな事業でも、マーケティングが重要。特に海外進出となれば、日本より条件が厳しく、リスクは高い。販
路を確保してから進出することが望ましい。」と語る高橋社長は、海外展開で培ったノウハウや人的ネットワーク
を生かして販路開拓支援等を行う会員制のコンサルティング会社(タイに VITPLANNING Co., Ltd.、日本に株式会
社 VIT サポート)を V.I.T. の製造部門と分離し設立した。
 会員にバンコクの現地事務所の一部を出張時の活動拠点として提供するほか、各企業の個別相談にも応じている。
会員企業が営業所として事務所を利用することで、進出前に現地の企業に営業を行うことが可能となる。「自社の
経験を他の企業にも役立ててもらいたい。」と高橋社長は語る。
3-4-4.
タイへ海外展開した自らの経験を基に、
他社の海外販路開拓支援を行う製造業者
株式会社 TEKNIA
事 例
同社の高橋弘茂社長

Page 32
326 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 熊本県熊本市の重光産業株式会社(従業員 96 名、資本金 6,450 万円)は、「味千ラーメン」のブランドで、国内
はもとより、中国を始め、シンガポール、タイ、インドネシア、アメリカ等、12 の国・地域に 800 店舗近くのラー
メン店を展開している企業である。国内は 97 店舗であるのに対し、海外は 700 店舗近くとなっている。
 1994 年に台湾に出店したことが、同社の海外展開の始まりであった。その後、北京、香港、深センに出店を拡
大していった。大きな転機となったのは、2007 年に香港証券取引所で、同社が出資した「中国味千」を上場させ
たことであった。これをきっかけに、店舗の拡大は世界中に加速していった。
 同社の海外展開は、フランチャイズ形式により進められている。加速化する海外展開を支えているのは、現場の
モチベーションを高めるフランチャイズの方法である。具体的には、フランチャイズのロイヤリティーは固定額と
しており、本社に一定額に納めると、残りは現地のオーナーの手元に残る。したがって、売上を上げれば上げるほ
ど、現地のオーナーは儲かる仕組みとなっている。これは、先代の社長の「苦労しているのは店舗の現場である以
上、売れたら実入りが店に残るようにしなければならない。」という考えが引き継がれているものである。
 また、同社の海外展開が進んだのは、香港株式市場の上場時期まで、中国の事業を牽引した現地の優れたパート
ナーの存在も大きい。現在でも、嗜好や土地等、現地を熟知したパートナーを主体に事業を進め、本社は主にサポー
トを行う形で海外展開に取り組んでいる。現地を知る信頼できるパートナーと提携し、モチベーションを高めるこ
とが、同社の販売先の市場を世界中に広げている。
 「味千ラーメン、熊本ラーメンの味を世界中に伝えたいという思いがある。それと同時に、進出先の食文化を大
事にしたいとも考えている。地元の人、幅広い人に受け入れられる味でありたいと考えている。」と同社の本田修(ほ
んだおさむ)国際部長は語る。
3-4-5.
12 の国・地域に 800 店舗展開し、
世界中に熊本ラーメンを広げている飲食店
重光産業株式会社
事 例
同社の本田修国際部長
同社の商品(味千ラーメン)

Page 33
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
327
中小企業白書 2014
事 例
 大阪府大阪市の株式会社ダダ(従業員 82 名、資本金 1,000 万円)は、国内及び中国にて、美容室とエクステンショ
15 専門店を経営する企業である。「DADA」の名前の由来は“Designing Artists Design for Asian”であり、1994
年に同社を設立した時からアジアの市場を見据え、2006 年には上海 1 号店を出店した。
 上海に進出するため、2005 年から現地のリサーチを始めている。社長自身が 2 か月に一度現地を訪れ、現地に
住む日本人や中国人にインタビューをすることで、ファッションの動向や価格について事前にリサーチした。リサー
チをすることで、日本の女性誌やファッション誌が良く読まれており、日本式の美容店を実施しても需要が見込ま
れることを改めて確認できたという。
 同社が中国で受け入れられ、顧客を確保できている理由は、日本式の従業員の教育と、現地の人でも払える価格
帯である。従業員に対する教育では、日本人と同等の技術力になるよう、営業終了後や休日も使った研修を行い、
教育の基準も日本と同じものを採用している。また、身だしなみ、勤務態度、接客等についてもしっかりと教育す
るため、行動評価の項目を明確にし、項目がクリアされているかスタッフや店長の相互で評価する仕組みを作って
いる。最近では、中国にも日本式の美容室も増加しているものの、同社のように現地スタッフに対して、しっかり
と教育を行い、日本人と同じレベルにまで引き上げているサロンは他にない。そのような、日本式のサービスを現
地の人でも支払える水準で提供していることが同社の強みである。
 同社では、今後も台湾やタイ等、アジア各国への拡大を検討している。「欧米人とアジア人では髪質が異なって
いる。アジア人に適したスタイルを創り出し、日本の美容技術を伝えていきたい。」と同社の竹村仁志(たけむら
ひとし)社長は語る。
3-4-6.
設立当初からアジアを見据え、
海外展開を進めている美容室
株式会社ダダ
同社の竹村仁志社長
15 「エクステンション」とは、付け毛・部分かつらの一種をいう。

Page 34
328 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
5. 直接投資先からの撤退
 直接投資の開始によって企業の将来性や売上高
の増加に良い影響があった企業が多い一方、資金
繰りが悪化した企業もおり、中には直接投資先か
らの撤退に至った企業も存在している。ここでは、
中小企業の直接投資先からの撤退 16 について見
ていく。
 第 3-4-31 図は、直接投資を実施したことがあ
る企業のうち、撤退の経験について尋ねたもので
ある。これを見ると、直接投資を実施したことが
ある企業の 4 分の 1 が撤退を経験している。また、
撤退を経験した企業の半数以上が、現在は直接投
資を実施していない。逆に言うと、4 割以上の企
業は撤退を経験しても、他の拠点で直接投資を継
続していたり、再び直接投資を開始するなどして、
現在も直接投資に取り組んでいるといえる。
(n=1,326)
(n=340)
直接投資先から
撤退した経験がある
25.6%
直接投資先から
撤退した経験がある
25.6%
撤退の経験はなく、
検討もしていない
67.2%
撤退の経験はなく、
検討もしていない
67.2%
経験はないが、
撤退を検討している
7.2%
54.4
45.6
100%
0%
撤退した企業のうち、現在も直接投資を実施している企業の割合
現在も直接投資を
実施
現在は直接投資を
実施していない
第 3-4-31 図
直接投資先から撤退した経験
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)現在直接投資に取り組んでいる、又は過去に直接投資に取り組んでいた企業に尋ねたものである。
16
ここでいう「撤退」は、直接投資先の清算、倒産等による解散や吸収・合併等によって出資比率が 0%になること、又は株式の売却等により出資
比率が著しく低下することをいう。

Page 35
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
329
中小企業白書 2014
 また、第 3-4-32 図は、現在撤退を検討してい
る又は撤退を経験した国・地域を見たものである。
これを見ると、現在撤退を検討している国・地域
では、6 割以上が中国であり、過去の撤退を経験
した国では、中国が約 4 割であるのに比べて、割
合が大きく増加している。
0%
100%
撤退を経験した
国・地域
(n=333)
撤退を検討している
国・地域
(n=93)
62.4
42.3
4.5
5.7
6.0
6.3 2.12.7 5.1 4.2 2.4
0.6
1.5
1.5 4.8
10.2
2.2 5.4 4.3 4.3 3.2 5.4 3.2
1.1
6.5 1.1
1.1
中国
香港
台湾
韓国タイ
ベトナム
その他 ASEAN
西欧
フィリピン
インドネシア
マレーシア
シンガポール
その他アジア
北米
その他
第 3-4-32 図
撤退を検討している又は撤退を経験した国・地域
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 36
330 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 直接投資先からの撤退の理由はどのようなもの
であろうか。第 3-4-33 図は、直接投資先からの
撤退の理由を見たものである。これによると、「環
境の変化等による販売不振」が最も割合が高い。
これは、例えば、競争環境の激化、経済危機や政
治的な混乱等により、当初見込んでいたほどの売
上が達成できず、撤退に至る場合が考えられる。
40
経済情勢の悪化
現地の法制度・商習慣の問題
海外展開を主導する人材の力不足
環境の変化等による販売不振
親会社の事業戦略変更等による再
直接投資先の資金繰りの悪化
提携先・アドバイザーとの関係悪
商品・サービスの質の確保困難
政治情勢の悪化
その他
(%)
30
25
20
10
0
5
15
35
35.1
22.2
19.3
19.1
17.9
16.2
14.8
13.6
12.4
11.2
9.3
6.2
(n=419)
人件費の高騰等による採算の悪化
従業員の確保・育成・管理の困難
第 3-4-33 図
直接投資先からの撤退の理由(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)直接投資先からの撤退した経験について、「撤退した経験がある」、「撤退を検討している」と回答した企業を集計している。

Page 37
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
331
中小企業白書 2014
 さらに、直接投資先から撤退する時には、どの
ような課題があるのだろうか。第 3-4-34 図は、
直接投資先からの撤退における障害・課題を見た
ものである。これを見ると、8 割以上の企業が撤
退の時に何らかの障害・課題に直面していること
が分かる。その具体的な内容を見ると、「投資資
金の回収」と回答する企業が最も多く、「現地従
業員の雇用関係の整理」、「現地の法制度への対
応」、「合弁先、既往取引先等との調整」が続いて
いる。
 以上のように、直接投資を実施した企業の 4 分
の 1 が環境の変化等を理由として撤退を経験して
いる。一方で、撤退を経験した企業のうち 4 割以
上の企業が、他の拠点等で再び直接投資を行って
おり、経営戦略として撤退を選択し、海外事業に
再挑戦している企業もいることが伺える。海外へ
の直接投資を行う企業は、国内事業にも悪影響を
与えるような撤退を回避するとともに、新たな販
路開拓を行うための移転等、撤退の経営判断を戦
略的に行う必要がある。そのためには、海外進出
時に海外事業における不確実性もあらかじめ考慮
した事業計画を策定するとともに、海外進出後に
も継続的に事業計画を見直していくことが重要で
ある。
 また、現在も中国を中心に撤退を検討している
企業が少なくない。ほとんどの企業が撤退時に、
多岐にわたりかつ専門的な支援を必要とする障
害・課題に直面しており、単独では解決が難しい
こともあるため、政府としては、こうした困難に
立ち向かう中小企業に対する支援の強化も必要と
される。
(n=421)
(n=359)
何らかの障害・
課題がある
85.3%
何らかの障害・
課題がある
85.3%
特に障害・
課題はない
14.7%
特に障害・
課題はない
14.7%
具体的な障害・課題の内容(複数回答)
28.4
36.2
32.0
52.6
9.2
15.9
7.2
5.0
1.7
60
50
40
30
20
10
(%)
0
現地従業員の雇用関係の整理
現地の法制度への対応
合弁先、既往取引先等との調整
撤退を相談する相手の確保
代替拠点の確保が困難
親会社の信用力の低下
投資資金の回収
現地政府等との調整
その他
第 3-4-34 図
直接投資先からの撤退における障害・課題
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)直接投資先からの撤退した経験について、「撤退した経験がある」、「撤退を検討している」と回答した企業を集計している。

Page 38
332 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 新潟県糸魚川市の株式会社美装いがらし(従業員 65 名、資本金 1,000 万円)は、レディースシャツ・ブラウス
の企画・製造・販売を行う事業者である。代官山に、ガーゼ製品の自社ブランド「ao」の店舗を構えている。
 同社では、2007 年に大連にアンテナショップを立ち上げた。大連に進出することを決めたのは、新たな販路の
開拓するためであった。当時、同社では百貨店のフロアで販売する業者への卸売が主であったが、販売先が相次い
で倒産するという経営の危機を迎え、生き残りのための戦略の模索に迫られた。
 それまで業者への卸売が主体であり、個人顧客への直接販売の経験はほとんどなかったが、新しい販路への挑戦
のため、個人を対象として自社ブランド「ao」を立ち上げるとともに、また別ブランドで中国にアンテナショッ
プの出店を行った。同社が大連への出店を決めたのは、相談したコンサルタントが大連に精通し、つながりがあっ
たこと、同社が大連から研修生を受け入れていたことが理由である。大連への出店は、五十嵐紘英(いがらしこう
えい)社長が主導した。
 中国人の色の好みへの対応等、大連の店舗では様々な困難にも直面したが、何とか収支をトントン程度に保って
いた。しかし、賃料が割高であった当初の店舗からショッピングモールへの移転をした直後、ショッピングモール
のオーナーから一方的な閉店要請があり、中国での事業継続が困難であると考え、2010 年に撤退を決めた。当初
より投資額を抑えていたため、幸いにも資金的な被害は大きくなかった。
 「生き残りのための模索とはいえ、自社ブランドの立ち上げと中国への出店を同時にこなすことは、かなり難し
かった。」と同社の五十嵐昌樹(いがらしまさき)専務は言う。現在では、欧米への展示会の出展や海外に販売網
を持つ他社との提携を図るなどにより、「腰を据えて」海外への販売に取り組んでいる。「海外展開を実施する企業
では、撤退の可能性を常に頭に置いておき、撤退の基準を設定しておくことが必要。」と五十嵐専務は語る。
3-4-7.
新しい販路の開拓のため中国に出店したが、
撤退を経験した企業
株式会社美装いがらし
事 例
同社の五十嵐昌樹専務

Page 39
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
333
中小企業白書 2014
 前掲第 3-4-24 図、第 3-4-25 図のように、直接投資の開始によって売上高や利益に良い影響を与える企業が
多いという結果が出た。一方で、直接投資の開始によって国内の雇用が減少するのではないか、という懸念も
存在している。海外展開の開始によって、国内の雇用にはどのような影響があるのであろうか。
 コラム 3-4-1 ①図は、「企業活動基本調査」の 1997 年度から 2011 年度のパネルデータを基に、2004 年度
に直接投資を開始し、2011 年度まで継続している企業(直接投資開始企業)と 1997 年度から 2011 年度まで
一度も直接投資をしていない企業(直接投資非開始企業)の国内従業者数の推移を見たものである。これを見
ると、2004 年度直接投資を開始した時点から、国内従業者数は減っておらず、むしろ増加していることが分
かる。ただし、国内従業者数は 2001 年から増加しており、国内従業者数の増加が全て直接投資の開始を要因
としたものではないことに留意が必要である。
 一方で、前掲第 3-4-24 図、第 3-4-25 図では、直接投資の開始によって、国内の雇用に悪い影響を与えたと
回答している企業も多くはないが、一定数存在していることが分かる。直接投資の開始により、国内雇用を増
コラム
3-4-1.
海外展開が国内雇用に与える影響
(国内従業者、年度 2004=100)
(国内従業者、年度 2004=100)
(年度)
80.0
85.0
90.0
95.0
100.0
105.0
110.0
115.0
120.0
94.2
91.8 91.9
91.7
89.6
93.0
95.4
101.9
107.7
111.9 111.9
112.7
114.2
102.8
107.4
105.9
104.9
103.9
101.0 100.8
100.1 100.0
100.0 100.5
102.3
103.8 103.7 103.4 103.1
118.5
97
99
98
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
1997 年度から 2011 年度まで一度も直接投資をしていない企業(直接投資非開始企業)(n=5,114)
2004 年度に直接投資を開始し、2011 年度まで継続している企業(直接投資開始企業)(n=50)
資料:経済産業省「企業活動基本調査」再編加工
(注)1.ここでいう直接投資とは、海外に子会社又は関連会社を保有することをいう。
   2.1997~2011 年度のパネルデータを使用している。
   3.国内従業者数=従業者数合計-海外従業者数。
   4.指数の算式は加重平均値としている。
コラム 3-4-1 ①図
直接投資開始企業の国内従業者数(中小企業)(2004 年度開始)

Page 40
334 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
やしている企業と減らしている企業には、どのような違いがあるのであろうか。
 コラム 3-4-1 ②図は、直接投資の開始によって、国内の雇用に良い影響があった企業と悪い影響があった企
業の別に、直接投資の目的を見たものである。これによると、国内の雇用に良い影響があった企業では、「新
規の取引先・市場の開拓」を目的に直接投資を行っている企業が多い一方で、国内の雇用に悪い影響があった
企業では、「人件費等のコストの削減」を目的に直接投資を行っている企業が多い。このことから、人件費等
のコスト削減を目的に直接投資を行った企業では、国内生産が海外で代替され、結果として国内雇用が減るこ
とが多く、新規の取引先・市場の開拓を目的に直接投資を行った企業では、販売が拡大するため、国内でも生
産が増加され、結果として国内雇用が増加することが多いということが推測される。
 海外展開と雇用等国内事業との関係は、研究者の間ではこれまでどのように議論されてきたか、主な論文を
概観したい。
(1) 輸出の開始による国内事業への影響に関するもの
○ 輸出開始が生産性の成長に対して正の効果がある。また、その正の効果は低所得国に輸出する企業よりも高
所得国に輸出する企業で大きい。(2007 De Loecker)
○ 輸出を開始した企業は、そうでない企業よりも、売上、雇用、研究開発活動について高い成長率を示す。(2011 
伊藤)
(2) 直接投資の開始による国内事業への影響に関するもの
○ 「国内生産代替型」直接投資は雇用機会を減らす一方、「現地市場獲得型」直接投資では国内雇用を創出す
るため、雇用の減少はかなりの程度相殺している。(2001 深尾・袁)
0
5
10
15
20
25
30
35
調
調
33.3
19.2
17.9
9.0
7.7
6.4
2.6
1.3
1.3
23.7
19.7
7.9
27.6
11.8
2.6
0.0
1.3
1.3
(%)
国内雇用に良い影響があった企業(n=78)
国内雇用に悪い影響があった企業(n=76)
コラム 3-4-1 ②図
直接投資の開始による国内雇用への影響別の直接投資の目的(製造業)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本
興亜リスクマネジメント(株))
(注) ここでいう国内雇用に良い影響があった企業とは、直接投資による国内雇用の増加への影響として「良い影響」、「や
や良い影響」と回答した企業をいう。また、国内雇用に悪い影響があった企業とは、国内雇用への影響として「悪
い影響」、「やや悪い影響」と回答した企業をいう。

Page 41
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第2節
335
中小企業白書 2014
○ 1995 年から 2000 年の期間に外国直接投資を開始した日本企業は、開始後、雇用を 3~5%程度上昇させて
いる。(2007 Hijzen, Inui, Todo)
○ 工程間分業を伴う海外直接投資が、国内の製造部門の生産性の改善を促している。(2008 Matsuura,
Motohashi and Hayakawa)
○ 中小製造業では海外の企業に生産を委託することによって生産性が上昇する可能性が大きい。また、非熟練
労働の需要は減るものの、高度人材の需要が増えるため、国内雇用は全体では減らない。(2012 戸堂)
○ 海外進出企業の海外雇用の拡大により、取引している海外非進出企業(一次取引先)の雇用は減らない。(2014 
伊藤・田中)
 以上のように、多くの実証研究が、海外展開に伴い、国内雇用は減らないとしている。製造業が直接投資に
伴って、国内雇用を減らさない理由は、おおむね以下の三つに整理することができる。
① 海外市場を開拓し、売上拡大を図るための生産機能の直接投資は、国内生産を減らさない。(ただし、輸出
を止めて現地生産に切り替えるといった国内生産の代替的な直接投資は、輸出のための国内生産・雇用を減
少させる。)
②海外での最終財の現地生産拡大に伴い、国内からの中間財の輸出が増える場合がある。
③ 製造業が、生産以外の卸売・小売・サービスのための子会社を海外に開設する場合は、国内雇用を減らすと
は考えにくい。
 以上見てきたように、コスト削減を目的に生産移転が行われた場合では、国内雇用が減る可能性もあること
には留意が必要であるものの、直接投資の開始によって、直接的には国内の雇用は減るとはいえないことが分
かる。
 ただし、二次、三次取引先も含めたサプライチェーン全体の雇用への影響や中長期的な雇用への影響等につ
いては、まだ十分なデータと検証の蓄積が行われておらず、今後とも引き続き議論が必要であると考えられる。

Page 42
336 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 第 3 節では、現在、海外展開を実施していない
企業について見ていく。海外展開を実施していな
い企業は、海外展開をどのように捉えており、海
外展開をしたいと考えている企業ではどのような
課題があるのか分析していく。
1. 輸出の開始の課題
 第 3-4-35 図は、現在輸出をしてない企業(輸
出未実施企業)の輸出に関する方針を尋ねたもの
である。これを見ると、中規模企業で約 3 割、小
規模事業者で約 4 割の企業が、輸出を準備・検討
している、あるいは関心を持っていることが分か
17。また、小規模事業者の方がより輸出に関心
を持っている企業が多い。これは、小規模事業者
の方が、国内での需要減少等による事業の将来性
への危機感がより強く、海外市場への関心がより
高いためであると考えられる。
第3節
海外への一歩を踏み出すために必要なこと
0%
100%
実施する準備をしている
検討している
関心はある
関心はない
小規模事業者
(n=544)
中規模企業
(n=1,280)
24.0
4.2
6.8
56.1
65.0
29.8
5.5
8.6
第 3-4-35 図
輸出未実施企業の輸出に関する方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
17
前掲第 3-1-18 図では、今後目指す市場として、「近隣都道府県」、「全国」、「海外」と回答している「広域需要志向型」の小規模事業者は全体の約
2 割であった。輸出に関心のある企業が 3 割以上であることとの差は、基となる「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」が、
海外展開をテーマとしたアンケート調査であり、より海外に関心の高い企業群が回答しているためと考えられる。

Page 43
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
337
中小企業白書 2014
 また、どのような企業が輸出に関心を持ってい
るのであろうか。第 3-4-36 図は、それぞれの項
目(新商品・サービスの企画開発力等)について
自社の「強み」と考える企業と「弱み」と考える
企業の別に、輸出の方針を見たものである。これ
を見ると、「新商品・サービスの企画開発力」、「商
品・サービスの独自性」では、「強み」と考えて
いる企業の方が輸出に関心がある割合が高い。一
方で、「安定した取引先・商圏」、「資金体力・財
務基盤」では、「弱み」と考えている企業の方が
輸出に関心がある割合が高い。
 このことから、商品・サービスの企画開発力や
独自性を武器に海外に進出しようとしている企業
と、国内において安定した取引基盤や資本蓄積が
ない企業が現状を打開するために海外に進出しよ
うとしている姿が見えてくる。
0%
100%
実施する準備をしている
検討している
関心はある
関心はない
0%
100%
6.1
3.2
6.7
2.3
16.5
5.1
10.9
6.4
32.6
28.8
29.6
25.6
44.8
62.9
52.8
65.8
4.0
7.4
2.6
6.4
5.7
9.6
7.5
10.7
27.4
29.3
25.2
31.3
63.0
53.7
64.7
51.7
新商品・サービスの
企画開発力
商品・サービスの
独自性
安定した取引先・
商圏
資金体力・財務基盤
強み
(n=261)
弱み
(n=372)
強み
(n=460)
弱み
(n=219)
強み
(n=859)
弱み
(n=188)
強み
(n=266)
弱み
(n=515)
第 3-4-36 図
企業の強み・弱み別の、輸出未実施企業の輸出の方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 44
338 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 第 3-4-37 図は、輸出の開始を準備又は検討し
ている企業が、どの国・地域を対象としているの
かを尋ねたものである。これを見ると、中国と回
答している企業が 4 割以上と最も高く、次にタイ
やインドネシアといった ASEAN 諸国や北米・
西欧といった先進国に関心を持っていることが分
かる。これは、第 3-4-13 図の現在輸出を実施し
ている企業の、今後重視している国・地域の傾向
とおおむね一致している。
0
50
(%)
40
35
30
20
10
15
5
25
45
12.1
16.7
27.3
21.2
28.0
10.6
20.5
9.8
24.2
5.3
3.8
2.7
1.5
46.6
13.7
17.8
16.4
17.8
9.6
8.2
2.32.7
26.0
19.2
9.6
4.1
5.5
5.5
43.9
11.4
6.1
15.9
6.8
21.9
16.4
17.8
4.1
16.4
11.0
1.5
ASEAN
西
中規模企業(n=132)
小規模事業者(n=73)
18.2
19.7
第 3-4-37 図
輸出の開始を準備又は検討している国・地域(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 45
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
339
中小企業白書 2014
 それでは、輸出未実施企業が乗り越えなければ
ならない課題は何であろうか。第 3-4-38 図は、
輸出の準備や検討を行っている企業が輸出を開始
するための最も重要な(これが克服できれば輸出
が行えるといった)課題を見たものである。これ
を見ると「販売先の確保」と回答している企業が
約 4 割(小規模事業者では約 3 割)であり、他の
項目よりも高いことが分かる。輸出を開始するに
当たって様々な課題が考えられるが、いかに販売
先を確保するのかが最も重要であることが改めて
確認された。また、「必要資金の確保」や「信頼
できる提携先・アドバイザーの確保」が、小規模
事業者が輸出を開始するために特に重要であるこ
とが分かり、これらの分野で何らかの政府の支援
が必要とされているということを示唆している 18
中規模企業(n=129)
小規模事業者(n=74)
0
45
(%)
40
35
30
20
10
15
5
25
貿
40.3
9.3
10.9
3.1
10.9
3.1
5.4
4.7
2.3
7.8
2.3
16.2
14.9
9.5
5.4
5.4
4.1
4.1
4.1
2.7
1.4
32.4
第 3-4-38 図
輸出未実施企業の輸出を開始するための
最も重要な(これが克服できれば輸出が行えるといった)課題
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
18
現在、政府では「パッケージ型海外展開支援事業」として、販路構築の支援を行っている。「パッケージ型海外展開支援事業」では、中小企業基
盤整備機構が専門家を派遣し、外国語の海外向けホームページの作成及び海外取引にかかる決済・物流の体制の整備を支援している。また、それ
に伴うホームページの外国語化、代金決済システムの構築等にかかる経費の上限 100 万円、補助率 2/3 で補助している。

Page 46
340 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 また、中には輸出に関心があっても、具体的な
検討や準備に進めない企業も多い。それらの企業
では何が課題なのであろうか。第 3-4-39 図は、
輸出に関心があるものの、具体的な検討や準備を
していない企業が、検討や準備に進むために必要
なことを見たものである。これを見ると、「輸出
のリスク・失敗事例の紹介」、「基礎的な輸出知識
の研修」と回答する企業が多く、特に小規模事業
者では、「現地を訪問する機会」と回答する企業
が多いことが分かる。
 政府では「リスク・失敗事例の紹介」を通じた
海外展開支援のため、海外展開がうまくいかな
かった企業の事例や解説を掲載しているリスク事
例集を作成した 19。また、ジェトロでは「現地を
訪問する機会」の提供のため、海外への派遣事
20 を行っており、民間企業でも海外視察のア
レンジを行っている企業も増えている 21
中規模企業(n=292)
小規模事業者(n=155)
0
25
(%)
20
10
15
5
18.5
14.4
11.3
8.9
8.6
6.5
2.1
9.9
19.9
16.1
10.3
7.7
16.8
9.7
9.0
3.9
11.0
15.5
輸出のリスク・
失敗事例の紹介
基礎的な
輸出知識の研修
輸出のメリット・
成功事例の紹介
現地を訪問する機
初歩的な
相談受付窓口
輸出をしている
企業との意見交換
専門家との面談
その他
分からない
第 3-4-39 図
輸出に関心のある企業が具体的な検討や準備に進むために最も必要なこと
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
19
中小企業海外展開支援関係機関連絡会議「海外展開成功のためのリスク事例集」(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2013/130628jirei.
pdf)
20
ジェトロでは、企業の市場開拓・海外進出のサポートのため、現地で、市場・関係先の視察、関係者との意見交換、ビジネスマッチング等のプロ
グラムを提供する「ミッション派遣」を行っている。2013 年度では、16 件のミッション派遣が実施され、約 200 名が参加している(2013 年 12
月末日時点)。具体的には、ベトナムへの投資環境視察(2014 年 2 月)やミャンマーの経済特区の視察(2014 年 3 月)等を実施している。「イベ
ント情報(ジェトロ主催のミッション)」(http://www.jetro.go.jp/events/mission/)
21
例えば、後掲事例 3-4-11 の株式会社 Resorz でも海外視察のアレンジを行っている。

Page 47
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
341
中小企業白書 2014
 兵庫県小野市の株式会社ダイイチ(従業員 7 名、資本金 1,000 万円)は、1909 年創業の老舗の算盤製造業者である。
 播州算盤で有名な兵庫県小野市の算盤製造業者の組合の組合員は、全盛期では 60 社あったものが、現在では 10
社に満たない事業者しか残っていない。「母親の算盤作りで、私は育てられた。何とか算盤に恩返しをしたい。」同
社の宮永英孝(みやながひでたか)社長は語る。
 同社では、自分でデザインできるカラフルな算盤、キャラクターとの提携、算盤の玉を利用したキーホルダー等、
伝統的な算盤だけではなく、新しい商品の開発に取り組んでいる。また、国内需要の減少を感じていることから、
積極的に海外への販売にも挑戦している。
 現在では、レバノンの事業者への販売を始めている。中東では算盤を用いた教育への関心の高まりがあり、レバ
ノンで学習塾を営む地場の事業者が、算盤の本場である小野市を訪問したことが販売につながったきっかけであっ
た。
 輸出をするには、「パートナーとの信頼関係が最も重要である。」と言う。過去に韓国への輸出を行ったこともあっ
たが、パートナーからの入金がなく、途中で頓挫した苦い経験をしたこともあった。今回レバノンの事業者とは、
宮永社長が日本の算盤を紹介するためレバノンを訪問した際の 10 日間の行程の中で、事業者との信頼関係を構築
していった。
 コストに見合う運輸会社を探す等、現在でも試行錯誤をしながら輸出に取り組んでいる。算盤を後世に残したい
という思いの実現のため、同社では、日々課題を乗り越え、海外の市場への販売に取り組んでいる。
3-4-8.
算盤の製造技術を生かした商品開発に取り組み、
海外展開に挑戦する企業
株式会社ダイイチ
事 例
レバノンの子ども達と算盤

Page 48
342 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
2. 直接投資の開始の課題
 次に直接投資の開始の課題を見ていく。第
3-4-40 図は、直接投資をまだ実施してない企業
(直接投資未実施企業)の直接投資に関する方針
を見たものである。これを見ると、約 3 割の企業
が、準備・検討をしているか、関心を持っている
ことが分かる。特に注目されるのは、直接投資を
実施していない小規模事業者でも、4 社に 1 社が
輸出に比べてリスクの高い直接投資にも関心があ
ることである。
0%
100%
実施する準備をしている
検討している
関心はある
関心はない
小規模事業者
(n=1,244)
中規模企業
(n=2,159)
20.8
2.2 5.6
72.3
71.4
21.7
1.4 4.5
第 3-4-40 図
直接投資未実施企業の直接投資に関する方針
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 49
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
343
中小企業白書 2014
 第 3-4-41 図は、直接投資先として準備又は検
討している国・地域を見たものである。これを見
ると、生産機能の直接投資を準備・検討している
企業では、中国や、タイ、ベトナム、インドネシ
アといった ASEAN 諸国の比率が高い。また、
販売機能の直接投資を準備・検討している企業で
は、中国と共に、北米、更にはタイ、ベトナム、
ミャンマーといった ASEAN 諸国に関心を持っ
ている企業が多いことが分かる。
0
25
18.4
19.7
0.8
4.4
4.8
6.6
2.4
1.5
16.8
10.9
15.2
8.8
12.0
6.6
7.2
2.2
0.8
3.6
0.8
1.5
4.0
8.8
0.80.7
2.42.2
3.2
1.5
5.6
13.1
1.6
3.6
3.2
4.4
(%)
15
10
5
20
中国
香港
台湾
韓国
タイ
ベトナム
インドネシア
フィリピン
マレーシア
シンガポール
ミャンマー
インド
その他アジア
北米
西欧
その他
その他
ASEAN
生産機能の直接投資を準備・検討している企業(n=125)
販売機能の直接投資を準備・検討している企業(n=137)
第 3-4-41 図
直接投資先として準備又は検討している国・地域
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) ここでは、企業が最も有力と考えている直接投資先の拠点機能について、「生産機能」、「販売機能」と回答した企業をそれぞれ集計
している。

Page 50
344 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 第 3-4-42 図は、直接投資を準備・検討してい
る企業に、開始するための最も重要な(これが克
服できれば、直接投資が行えるといった)課題を
尋ねたものである。これを見ると、生産機能を持
つ直接投資を準備・検討している企業では、「販
売先の確保」が最も多く、次いで、「採算性・事
業の見通しの確保」、「必要資金の確保」が大きな
課題になっている。
 一方、販売機能を持つ直接投資を準備・検討し
ている企業では、「販売先の確保」がより大きな
課題であることが分かる。
0
35
(%)
30
20
10
15
5
25
18.0
14.8
9.8
9.0
9.0
4.9
4.1
3.3
2.5
1.6
0.8
29.5
10.6
9.8
7.6
3.8
0.8
6.1
5.3
0.8
2.3
22.1
11.4
12.1
販売先の確保
採算性・事業の
見通しの確保
必要資金の確保
信頼できる提携先・
アドバイザーの確保
海外展開を主導する
人材の確保
現地人材の確保・
育成・管理
現地の法制度・
商習慣の知識
生産・販売する商品・
サービスの質の確保
現地の市場動向・
ニーズの把握
海外向け商品・
サービスの開発
リスク・トラブルへの
対応
その他
生産機能の直接投資を準備・検討している企業(n=122)
販売機能の直接投資を準備・検討している企業(n=132)
第 3-4-42 図
直接投資未実施企業の直接投資を開始するための
最も重要な(これが克服できれば、直接投資が行えるといった)課題
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) ここでは、企業が最も有力と考えている直接投資先の拠点機能について、「生産機能」、「販売機能」と回答した企業をそれぞれ集計
している。

Page 51
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
345
中小企業白書 2014
 それでは、中小企業の直接投資先では、どのよ
うなところに販売しているのであろうか。第
3-4-43 図は、生産・販売する主な商品・サービ
ス別に、直接投資先の主な販売先を見たものであ
る。これを見ると、いずれの商品・サービスでも、
現地向けが最も多く、中でも現地の日系企業向け
の比率が高い。特に、部材等の中間財を生産・販
売する直接投資先では、現地の日系企業に販売し
ている割合が高く、これらの直接投資は国内での
受注先の海外進出に随伴して行われたものが多い
と推測される。
0%
100%
現地向け
(日系企業)
現地向け
(日系企業以外企業)
現地向け
(個人)
第三国向け
(企業・個人)
日本国内向け
(親企業)
日本国内向け(個人)
日本国内向け(親企業以外企業)
主な商品・サービスの内容
消費財
(n=260)
資本財(機械・生産設備等)
(n=181)
中間財(部材等)
(n=351)
サービス
(n=119)
21.9
41.4
58.1
32.8
21.2
33.1
15.4
22.7
10.8
1.7
0.3
10.9
10.4
8.3
8.0
1.7
24.2
11.0
13.4
16.0
9.2
14.3
2.3
1.7
3.9
4.6
0.6
0.3
第 3-4-43 図
直接投資先が生産・販売する主な商品・サービスの内容別の主な販売先
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 52
346 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
3. 輸出や直接投資の準備
 輸出や直接投資を開始し、成功するためには、
事前にしっかりとした準備を行うことが必要であ
る。では、具体的にどのような準備が必要なのだ
ろうか。第 3-4-44 図は、輸出を実施している企
業が、最も重要と考える準備の内容を見たもので
ある。これを見ると、「現地の市場動向やニーズ
の調査」や「提携先・アドバイザーの選定」と回
答する企業が多く、これから輸出を開始する企業
はこれらの準備にしっかりと取り組むことが求め
られる。
0
(%)
5
10
15
20
25
30
中規模企業(n=1,619)
小規模事業者(n=806)
現地の市場動向やニーズの調査
調
貿
26.9
24.6
19.6
21.6
13.0 12.8
7.8
3.6
7.47.2
7.0
7.9
7.0
3.1
5.7
7.2
2.4
3.0
5.5
6.6
第 3-4-44 図
輸出企業が最も重要であると考える準備の内容
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

Page 53
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
347
中小企業白書 2014
 また、第 3-4-45 図は、直接投資を実施してい
る企業が、最も重要であると考える準備の内容を
見たものである。これを見ると、生産機能を持つ
直接投資先を有する企業では「現地人材の確保・
育成」、販売機能を持つ直接投資先を有する企業
では「販売先の確保」と回答する企業の割合が、
それぞれ最も高い。直接投資をするに当たっては、
現地の事業を担う現地の人材の確保・育成の準備
に取り組むことや事前に販売先の確保を行うこと
が必要と考えている企業が多いことが分かる。
0
(%)
5
10
15
20
25
30
35
生産機能を持つ直接投資先を有する企業(n=599)
販売機能を持つ直接投資先を有する企業(n=503)
調
調
調
調
その他
26.5
21.9
28.8
20.5
10.2
9.1
10.2
8.5
7.7 7.8
7.0
10.5
6.0
5.5
3.8
2.8
3.8
2.0
2.3 2.0
0.8
0.2
1.5
0.4
第 3-4-45 図
直接投資企業が最も重要であると考える準備の内容
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) ここでは、企業が最も重要と考えている直接投資先の拠点機能について、「生産機能」、「販売機能」と回答した企業をそれぞれ集計
している。

Page 54
348 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 輸出や直接投資を開始する企業は、何らかの形で海外との関わりを持っている企業が多い。コラム 3-4-2 ①
図は、輸出企業が、輸出開始前にあった相手国との関わりを見たものである。これを見ると、輸出開始前に相
手国と何らかの関わりがあった企業が 6 割以上であり、特に、「既に海外展開を行っている企業との取引」が
あったと回答する企業が多い。
コラム
3-4-2.
輸出や直接投資の開始前の海外との関わり
 また、コラム 3-4-2 ②図は、現在直接投資に取り組んでいる企業の直接投資前の相手国との関わりを見たも
のである。これを見ると、現在直接投資に取り組んでいる企業では、7 割以上が相手国と何らかの関わりがあっ
たことが分かる。特に「既に海外展開を行っている企業との取引」の割合が多く、「輸出取引」、「輸入取引」
と続いている。
(n=2,458)
(n=1,506)
何らかの
関わりがあった
61.3%
何らかの
関わりがあった
61.3%
特に関わりは
なかった
38.7%
特に関わりは
なかった
38.7%
具体的な相手国との関わりの内容(複数回答)
輸入取引
外国人の雇用
その他
19.3
22.7
74.6
12.5
1.9
5.3
80
60 70
50
40
30
20
10
(%)
0
既に海外展開を行っ
ている企業との取引
外国企業との販売提
携・技術提携
外国資本の出資の受
入れ
コラム 3-4-2 ①図
輸出企業の輸出開始前の相手国との関わり
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本
興亜リスクマネジメント(株))

Page 55
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
349
中小企業白書 2014
 また、前掲第 3-4-44 図及び第 3-4-45 図のように、輸出や直接投資を実施している企業では、最も重要であ
ると考える準備の内容として、「販売先の確保」、「現地の市場動向やニーズの調査」、「提携先・アドバイザー
の選定」といった項目を回答する企業が多かった。そのような準備に対して、「地の利」を持つ外国企業と業
務提携することで、海外展開を有利に運ぶことができる可能性がある。
 一方で、外国企業との業務提携に心理的な障害を感じる企業も多いことも事実であろう。コラム 3-4-2 ③図
は、外国企業との販売提携・技術提携・資本提携に対する中小企業の考えを尋ねたものである。これを見ると、
何かしら抵抗があると回答している企業は半数に上る。また、その具体的な抵抗のある理由としては、「実態
が分からず、漠然とした不安がある」を挙げる企業が最も多いが、次いで、「言葉・文化の違いによる不安」、
「技術・ノウハウの流出」、「企業風土の変化」を挙げる企業が多くなっている。このように抵抗感を感じる企
業が多いのは、外国企業との提携が、言語及び文化が異なる相手との提携であり、課題やリスクもある経営判
断であるためと考えられる。
 事例 3-4-9 では、外国企業との業務提携によって国内外の販路の獲得に成功した企業を紹介する。海外展開
を行う前に、国内で外国企業との資本提携をすることが、同社にとって重要な海外展開の事前準備となった。
乗り越えるべき課題やリスクはあるものの、外国企業との提携も、企業の海外展開を進める一つの選択肢とい
えよう。
(n=906)
(n=671)
何らかの
関わりはあった
74.1%
何らかの
関わりはあった
74.1%
特に関わりは
なかった
25.9%
特に関わりは
なかった
25.9%
具体的な相手国との関わりの内容(複数回答)
輸入取引
外国人の雇用
その他
24.3
33.7
51.6
17.4
13.4
2.2
3.6
60
50
40
30
20
10
(%)
0
既に海外展開を行っ
ている企業との取引
外国企業との販売提
携・技術提携
輸出(直接・間接含
む)取引
外国資本の出資の受
入れ
コラム 3-4-2 ②図
直接投資企業の直接投資前の相手国との関わり
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本
興亜リスクマネジメント(株))

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350 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
(n=4,354)
(n=2,105)
抵抗はない
41.4%
抵抗はない
41.4%
抵抗はあるが、
今後は必要と
考えている
20.6%
抵抗はあるが、
今後は必要と
考えている
20.6%
抵抗があり、
今後も全く
考えていない
29.6%
抵抗があり、
今後も全く
考えていない
29.6%
その他
8.4%
その他
8.4%
企業風土の変化
従業員の解雇
取引先との関係悪化
経営陣の解任
株主との関係悪化
その他
37.7
31.8
49.0
57.7
23.5
20.6
11.0
6.6
6.4
7.9
10.1
80
60
40
20
(%)
0
実態が分からず、漠然
とした不安がある
言葉・文化の違いによ
る不安
資本提携後、会社が解体
される不安がある
外国企業との資本提携・販売提携・技術提携
に抵抗がある理由(複数回答)
技術・ノウハウの流出
経営方針の強制的変更
コラム 3-4-2 ③図
外国企業との販売提携・技術提携・資本提携に対する考え
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本
興亜リスクマネジメント(株))

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第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第3節
351
中小企業白書 2014
 岡山県岡山市の株式会社アドバネット(従業員 150 名、資本金 7,200 万円)は、産業用電子制御機器と計測器
の設計・製造や、マイクロコンピュータ応用システム向けのハードウェア・ソフトウェア開発等を行っている。
高付加価値製品の開発に成功し、国内市場で確実に成長を遂げてきた。同社では、販路拡大を模索するために、
2007 年にイタリアの企業であるユーロテックから出資を受けた。
 同社では、国内市場の飽和を感じ、海外への販売拡大に挑戦していた。しかし、自社単独での販売先の開拓を行
うのは容易ではなく、実現には至っていなかった。そのような中、ユーロテックからの資本提携の打診があり、外
国企業との資本提携の検討を始めることとなった。ユーロテックとの関わりは、同社が参加していたドイツでの展
示会で知り合ったことがきっかけであった。
 「ホーム(国内)に居ながら、ユーロテックの持つポテンシャルを活用して、アウェイ(海外)の販路開拓や部品・
材料調達コストの低減が実現できると考えた。」と同社の佐々木裕史(ささきひろふみ)社長は、ユーロテックと
の資本提携のメリットを語る。資本提携によって、ユーロテックの海外にあるグループ企業を活用して、同社の製
品を販売する機会が生まれ、また、逆にユーロテックの製品を、同社を経由して日本国内で販売することとなり、
両社での販路の拡大が実現している。
 同社では、資本提携において想定される課題にも対応している。まず、資本提携による経営方針等の急激な変化
によって取引先の信頼を失わないように、3 年間は経営の方法を変えないことをユーロテックと合意し、資本提携
も段階的に進めた。さらに、言葉や文化の違いについては、経営レベルでは佐々木社長がユーロテックと同社の調
整役になることや、実務のレベルでもユーロテックと同社で一目で意味が伝わる記号を決めるなど、意思疎通のや
り方を工夫することで円滑に進めているという。
3-4-9.
外国企業との資本提携により、
国内外の販路の拡大を実現する企業
株式会社アドバネット
事 例
同社の佐々木社長(左)とユーロテックのテイア上級副社長(右)

Page 58
352 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 ここまで、中小企業の海外展開について見てき
た。中小企業が海外展開を開始し、成功するため
には、政府や公的な支援機関はどのような支援が
可能なのであろうか。第 4 節で検討していく。
1. 海外展開の課題
 第 3-4-46 図は、輸出を実施している企業が直
面している課題・リスクを見たものである。これ
を見ると、「販売先の確保」、「現地の市場動向・ニー
ズの把握」、「採算性の維持・管理」といった課題
や、「為替変動」といったリスクに直面している
企業が多いことが分かる。
第4節
海外展開支援の在り方
0
(%)
10
20
30
40
50
60
貿
49.9
42.6
35.8
32.7
31.2
29.0
27.7
23.7
21.6
45.5
29.6
21.5
18.1
(n=2,458)
課題
リスク
第 3-4-46 図
輸出企業が直面している課題・リスク(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

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第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
353
中小企業白書 2014
 また、第 3-4-47 図は、直接投資を実施してい
る企業が直面している課題・リスクを見たもので
ある。これを見ると、直接投資を実施している企
業では、「現地人員の確保・育成・管理」、「採算
性の維持・管理」、「販売先の確保」といった課題
や、「人件費の高騰」、「為替変動」といったリス
クに直面している企業が多いことが分かる。
 このように、海外展開に伴い、企業は様々な課
題・リスクに直面している。多様な課題・リスク
を抱える企業に対して、政府や公的な支援機関は
どのような支援ができるのであろうか。
0
10
20
30
40
50
60
(%)
45.5
20.0
9.7
54.4
40.9
23.2
52.7
25.4
23.8
17.6
7.8
55.8
37.0
35.4
26.6
25.2
15.9
12.2
23.9
8.9
49.4
42.4
35.1
20.7
26.0
11.0
38.8
37.0
21.7
21.7
課題
リスク
販売機能の直接投資先を持つ企業(n=516)
生産機能の直接投資先を持つ企業(n=616)
第 3-4-47 図
直接投資企業が直面している課題・リスク(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) ここでは、企業が最も重要と考えている直接投資先の拠点機能について、「生産機能」、「販売機能」と回答した企業をそれぞれ集計
している。

Page 60
354 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
2. 公的な海外展開の支援
 企業は、輸出や直接投資といった海外展開に関
する経営課題を誰に相談しているのであろうか。
第 3-4-48 図は、経営課題別に海外展開に関する
相談の相手を見たものである。これを見ると、営
業・販路開拓についてジェトロに相談する企業の
割合や、資金調達について政府系金融機関に相談
する企業の割合は、ある程度高いといえる。
 ただし、概して海外展開の相談において、公的
な海外展開支援機関の利用率は、あまり高いとは
いえない。一方で、相談相手はいないと回答する
企業もそれぞれの経営課題でかなりの割合を占め
ており、政府としても何らかの対応が必要とされ
る。
第 3-4-48 図
経営課題別の海外展開に関する相談相手(複数回答)
営業・販路開拓
商品開発
商品・サービスの
質の確保
人材の確保・育成
経営管理
資金調達
中規模
企業
(n=1,671)
小規模
事業者
(n=764)
中規模
企業
(n=1,261)
小規模
事業者
(n=609)
中規模
企業
(n=1,305)
小規模
事業者
(n=606)
中規模
企業
(n=1,328)
小規模
事業者
(n=567)
中規模
企業
(n=1,431)
小規模
事業者
(n=624)
中規模
企業
(n=1,512)
小規模
事業者
(n=702)
〈公的支援機関〉
ジェトロ
21.4
19.9
2.1
2.5
3.3
2.1
7.5
2.1
7.5
2.6
0.9
1.3
中小企業
基盤整備機構
4.4
3.0
1.3
2.1
1.1
0.5
2.1
1.4
3.3
1.8
1.1
1.9
地方自治体
3.4
3.7
1.0
1.0
0.9
0.7
2.6
3.0
0.8
1.1
1.0
1.3
商工会・
商工会議所
5.9
6.0
1.3
2.0
1.8
2.8
2.3
3.9
3.1
3.5
1.0
4.6
〈金融機関・取引先等〉
都市銀行
6.2
2.1
0.7
0.3
1.5
0.5
2.2
0.4
9.1
2.1
39.9
24.6
地方銀行・信用
金庫・信用組合
4.1
2.5
0.8
0.8
0.8
0.3
1.1
0.0
5.2
3.7
34.7
36.5
政府系金融機関
0.8
0.9
0.2
0.5
0.4
0.0
0.1
0.2
1.3
0.8
18.4
14.0
取引先・
同業企業等
22.3
16.5
18.3
18.7
18.2
15.7
7.8
4.9
4.6
3.5
2.6
2.3
商社・卸売業者
22.4
17.0
10.1
10.5
11.0
9.6
3.3
2.5
2.9
1.4
1.5
0.6
〈専門家〉
民間コンサル
ティング会社
3.8
2.9
1.6
1.3
3.1
1.3
9.6
1.9
11.0
4.5
1.0
1.3
民間コンサル
タント(個人)
2.6
3.0
1.7
2.5
1.5
1.7
3.2
3.0
3.7
3.0
0.6
0.7
弁護士・会計士・
税理士
1.5
1.3
0.9
1.0
1.5
1.2
2.1
1.8
24.8
26.1
4.8
4.3
〈現地機関〉
在外公館
(日本大使館等)
2.0
1.7
0.5
0.0
0.5
0.7
1.0
0.5
1.0
1.0
0.1
0.4
現地日系企業・
現地邦人
18.3
10.3
9.3
5.9
12.5
7.1
12.9
5.5
8.1
2.7
2.1
0.4
現地地場企業
16.7
19.9
10.9
11.2
10.7
11.4
9.6
4.8
4.2
3.7
1.7
2.0
相談相手はいない
28.8
35.9
55.7
57.5
51.7
57.4
53.4
73.9
43.0
56.4
32.7
39.6
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 回答した企業の割合が 20%以上の項目は「赤」、20%未満 10%以上の項目は「黄」、「相談相手はいない」と回答したうち 40%以上
の項目は「青」で示している。

Page 61
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
355
中小企業白書 2014
 それでは、公的な海外展開支援機関に対して、
企業はどのように評価をしているのであろうか。
第 3-4-50 図は、輸出や直接投資を実施している
企業のうち、それぞれの海外展開支援機関の支援
が「必要ない」と回答した企業を除いて、利用の
状況やその評価を見たものである。
 これを見ると、利用状況では、それぞれの公的
な支援機関の支援が必要と考えている企業でも、
「利用したことがない」と回答している企業が一
定数おり、支援施策を必要としている企業に十分
に届けられていない可能性がある。また、実際に
利用した企業のそれぞれの支援機関に対する評価
では、いずれの公的な支援機関でも、「どちらと
も言えない」と回答している企業が最も高く、利
用した企業の満足度も決して高いとは言い難い。
 第 3-4-51 図は、現在輸出を実施していないが、
輸出に関心はある企業について見たものである
が、同様の傾向が見られる。
 また、第 3-4-49 図は、現在は輸出を実施して
いないが、輸出に関心のある企業が、海外展開に
ついて相談している相手を見たものである。これ
を見ると、「取引先・同業企業等」と回答する企
業が最も多く、「ジェトロ」、「現地日系企業・現
地邦人」、「現地地場企業」と続いている。
0
(%)
5
10
15
20
25
(n=220)
(個
(日
使
13.2
2.3
2.7
3.6
3.2
3.2
1.4
21.4
9.5
4.5
2.7
5.0
0.9
13.2
13.2
<公的支援機関>
<金融機関・取引先等>
<専門家>
<現地機関>
第 3-4-49 図
輸出を実施していないが、関心のある企業が最も頼りにしている海外展開の相談相手
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 輸出を実施していない企業のうち、輸出への方針について「準備をしている」、「検討している」、「関心はある」と回答した企業を集
計している。

Page 62
356 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
利用したことがある企業の公的な海外展開支援機関への評価
100%
0%
ジェトロ
(n=174)
中小企業基盤整備機構
(n=111)
地方自治体
(n=95)
商工会・商工会議所
(n=120)
政府系金融機関
(n=127)
0
100
(%)
80
90
70
60
40
20
30
10
50
(n=339)(n=301)(n=259)(n=285)(n=316)
ジェトロ
中小企業基
盤整備機構
地方自治体
商工会・商
工会議所
政府系金融
機関
とても満足
満足
どちらとも言えない
不満
とても不満
利用したことがある
利用したことがない
6.3
6.7
8.7
9.0
15.8
7.5
8.7
62.6
67.6
68.4
69.2
70.9
24.7
17.1
8.4
15.0
11.0
48.7
63.1
63.3
57.9
59.8
51.3
36.9
36.7
42.1
40.2
4.6
4.5
4.6
3.4
1.8
1.1
1.7
0.8
第 3-4-51 図
輸出を実施していないが、関心のある企業の公的な海外展開支援機関の利用状況とその評価
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1. ここでの利用状況とその評価は、回答する企業がそれぞれの公的機関に対して、最も求めている支援に対して尋ねたものである。
なお、それぞれの公的な支援機関の公的な支援は必要ないと回答した企業は除いている。
   2. 輸出を実施していない企業のうち、輸出への方針について「準備をしている」、「検討している」、「関心はある」と回答した企業
を集計している。
利用したことがある企業の公的な海外展開支援機関への評価
100%
0%
ジェトロ
(n=1,159)
中小企業基盤整備機構
(n=601)
地方自治体
(n=590)
商工会・商工会議所
(n=822)
政府系金融機関
(n=800)
0
100
(%)
80
90
70
60
40
20
30
10
50
(n=1,753)(n=1,341)(n=1,166)(n=1,394)(n=1,504)
ジェトロ
中小企業基
盤整備機構
地方自治体
商工会・商
工会議所
政府系金融
機関
とても満足
満足
どちらとも言えない
不満
とても不満
利用したことがある
利用したことがない
2.2
3.2
3.9
3.5
5.6
5.0
7.8
11.2
7.5
8.4
57.5
68.4
67.5
65.3
57.4
31.6
17.5
15.6
21.8
25.2
3.7
3.2
1.9
1.8
3.4
33.9
55.2
49.4
41.0
46.8
66.1
44.8
50.6
59.0
53.2
第 3-4-50 図
輸出や直接投資を実施している企業の公的な海外展開支援機関の利用状況とその評価
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) ここでの利用状況とその評価は、回答する企業がそれぞれの公的機関に対して、最も求めている支援に対して尋ねたものである。な
お、それぞれの公的な支援機関の公的な支援は必要ないと回答した企業は除いている。

Page 63
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
357
中小企業白書 2014
 主な公的な海外展開支援機関では、現在どのような支援のメニューがあるのであろうか。公的な支援機関の
状況について概観する 22
日本貿易振興機構(ジェトロ)
 ジェトロは、我が国の貿易を総合的に振興するために、1958 年に特殊法人として設立され、2003 年に独立
行政法人として新たなスタートを切った。世界各国及び日本各地の事務所のネットワークがあり、貿易・投資
振興及び地域・開発研究の総合機関として活動している。現在、国内 37 事業所、海外 55 か国 73 事業所を持っ
ており、国内 877 名、海外 700 名の職員がいる(2014 年 1 月 1 日時点)。
 ジェトロは、これらのネットワークを生かした情報提供に強みがあり、個別企業の相談対応を国内・海外で
行うほか、各国の貿易制度や投資コストなどをウェブサイトに無料で公開したり、貿易実務や国・産業別の市
場動向に関するセミナーなどを各地で行ったりしている。また、世界各地の見本市への出展支援、海外バイヤー
を招いた商談会や引き合い案件データベースによる取引先の開拓支援、海外進出に向けたミッション派遣やレ
ンタルオフィスの貸与なども行っている。
■具体的な支援の例
○海外経済・貿易情報の提供(海外情報ファイル、セミナー・講演会等)
○貿易・投資にかかる相談受付(貿易投資相談、海外ブリーフィング等)
○海外取引先の開拓支援(見本市・展示会、引き合い案件データベース)
○海外進出の実現支援(海外レンタルオフィスの貸与等)
■近年の新たな取組~専門家による新興国進出個別支援サービス~
 新興国進出に取り組もうとする中堅・中小企業に対して、経験豊富なジェトロの専門家 165 名(企業 OB・
現役シニア等)が、海外進出に向けたステップに応じてハンズオンで 2015 年 3 月まで支援を実施。企業は無
料で支援を受けることができる(渡航費、現地宿泊費等は負担が必要。)。2013 年 4 月から開始し、701 社の
企業に対して支援を実施している(2014 年 2 月時点)。
 詳細は、「サービスガイド(専門家による新興国進出個別支援サービス)」(http://www.jetro.go.jp/services/
expert/)を参照。
中小企業基盤整備機構
 中小企業基盤整備機構は、中小企業総合事業団、地域振興整備公団、産業基盤整備基金という三つの法人を
引継ぎ、2004 年に設立された。中小企業の事業活動の活性化のための基盤を整備することを目的に、創業か
ら新事業展開、経営基盤の強化、事業再生までのライフステージに合わせた支援体制を整える。そのような国
内での経営指導の一環として、海外への販路開拓や投資を目指す事業者への国際化支援を行っている。国内
10 か所に拠点があり、常駐している海外展開支援のアドバイザーは 64 名(登録しているアドバイザーは 429
名)が所属している。主要な支援業務は、以下の通りである。
コラム
3-4-3.
公的な海外展開支援機関の支援
22
なお、中小企業の海外展開の支援については、「中小企業海外展開支援施策集」(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2012/0422KTJirei.
pdf)、「ミラサポ(未来の企業☆応援サイト)」の海外展開ページ(https://www.mirasapo.jp/overseas/index.html)に詳しく記載があるほか、各
地方自治体でも様々な取組を行っている。

Page 64
358 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 中小企業基盤整備機構では、国内の事業も含めた経営指導に強みがあり、アドバイザーによる電話や対面等
での相談対応のほか、海外展開管理者・実務者向け研修など国内での支援事業を実施。インターネットを活用
した販路開拓支援にも注力している。
■具体的な支援の例
○電話や対面等での相談受付(国際化支援アドバイス)
○ 海外展開事業推進支援(フィージビリティー・スタディー支援、国際展示会出展サポート、インターネット
を活用した販路開拓支援)
○セミナー・研修・情報提供(セミナー実施、海外展開管理者・実務者研修、施策情報の提供)
■近年の新たな取り組み~フィージビリティー・スタディー支援~
 国内での事前準備から、海外現地での調査までを支援。企業の製品・技術・サービス等を基に、海外生産拠
点設立や販路開拓等の市場調査や専門家等からの実践的なアドバイス等を実施。2012 年から開始し、これま
で 300 社の企業に対して支援を実施している(2013 年 12 月時点)。
 このほか、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)、海外産業人材育成協会(HIDA)等の関係機関、
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関などが中小企業の海外展開を支援している。
 経済産業省では 2010 年以降、外務省、農林水産省及び金融庁、並びに関係機関と連携の上、海外展開支援
の目標を共有し、相互の事業効果を高めるための情報交換や議論の場を設けている。また、同様の取組は経済
産業局を中心として地域別にも行っている。

Page 65
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
359
中小企業白書 2014
 東京都千代田区の株式会社エヌ・ウェーブ(従業員 10 名、資本金 1,000 万円)は、国内の医療機関で使用され
るシステムの開発を行う事業者である。一人当たりの GDP が 8 万円程のバングラデシュで、2009 年からバスの
IC チケットによる料金徴収システム等の運用も行っている。
 同社のバングラデシュとの関わりは、バングラデシュ人の IT エンジニアを雇用したことがきっかけであった。
その後、ジェトロの主催するバングラデシュでの国内の展示会に参加することで、関わりが深まっていった。そし
て、現地を訪問した同社の矢萩章(やはぎあきら)社長は、バングラデシュの潜在力を感じ、事業の可能性を模索
するようになる。
 バスの IC チケットシステムの事業の可能性を探っている時、バングラデシュ人のビジネスウーマンからの聞い
た一言で、矢萩社長は事業化の思いを強くした。「このシステムはいつ私達の国に持ってきてくれるのか。この国
では、女性ということで、お釣りを誤魔化されたり、汚いお札を返されたり、悔しい思いをすることが多い。バス
に乗りたくても乗れない。」
 現在では、公営バス会社の 2 路線で、同社のシステムが取り入れられている。同社のシステムを利用することで、
運営が効率化された上、販売員による売上の着服等も防ぐことができ、バス会社の売上高は 50%以上増加した。
同社のバングラデシュの現地法人では、従業員が 200 名にまで増えている。また、ジェトロや JICA といった公的
な支援機関とも協力をしながら進めてきたことが、ここまで事業を拡大することができた要因だという。
 ただし、全てが順風満帆というわけではない。バングラデシュでは、選挙によるデモが発生し、公営バス会社の
運行が何か月も止まってしまったこともある。また、IC チケットによる決済システムを発展させるためには、付
随するサービスを整える必要があるが、必要資金を用意することは簡単ではない。
 「正直なところ、困難も多くある。ただ、国内外で協力してくれる人の期待に応えたいという思いが強い。また、
バングラデシュには、新しいビジネスの可能性を感じている。」と矢萩社長は語る。
3-4-10.
バングラデシュで、
バスの料金徴収システムの運用に取り組む企業
株式会社エヌ・ウェーブ
事 例
同社の矢萩章社長(右)

Page 66
360 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
3. 海外展開支援の在り方
 それでは、公的な海外展開支援の利用を促進し、
利用企業の満足度を高め、より有用なものとする
ためには、どうすれば良いのであろうか。第
3-4-52 図、第 3-4-53 図は、企業が公的な支援
機関に最も求めている支援を見たものである。第
3-4-52 図は、輸出や直接投資を実施している企
業が求めている支援であり、第 3-4-53 図は輸出
や直接投資を実施してない企業が求めている支援
である。
 これを見ると、ジェトロでは、海外展開実施企
業で、「販売先の紹介」、「法制度・商習慣に関す
る情報提供・相談」、「市場調査・マーケティング
の支援・情報提供」を求めている企業が多いこと
が分かる。また、海外展開未実施企業では、それ
に加えて、「信頼できる提携先・アドバイザーの
紹介」と回答する企業も多い。
 また、中小企業基盤整備機構では、海外展開実
施企業で、「公的な融資制度の拡充」、「市場調査・
マーケティングの支援・情報提供」、「法制度・商
習慣に関する情報提供・相談」を求めている企業
が多い。一方で、海外展開未実施企業では、「公
的な融資制度の拡充」、「市場調査・マーケティン
グの支援・情報提供」、「信頼できる提携先・アド
バイザーの紹介」と回答する企業が多くなってい
る。
 その他、地方自治体では、「公的な融資制度の
拡充」、商工会・商工会議所では、海外展開実施
企業で「販売先の紹介」、海外展開未実施企業で「市
場調査・マーケティングの支援・情報提供」、政
府系金融機関では、「公的な融資制度の拡充」が、
それぞれ割合が最も高くなっている。
第 3-4-52 図
輸出や直接投資を実施している企業が公的な支援機関に最も求めている支援
(%)
販売先の紹
介(展示会・
見本市・商
談会等)
市場調査・
マーケティ
ングの支援・
情報提供
従業員への
研修・セミ
ナーの実施
法制度・商
習慣に関す
る情報提
供・相談
事業計画の
策定支援
信頼できる
提携先・ア
ドバイザー
の紹介
各種専門家
の派遣
公的な融資
制度の拡充
その他
ジェトロ
(n=1,779)
27.3
23.6
2.9
26.0
1.4
9.0
2.2
2.7
4.8
100.0
中小企業
基盤整備機構
(n=1,370)
11.8
16.9
7.1
13.2
5.7
10.5
4.5
20.7
9.6
100.0
地方自治体
(n=1,183)
15.5
10.2
7.7
10.2
2.9
7.8
5.1
27.5
13.2
100.0
商工会・商工
会議所
(n=1,419)
16.8
13.0
15.5
12.3
3.2
11.1
4.5
12.5
11.2
100.0
政府系金融機関
(n=1,531)
4.5
4.8
1.3
5.8
3.0
3.5
0.5
69.1
7.5
100.0
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1.それぞれの公的な海外展開支援機関に対して「支援は必要ない」と回答した企業を除いて集計している。
   2.回答した企業の割合が、20 以上の項目は「赤」、20%未満 10%以上の項目は「黄」で示している。

Page 67
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
361
中小企業白書 2014
 海外展開を実施するに際して、企業は自社の商
品の販売先や、自社の現実的かつ具体的な課題に
ついて解決を与えてくれる相手を企業は求めてい
る。現状では、公的な支援機関が企業の要望に十
分に対応しきれていないことが、利用者の満足度
の低さにつながっている可能性がある。
 より企業の要望に対応するため、本節では、公
的な海外展開支援機関相互の連携、現地における
支援の拡充、民間支援機関との連携について、最
後に提言したい。
第 3-4-53 図
海外展開未実施企業が公的な支援機関に最も求めている支援
(%)
販売先の紹
介(展示会・
見本市・商
談会等)
市場調査・
マーケティ
ングの支援・
情報提供
従業員への
研修・セミ
ナーの実施
法制度・商
習慣に関す
る情報提
供・相談
事業計画の
策定支援
信頼できる
提携先・ア
ドバイザー
の紹介
各種専門家
の派遣
公的な融資
制度の拡充
その他
ジェトロ
(n=535)
19.4
26.4
1.5
18.5
2.6
17.0
2.2
4.5
7.9
100.0
中小企業
基盤整備機構
(n=497)
8.7
18.7
5.6
9.5
9.5
15.3
4.6
18.9
9.3
100.0
地方自治体
(n=445)
11.7
9.0
5.2
12.1
2.9
11.5
3.6
30.8
13.3
100.0
商工会・商工
会議所
(n=481)
14.6
15.8
13.3
10.2
7.1
13.9
2.7
11.0
11.4
100.0
政府系金融機関
(n=527)
4.7
8.3
1.5
7.0
3.2
5.9
0.4
60.0
8.9
100.0
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注)1.それぞれの公的な海外展開支援機関に対して「支援は必要ない」と回答した企業を除いて集計している。
   2.回答した企業の割合が、20%以上の項目は「赤」、20%未満 10%以上の項目は「黄」で示している。

Page 68
362 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
(1) 公的な海外展開支援機関相互の連携
 政府でも、ジェトロや中小企業基盤整備機構等、
公的な海外展開支援機関の相互の連携を図るた
め、関係者会議等を行い、また現場のレベルでも
情報共有を図る取り組みを進めている。公的な海
外展開支援機関が連携し、互いの強みを生かした
支援を行うことで、企業の要望に応えていくこと
が可能となるであろう。
 それでは、企業側からの評価はどのようなもの
であろうか。第 3-4-54 図は、公的な海外展開支
援機関の互いの連携に関する評価を見たものであ
る。これを見ると、「あまり連携していない」、「全
く連携していない」といった回答が多く、また、
「分からない」と回答している企業が最も多くなっ
ており、現状では連携の取組自体があまり知られ
ていないことが分かる。より一層の連携の促進と
その政策の広報が必要とされよう。
0%
100%
3.7 4.4
8.8
23.4
14.9
44.7
(n=2,706)
国外・国内において、十分に連携している
国外では不十分だが、国内では十分に連携している
国内では、一部連携している
あまり連携していない
全く連携していない
分からない
第 3-4-54 図
公的な海外展開支援機関の互いの連携に関する評価
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 現在実施している海外展開として、「直接輸出」、「間接輸出」、「直接投資(生産機能)」、「直接投資(販売機能)」、「直接投資(その他)」
のいずれかを回答した企業に尋ねたもの。

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第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
363
中小企業白書 2014
(2) 現地における支援
 海外展開は、まさに海外で事業を行うことであ
り、その支援の在り方を検討するためには、現地
での支援も併せて考えていかなければならない。
特に、経営資源の限られた中小企業にとって、海
外に割くことができる人材等の経営資源は少な
く、公的な支援が求められる分野といえる。
 第 3-4-55 図は、公的な海外展開支援機関の海
外拠点を見たものである。これを見ると、ジェト
ロの事務所は全世界にあり、地方自治体の拠点は、
上海を中心に中国に多く所在していることが分か
る。
第 3-4-55 図
公的な海外展開支援機関の海外拠点
(か所)
ジェトロ
地方自治体
在外日本人
商工会議所
政府系金融
機関
中国(香港含む)
7
71
4
3
韓国
1
20
1
0
台湾
0
4
1
0
ASEAN
5
17
13
2
その他アジア
7
2
8
0
北米
8
16
16
1
中南米
7
3
13
0
オセアニア
2
3
8
0
欧州
15
23
16
0
ロシア・CIS
3
0
0
0
中東
5
0
1
0
アフリカ
5
0
1
0
合計
65
159
82
6
資料:(財)自治体国際化協会「自治体の海外拠点一覧」等より中小企業庁作成
公的な海外展開支援機関の中国の拠点
(か所)
ジェトロ
地方自治
在外日本
人商工会
議所
政府系金
融機関
北京
1
5
1
0
上海
1
37
1
2
大連
1
8
1
0
香港
1
8
1
1
その他
3
13
0
0
合計
7
71
4
3
 第 3-4-56 図は、現地の国・地域における公的
な海外展開支援機関の支援への評価について見た
ものである。これを見ると、現地における公的な
海外展開支援が十分に行われていると考える企業
は少なく、約 6 割の中小企業が拡充を求めている
ことが分かる。
 それでは、具体的にどのような支援を求めてい
るのであろうか。第 3-4-57 図は、現地の国・地
域で必要としている支援の内容を見たものであ
る。これを見ると、「法制度・商習慣に関する情
報提供・相談」、「市場調査・マーケティングの支
援・情報提供」、「販売先の紹介」と回答している
企業が多い。

Page 70
364 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
全く行われておらず、支援が必要
0%
100%
4.4
30.6
24.3
8.7
31.9
(n=2,921)
十分に行われている
ある程度行われているが、拡充を期待
あまり行われておらず、一層の支援を期待
公的な支援は必要ない
第 3-4-56 図
現地の国・地域における公的な海外展開支援機関の支援への評価
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))
(注) 現在実施している海外展開として、「直接輸出」、「間接輸出」、「直接投資(生産機能)」、「直接投資(販売機能)」、「直接投資(その他)」
のいずれかを回答した企業に尋ねたもの。
60
その他
(%)
40
30
20
0
10
50
48.0
47.5
46.5
32.9
22.0
20.4
16.8
12.5
9.6
8.1
1.3
法制度・商習慣に関する情報提供・相談
市場調査・マーケティングの支援・情報提
販売先の紹介(展示会・見本市・商談会等
信頼できる提携先・アドバイザーの紹介
他の日系企業・邦人との交流の機会の創出
資金調達の支援
現地政府等との交渉・要請
事務所・拠点の貸出・提供
現地従業員への研修の実施
各種専門家の派遣
事業改善等にかかる相談
12.6
(n=1,639)
第 3-4-57 図
現地の国・地域で必要としている支援の内容(複数回答)
資料: 中小企業庁委託「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」(2013 年 12 月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメ
ント(株))

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第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
365
中小企業白書 2014
 現在、政府では、現地における中小企業のサポー
ト体制の強化のため、「中小企業海外展開現地支
援プラットフォーム」の整備を進めている(第
3-4-58 図)。このプラットフォームでは、海外現
地で官民の支援機関がネットワークを構築して、
法務・会計・労務、資金調達、人材確保、パート
ナー発掘、拠点設立や移転・撤退の諸手続等にも
対応しており、また、現地でコーディネーターを
配置することで、個別の相談の一元的な対応を実
施している。今後、設置数の増加はもとより、さ
らに特定産業に関連する課題解決に特化したプ
ラットフォームを設置するなど、現地における一
層の支援の取組が求められるであろう。
✓ 法務・会計・労務、資金調達、人材確保、パートナー発掘、拠点設立や移転・撤退に関する諸手続など専門的な相談
も広く対応。
✓ 相談に応じて、専門家のもとまでつなぎ、各種サービスを通じて企業の課題を解決する。
※相談に応じて、法律・会計事務所、コンサル会社等民間の専門家に取り次ぎ。
必要なサービスの提供や紹介、各種専門家への取次ぎ等を実施
(今後 5 か所程度新設予定)
ミャンマー(ヤンゴン)
中国(重慶/成都)
フィリピン(マニラ)
インドネシア(ジャカルタ)
ブラジル(サンパウロ)
タイ(バンコク)
インド(ムンバイ、チェンナイ)
設置箇所
ベトナム(ハノイ、ホーチミン)
海外展開現地支援プラットフォームのイメージ
コーディネーター
現地ネットワーク強化
現地民間支援機関
(金融機関、コンサル、
法律・会計事務所等)
現地関係機関
(商工会議所、
工業大学等)
現地公的支援機関
(大使館、JICA、HIDA 等)
ジェトロ
中小企業のビジネス展開への関心が高い新興国・地域に、現地の官民支援機関と連携し、
「中小企業海外展開
現地支援プラットフォーム」を設置。
(8 か国 10 か所に設置済み、今後 5 か所程度を新設予定)
海外現地にて海外展開の際に抱える課題解決を支援
現地での知見や地元政府当局、地場企業等とのネットワークに強みのあるコーディネーターを配置し、個別の相談を
一元的に対応している。
第 3-4-58 図
中小企業海外展開現地支援プラットフォーム

Page 72
366 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
(3) 海外展開支援における民間企業との連携
 ジェトロには、輸出・輸入や直接投資に関する
相談が、年間 5 万 5 千件以上寄せられている。ま
た、前掲第 3-4-35 図で見たように、中小企業の
輸出未実施企業の 3 割以上が輸出に関心を示して
おり、今後、海外展開を実施する潜在的な企業層
は少なくないことが分かる 23。また、関心があっ
ても、課題が乗り越えられず、海外展開を行えな
い企業も多く存在する。
 このように多くの中小企業の海外展開に関する
相談・要望に対して、全て公的な支援機関が対応
していくのは、現実的とはいえない。そのため、
海外展開を支援する民間企業とも連携し、ますま
すニーズが高まる中小企業の海外展開をオール
ジャパンで支援していくことが必要となる。
 一方で、海外展開に関心を持つ企業数の増加か
ら、海外展開を支援する民間の事業者も増加して
いる。後述事例 3-4-11 の海外展開支援の情報サイ
ト「Digima」の運営等を事業としている株式会
社 Resorz の兒嶋(こじま)社長は、「弁護士事
務所、会計事務所、翻訳会社等も含めて、海外展
開支援を行っている民間企業は少なくとも 10,000
社以上、総合的なサポートをしている企業に限っ
ても 2,000 社はある。」と言う。
 まずは、民間支援企業の実態を知っていくが必
要であろうが、将来的には、それらの民間事業者
や公的な支援機関の連携を深め、互いの強みを活
かすことで、中小企業の具体的なニーズに対応で
きる可能性がある。例えば、信頼できる民間の支
援機関については、政府としての何らかの「お墨
付き」を与え、海外展開を希望する中小企業のニー
ズに迅速かつ的確に応えられるようにするなど、
政府は民間の支援機関と効果的な連携を模索する
ことも考えられる。
23
例えば、中小企業は約 385 万社であることから、その 3 割が海外展開に関心があるとすると全体では、100 万社以上事業者が海外展開に関心があ
ることになる。ただし、アンケートの回答企業群が海外展開に関心の高い傾向があることも考えられる。業種によっても海外展開の難易も異なる
ため、海外展開しやすいと考えられる製造業(約 43 万社)のみに限定し、その 3 割程度が海外展開に関心があるとすると、おおよそ 10 万社程度
の潜在的な海外展開実施企業が存在すると推測される。

Page 73
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
367
中小企業白書 2014
 東京都目黒区の株式会社 Resorz(従業員 8 名、資本金 999 万円)は、中小企業の海外展開をサポートするサービ
スを提供している 2009 年に設立した企業である。
 同社の兒嶋裕貴(こじまゆうき)社長自身が学生時代に世界中を旅した経験が、同社の事業につながっている。
兒嶋社長は、海外に出ることで、日本の魅力を再確認し、自身の経験を日本に還元したいと強く思ったという。そ
こから、日本企業の海外展開をサポートするという同社の事業を立ち上げたのであった。
 「既存の公的な支援機関では、相談に乗り、一定の助言やサポートをすることはできても、実際に事業投資のリ
スクは取れず、また、法律等の専門的な判断が必要な領域でも支援することは難しいのではないか。」と兒嶋社長
は感じ、公的な支援機関が扱いにくい部分にも踏み込んで、実践的に企業の海外展開を支援する民間企業が必要と
考え、現在の事業を行っている。
 同社の主たる事業は、海外展開を支援する日本最大級の海外ビジネス WEB プラットフォーム「Digima~出島~
(http://www.digima-japan.com)」の運営である。このプラットフォームを通じて、海外展開を目指す企業と、
海外展開をサポートする企業がマッチングされる。同社では、過去のべ 4,500 件の企業からの相談を受け、現在で
は、毎月 200 件程度の問い合わせに対し、現地を含む 600 社ある提携先の海外展開サポート企業を紹介している。
 企業にとって信頼できる現地のパートナーを見つけることは簡単ではない。同社では、現地のサポート企業等を
開拓し提携している。他にも海外ニュースや海外進出の専門家コラムなどの配信や、海外ビジネスセミナーの開催、
アレンジ視察サービス、各国企業データの販売等も行っている。
 「ジェトロのように海外展開支援において信頼されている民間企業として、企業の海外展開に関するあらゆるサ
ポートができる組織にしていきたい。」と同社の兒嶋社長は語る。
3-4-11.
海外展開に関するあらゆるサポートを行う、
海外進出支援プラットフォームを運営する民間事業者
株式会社 Resorz
事 例
同社の兒嶋裕貴社長
保険
M&A
BPO
物流・輸出
貿易・通関
サポート
海外決済
送金サポート
海外向けEC構築
多言語サイト制作
グローバル
人材育成
人材採用
紹介
労務
サポート
現地人材
育成
商標・特許
申請
税務・会計
海外法務
(契約書、法務)
市場調査
企業調査
拠点設立
登記代行
資金調達
助成金
海外出張
ビザ
申請代行
ソーシャル
メディア
で海外展開
営業支援
(販路拡大、取引先開拓)
ITインフラ
構築
不動産・
レンタルオフィス
海外ECモール
出品代行
展示会
出展サポート
通訳
翻訳
Digima
~出島~
海外SEO
海外広告
店舗出店
FC展開サポート
海外視察
進出総合サポート
コンサルティング
閉鎖・撤退
インバウンド
オフショア
開発
中小企業庁作成
Digima~出島~の海外進出支援サービス登録ジャンル

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368 中小企業白書 2014
第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
 鹿児島県鹿児島市の鹿児島相互信用金庫は、鹿児島の地域に密着した信用金庫である。県内の取引先企業の直接
輸出・輸入を支援するため、貿易ミッション「TOBO 会」を毎年開催するなど、海外ビジネスマッチングに 20 年
以上に渡り、継続して取り組んでいる。
 貿易ミッション「TOBO 会」とは、現地で市場視察や商談会を行うビジネスツアーであり、毎年 1 回 30 社程度
が参加している。「TOBO 会」では、中国、東南アジア、ロシア等へ訪問をしており、1990 年の開始以来、計 28
回開催され、延べ 900 名以上が参加している。
 鹿児島では、立地の特性上、他の地域よりも輸送コストが掛かってしまう。特に、商社を通じて原材料を輸入す
ると、横浜等の港から県内に輸送するため、余計に
コストがかさむ。同様に、消費地に出荷する際にも、
輸送コストがかさみ、同金庫の取引先企業では、売
上減少とコスト増大に苦しんでいる企業が多かった
という。そのため、当時の大蔵省から外国為替業務
の許可が下りたことを契機に、こうした流通構造を
変え、鹿児島の企業を支援するため、同金庫では、
直接輸出・輸入を促進する貿易ミッションを開始し
たのであった。
 現在では、韓国、台湾、中国等の食品展示会に同
金庫がブースを設け、複数企業の食品を出展する海
外展示会共同出展事業や、海外のバイヤーを招へい
した国内での商談会の開催も行っている。商談会へ
の参加企業は、案内をすると瞬く間に集まるなど、
取引先企業の海外市場への関心は非常に高いという。
3-4-12.
20 年以上継続して、
取引先企業の海外展開の支援に取り組んでいる
地域の信用金庫
鹿児島相互信用金庫
事 例
2010 年に大連で行われた TOBO 会の様子

Page 75
第3部
2014 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan
第4節
369
中小企業白書 2014
 中小企業基盤整備機構では、中小企業の海外展開を支援するため、海外展開をしたい中小企業と海外展開を
支援する企業・団体とのビジネスマッチングの場の創出を進めている。
 支援組織の相互の連携を促進するため、2014 年 1 月に、「SME ワールドビジネスサポート懇親会」のキッ
クオフカンファレンスを開催した。130 名以上の参加があり、前掲事例の株式会社 Resorz 他、コンサルティ
ング会社、商社、金融機関、人材紹介会社、NPO、各国政府機関等、多種多様な 40 近くの支援企業・団体が、
自らの取組をプレゼンテーションし、相互の交流を深めた。
 今後、全国各地で、国・地方自治体、中小企業支援機関、民間企業等と連携を進め、海外展開に意欲を持つ
中小企業と支援企業・団体のビジネスマッチングの場を創出していく。
コラム
3-4-4.
中小企業基盤整備機構との民間企業との連携の試み
 第 4 章では、中小企業の海外展開を見てきた。
第 2 部でも分析したように、人口の減少等によ
り、国内市場での需要減少に危機感を感じている
企業は多い。このため今後、成長している海外需
要を取り込むため、海外展開を実施する企業はま
すます増加していくことが予想される。
 海外展開は、企業にとって大きな成長機会とな
り得る可能性がある一方で、そこには様々な課題
やリスクも存在しており、言語や文化も異なる海
外市場で成功することはたやすいことではないで
あろう。「いかに販売先を確保していくのか」と
いう基本に立ち返って、海外市場を攻略していく
ことこそ、成功の秘訣ではないだろうか。
 今後、中小企業の海外展開支援に際しては、政
府や公的な支援機関による支援体制だけではな
く、民間の支援事業者を含めた「総力戦」まさに
オールジャパンでの海外展開支援が求められる。