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IT活用で厳しい経営環境に 立ち向かう中小金型製造業
Page 1
ISSN 1883-5937
日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月
日本公庫総研
レポー
 No.
2019-4
 
9年11月
IT活用で厳しい経営環境に
立ち向かう中小金型製造業
総合研究所

Page 2

Page 3
はしがき
リーマン・ショック以降、日本のものづくりを支える中小金型製造業者の経営環境は厳しさを増してい
る。主な顧客である自動車メーカーや電機メーカーなどの国内生産額が減少し、金型の需要が伸び悩む一
方、輸入量は増加し、海外の金型メーカーとの競争が激しくなっている。近年は、そうした変化に対応す
るため、センサー技術やAI、あるいは3Dプリンターといった新たに発展してきたIT(Information
Technology:情報技術)を積極的に活用する企業がみられるようになっている。そうした企業は、コスト
ダウンを実現したり、付加価値の高い金型を開発したりして、競争力を高めている。
そこで本レポートでは、金型製造業者へのインタビューを行い、そうした新たなITの活用策を中心に、
厳しい経営環境に立ち向かう中小金型製造業の生き残り策を探った。
本レポートの構成は次のとおりである。
第1章では、統計データとアンケート調査をもとに、中小金型製造業を取り巻く経営環境の変化につい
て整理している。
第2章では、ITを積極的に活用する中小金型製造業者4社の事例を紹介している。
第3章では、第2章の企業事例をもとに、中小金型製造業者の抱える経営課題や、経営課題へのITを活
用した対応策、それに、ITを導入する際の留意点について、それぞれ整理している。
経営課題として、受注単価の下落、受注数量の減少、最終製品の市場の縮小、人材育成と技能承継の四
つを挙げている。それらへの対応策としては、大幅な効率化による採算の確保、金型の差別化、周辺市場
や新市場の開拓、技術の承継と標準化の四つを指摘した。
ITの導入における留意点は、ITをどこに使うかということと、IT化を誰が推進するかということ、そ
れに、IT化をいかに社内に浸透させるかの三つの観点からまとめている。
本レポートをまとめるに当たり、横浜国立大学・三井逸友名誉教授にご指導いただいたほか、多くの関
係機関や企業の方々に調査にご協力いただいた。ここに記して感謝したい。また、ありうべき誤りはすべ
て筆者個人に帰するものである。
(日本政策金融公庫総合研究所 松井 雄史)

Page 4

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目 次
第1章 中小金型製造業の現状
1
1 金型とは
1
2 国内の金型生産の現状
2
3 輸出入の動向
4
4 中小金型製造業のITへの取り組み
6
第2章 中小金型製造業の取り組み事例
9
1 ユミックス��
10
2 �潟с}ナカゴーキン
14
3 �蟹BUKI
18
4 �潟Gービー
22
第3章 ITを活用した中小金型製造業の戦略
27
1 中小金型製造業者の経営課題
27
2 ITを活用した対応策
28
3 IT導入プロセスの留意点
31
4 今後に向けて
32

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第1章 中小金型製造業の現状
1  金型とは
一般社団法人日本金型工業会は、金型を「材料
の塑性または流動性の性質を利用して、材料を成
形加工して製品を得るための、主として金属材料
を用いてつくった型」と定義している1。金型は、
同一の形状・品質の部品を大量生産するために使
用される。工業製品の量産に欠かせないことから、
「産業のマザーツール」とも呼ばれている。
金型にはさまざまな種類がある。経済産業省
「工業統計調査」は、金型を「金属用金型」(「プ
レス用金型」「鍛造用金型」「鋳造用金型(ダイカ
スト用を含む)」「その他の金属用金型、同部分品・
附属品」)と「非金属用金型」(「プラスチック用金
型」「ゴム・ガラス用金型」「その他の非金属用金
型、同部分品・附属品」)に分けている。2017年
の金型出荷額の構成比を種類別にみると、「プレ
ス用金型」が35.1%、「プラスチック用金型」が
31.6%と、この2種類で日本の金型出荷額の約7割
を占めている(図−1)。それに続くのが、「その他
の金属用金型、同部分品・附属品」(15.3%)、「鋳
造用金型(ダイカスト用を含む)」(8.1%)、「その他
の非金属用金型、同部分品・附属品」(3.6%)と
なっている。
次に、金型はどのような分野で用いられている
のかをみていく。日本金型工業会が2018年に行っ
たアンケート調査によると、需要業界別にみた金
型の生産比率は、「自動車用」が76.6%、「電機用」
が3.1%となっている(図−2)。自動車用金型の
割合が約8割を占め、他の需要業界を大きく上回っ
ている。2012年の「自動車用」64%、「電機用」
10%と比べると、「電機用」の割合が減少した一
方、「自動車用」の割合が増加しており、自動車
産業が、金型製造業にとってますます重要な顧客
となっていることがうかがえる2
それでは、金型製造業の主要な顧客である自動
車産業と電機産業の動向はどうなっているのだろ
うか。経済産業省『生産動態統計年報』で2018年
の生産金額を製品別にみると、「自動車」は21兆
5,953 億円、「自動車部品」は 8 兆 8,075 億円、
「民生用電気機械器具」は8,520億円、「民生用電
子機械器具」は6,074億円であった3。リーマン・
図−1 金型の出荷額の構成比(種類別)
プレス用金型
35.1
その他の金属
用金型、同部
分品・附属品
15.3
鋳造用金型(ダイ
カスト用を含む)
8.1
その他の非金属用
金型、同部分品・
附属品
3.6
(単位:%)
プラスチック用金型
31.6
ゴム・ガラス用
金型
3.1
鍛造用金型
3.2
資料:経済産業省「工業統計調査」(2017年)
(注)従業者4人以上の事業所のデータ。
1
一般社団法人日本金型工業会ホームページ(https://www.jdmia.or.jp)より。
2
2012年調査は、小数点第1位以下は公表されていない。
3 「民生用電気機械器具」は、「電気冷蔵庫」「電気洗濯機」「電気掃除機」など。「民生用電子機械器具」は「薄型テレビ」「デジタルカメ
ラ」「カーナビゲーションシステム」など。
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ショックによる影響がまだあまりみられない2008年
の生産金額と比較すると、「自動車」は88.5%、
「自動車部品」は94.8%、「民生用電気機械器具」
は94.8%、「民生用電子機械器具」は22.0%の水準
となっている。金型の主要な顧客の生産水準はい
ずれも低下しているが、特に、いわゆるデジタル
家電を中心とした電機産業の国内生産金額が大幅
に落ち込んでいることがわかる。こうした結果、
金型も電機産業向けの生産比率が減少し、自動車
産業への依存度が高まっている状況といえる。
製造業の国内生産が減少している背景として、
製造業が海外移転を進めていることが挙げられる。
経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、
海外生産比率は、製造業全体では、2004年度の
16.2%から2017年度の25.4%に増加している4。業
種別にみると、自動車が大半を占める「輸送用機
械産業」は、2004年度の36.0%から2017年度の
47.2%に、「電気機械産業」は2004年度の9.5%か
ら2017年度の16.3%に、それぞれ増加している。
2  国内の金型生産の現状
こうしたなか、日本の金型産業はどのような状
況にあるのだろうか。金型製造業の出荷額の推移
をみると、バブル景気を背景に、1991年に1兆
9,575 億円のピークに達した後、2008 年までは
1兆6,000億円前後で推移した(図−3)5。しかし、
2008年9月に発生したリーマン・ショックの影響
により大幅に出荷額が減少し、2010年には1兆874
億円と、ピークの1991年に比べて約56%の水準
にまで落ち込んだ。その後は回復傾向にあるが、
2017年の出荷額は1兆5,258億円と、ピーク時の
約78%の水準にとどまっている。国内生産の停滞
や顧客の海外移転を背景に本格的な回復には至っ
ておらず、日本の金型製造業は厳しい状況に置か
れているといえる。
事業所数の推移をみると、1990年の1万3,115
事業所が最も多く、2000年まで1万2,000事業所
図−2 需要業界別の生産比率
資料:一般社団法人日本金型工業会調べ
(注)1 日本金型工業会が会員企業約400社に実施したアンケート調査にもとづく。
   2 自動車用は、「自動車用」と「二輪自動車用」の合計。「電機用」は「電機・家電用」と「電機・一般用」の合計。
   3 2012年調査は、小数点第1位以下は公表されていない。
76.6
64
10
3.1
5
2.3
4
2.3
3
1.7
14
14.0
2012年
2018年
(単位:%)
自動車用
電機用
産業機械用
通信機器用
精密機器用
その他
4
海外生産比率は、現地法人売上高/(現地法人売上高+国内法人売上高)×100で算出している。2004年度から、電気機械産業を電
気機械産業と情報通信機械業に分離し算出していることから、2004年度との比較とした。
5
金型製造業以外の事業所が金型を内製している金額や金型を出荷している金額は含まれない。経済センサス(2015年)で出荷額をみ
ると、品目別の金型は1兆4,294億円、金型製造業は1兆3,768億円と、その差は526億円と小さい。金型製造業以外の金型出荷額はそ
れほど大きくなく、事業所内の内製品はそもそも出荷額に算入すべき性質のものではないため、金型製造業の出荷額を日本の金型の
市場規模ととらえて差し支えないだろう。
2
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前後で推移していたが、2001年以降は1万2,000
を下回り、減少傾向が鮮明になってきている
(図−3)。2017年は7,074事業所と、1990年と比
較し53.9%まで減少している。
経済産業省「工業統計調査」により、金型製造
業の1事業所当たりの従業者数をみると、2017年
は12.1人となっている6。従業者19人以下の事業
所が86.0%を占めており、日本の金型製造業は、
中小企業が占める割合が高いことが特徴である
(図−4)7
金型製造業の生産性はどうだろうか。生産性は
大企業と中小企業で水準が大きく異なるため、本
レポートの分析対象である中小企業の動きをみて
いこう。資本金3億円未満の金型製造業について、
労働生産性の指標である従業者1人当たり粗付加
価値額をみると、2006年に1,014万円を記録した
図−3 金型製造業の出荷額、事業所数の推移
資料:経済産業省「工業統計調査」、総務省「経済センサス」
(注)1 1994年は従業員3人以下の規模集計されていないため、同年の1〜3人は経済産業省の推計値を用いた。
   2 2011年と2015年は、工業統計調査が実施されなかったため、経済センサスのデータを使用した。
   3 出荷額は、2007年調査において調査項目を変更したため2006年以前の数字とは接続しない。
13,115
7,074
1.96
1.09
1.53
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
14,000
16,000
18,000
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
1990
95
2000
05
10
15
17 (年)
(兆円)
(事業所)
事業所数(右目盛)
金型出荷額(左目盛)
図−4 金型製造業の事業所数構成比(従業者規模別)
資料:経済産業省「工業統計調査」(2017年)
(注) 金型製造業は、「金属用金型・同部分品・附属品製業」「非
金属用金型・同部分品・附属品製造業」を合計した値。
3人以下
48.9
4人以上
9人以下
23.4
10人以上
19人以下
13.7
20人以上
29人以下
6.1
30人以上
99人以下
6.6
100人
以上
1.3
(単位:%)
19人以下
(太線部分)
86.0
6
従業者数/事業所数で計算。
7 「工業統計調査」「経済センサス」では、日本標準産業分類上の細分類である金型製造業の企業数は公表されていないため、ここでは
事業所別の規模をみている。1事業所当たりの従業者数は、1企業当たりの従業者数よりも少なくなることに留意が必要。なお、「工
業統計調査」では、製造業全体の従業者数19人以下の事業所数の割合は、80.2%。
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後、リーマン・ショック後の2010年には734万円
まで減少した(図−5)。その後は回復傾向にあ
るが、2017年は、2006年の約90%である911万
円にとどまっている。資本金3億円未満の製造業
全体と比べると、2008年までは金型製造業のほ
うが製造業全体より1人当たり粗付加価値額が高
かったが、2009年に製造業全体を下回った。そ
の後も、金型製造業の回復のペースは鈍い。金型
製造業は、リーマン・ショック以降に生産性が大
きく低下したといえる。
3  輸出入の動向
次に、日本の金型の輸出入額の推移をみてみよ
う。財務省「貿易統計」によると、日本の金型の
輸出額は、2000年の2,938億円から2018年は3,185億
円と微増となった(図−6)。金型の種類別では、
「プレス用金型」の輸出額は2000年の1,020億
円から2018年の1,424億円と増加した一方で、
「ゴム・プラスチックの成形用金型」は、2000年
の1,377億円から2018年の1,053億円と減少して
いる8。2000年と2018年の輸出額合計に占める割
合を比べると、「プレス用金型」が34.7%から
44.7%へ増加した一方で、「ゴム・プラスチック
の成形用金型」は46.9%から33.1%へ低下してお
り、その割合が逆転している。
日本の金型の輸入額は、2000年の381億円から
2018年の1,290億円へと大きく増加した(図−7)。
金型の種類別では、「プレス用金型」が36億円か
ら225億円へ、「ゴム・プラスチックの成形用金
型」が、273億円から771億円へと、それぞれ増
加している。
図−5 従業者1人当たりの粗付加価値額推移(資本金3億円未満の企業)
877
788
製造業全体
896
1,014
734
金型製造業
911
0
600
700
800
900
1,000
1,100
2002
05
10
15
17(年)
(万円)
製造業全体
金型製造業
資料:経済産業省「工業統計調査」
(注)1 従業者4人以上の事業所に関するデータ。
   2 資本金「300万円未満」「300万円以上1,000万円未満」「1,000万円以上3,000万円未満」「3,000万円以上5,000万円未満」「5,000万
円以上1億円未満」「1億円以上3億円未満」の企業を集計。
   3 粗付加価値額=製造品出荷額等−(推計酒税、たばこ税、揮発油税及び地方揮発油税額+推計消費税額)−原材料使用額等
   4 2011年、2015年は工業統計調査が実施されていないため、データはない。
   5 2007年調査において調査項目を変更したため、2006年以前の数字とは接続しない。
8
金型の種類は、「貿易統計」と「工業統計調査」で定義が異なる。
4
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図−6 日本の金型輸出額の推移
資料:財務省「貿易統計」
(注)1 金型の輸出額は、「金属の引抜き用・押出し用ダイス」「プレス用、型打ち用、押抜き用の工具」「金属鋳造用鋳型枠」「鋳型べ−
ス」「鋳型用パタ−ン」「金属又は金属炭化物の成形用の型」「ガラスの成形用型」「鉱物性材料の成形用型」「ゴム又はプラスチッ
クの成形用の型」の合計。
   2 プレス用金型は、「プレス用、型打ち用、押抜き用の工具」の数値。
   3 ゴム・プラスチックの成形用金型は、「ゴム又はプラスチックの成形用の型」の数値。
   4 金型輸出額は、輸出された貨物の金額であり、金型製造業者が輸出した金額とは限らない。
図−7 日本の金型輸入額の推移
資料:図−6に同じ
(注)1 金型の輸入額は、「金属の引抜き用・押出し用ダイス」「プレス用、型打ち用、押抜き用の工具」「金属鋳造用鋳型枠」「鋳型べ−
ス」「鋳型用パタ−ン」「金属又は金属炭化物の成形用の型」「ガラスの成形用型」「鉱物性材料の成形用型」「ゴム又はプラスチッ
クの成形用の型」の合計。
   2 図−6の注2、注3に同じ。
   3 金型輸入額は、輸入された貨物の金額であり、金型製造業者が輸入した金額とは限らない。
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
3,500
4,000
2000
05
10
15
18
(億円)
(年)
輸出額合計
プレス用金型
ゴム・プラスチックの
成形用金型
その他
0
200
400
600
800
1,000
1,200
1,400
1,600
2000
05
10
15
18
(億円)
(年)
輸入額合計
プレス用金型
ゴム・プラスチックの
成形用金型
その他
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日本金型工業会によれば、ゴム・プラスチック
の成形用金型を中心に、顧客企業が進出先国の企
業から調達するようになっているため、金型の輸
出額は、伸び悩んでいるという。一方、金型の輸
入額が増加している主な理由の一つとして、日本
の金型製造業が行った設計に対して、機械加工を
海外の企業に外注し、最終的に金型の出来を左右
する仕上げや組み立ての工程は日本に戻してきて
行うという動きが増えていることを挙げている。
貿易特化係数で日本の金型の国際競争力をみる
と、2000年は金型全体で0.77と高い水準にあっ
9。型の種類別では、プレス用金型が0.93、ゴ
ム・プラスチックの成形用金型が0.67となってお
り、いずれも競争力をもっていたといえよう。し
かし、2018年は、金型全体では、0.42となってお
り、2000年と比較すると競争力が低下している。
型の種類別では、プレス用金型が0.73と比較的高
い競争力を維持しているが、ゴム・プラスチック
の成形用金型が0.15となっており、競争力が低下
している。足元では、ゴム・プラスチックの成形
用金型を中心に、海外企業との競争が激化してい
るといえよう。
4  中小金型製造業のITへの取り組み
ここまで、金型製造業が厳しい経営環境にある
ことをみてきた。その要因は、顧客の国内生産額
減少、海外企業との競争激化である。これらへの
対応策として考えられるのは、生産工程の合理
化・納期短縮、生産量の増加、既存製品の品質向
上などであり、それらを効率よく実現できる方法
の一つがITの導入と活用であろう。
ITの活用について尋ねた各種のアンケート調
査で、金型製造業の動向を抽出できるものはほ
とんどない。そのため、ここでは、当研究所が
2017年に行ったアンケート調査の結果から金型
製造業を抽出して再集計し、IoT(Internet of
Things:モノのインターネット)に関する取り
組み状況を確認することとした10
IoTに関連した設備投資の実施状況をみると、
金型製造業のうち「すでに実施した」と回答した
割合は7.2%、「実施していないが、予定はある」
と回答した割合は12.6%となっている(図−8)。
製造業全体で、「すでに実施した」割合が4.5%、
図−8 IoTに関連した設備投資の実施状況
資料:日本政策金融公庫総合研究所「第116回中小製造業設備投資動向調査(特別調査)」(2017年)
(注) IoT(Internet of Things)を「機械、建物、車などの「モノ」がインターネットなどのネットワークに接続され、相互通信が可
能になる状態」と定義したうえで、回答を求めた。
7.2
4.5
12.6
6.2
39.6
55.9
40.5
33.4
金型製造業
(n=111)
製造業全体
(n=8,218)
(単位:%)
すでに実施した
実施していないが、予定はある
実施しておらず、予定もない
未定である
9
貿易特化係数は、国の産業の輸出競争力を示す指標で、(輸出額−輸入額)/(輸出額+輸入額)で計算される。−1〜+1の間の値
をとり、−1に近いほど競争力が低く、+1に近いほど競争力が高いとされる。
10 本調査は日本政策金融公庫総合研究所が「第116回中小製造業設備投資動向調査」の付帯調査として行ったもの。調査時点は2017年
4月。調査対象は、経済産業省「工業統計調査」をもとに把握した全国の従業員20人以上300人未満の中小製造業53,303社から、層
化無作為抽出法により30,000社を選定。付帯調査の有効回答数は8,514社。
6
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「実施していないが、予定はある」割合が6.2%と
なっているのと比較すると、金型製造業はIoTに
関連した設備投資の実施割合が高いといえる。
具体的な投資対象の設備をみると、金型製造業
は、「機械・装置」の割合が81.8%と最も高く、
次いで、「ソフトウエア・アプリケーション」
(59.1%)、「情報通信機器」(31.2%)となってい
る(図−9)。製造業全体に比べると、金型製造
業のほうが「機械・装置」の割合が高く、「情報
通信機器」の割合が低くなっている。金型製造業
は、精密加工設備を必要とすることを背景に、
「機械・装置」の割合が高くなっていると考えら
れる。一方、「機械・装置」と別に「情報通信機
器」を工場内に導入する必要性は少ないのかもし
れない。
以上、金型製造業の現状を、統計やアンケート
を通して概観した。厳しい環境に置かれていると
考えられる金型製造業者は、どのような対策を 
行っていけばよいのだろうか。続く第2章では、
インタビュー調査の内容を紹介する。
図−9 IoTに関連した投資対象の設備(複数回答)
81.8
59.1
31.2
13.6
9.1
9.1
0.0
65.1
42.8
43.5
7.8
5.8
14.3
1.4
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
機械・装置
(工作機械、検査機、ロボットなど)
ソフトウエア・アプリケーション
(クラウド関連を含む)
情報通信機器
(タブレット、スマートフォン、
サーバーなど)
建物・構築物
(工場・倉庫など)
車両(トラック、営業用車両など)
備品(カメラ、プリンタなど)
その他
(単位:%)
金型製造業(n=22)
製造業全体(n=818)
資料:図−8に同じ
(注)1 IoTに関連した設備投資の実施状況について、「すでに実施した」または「実施していないが、予定はある」と回答した企業に
尋ねたもの。
   2 複数回答のため、合計は100%を超える。
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第2章 中小金型製造業の取り組み事例
金型製造業の現状と、経営課題への具体的な対
応策を明らかにするために、今回、ITを活用し
て課題に取り組む中小金型製造業者4社の事例を
収集した(表)。2019年5月から7月にかけて、
本社または工場を訪問し、経営者、技術者、工場
の管理責任者などに直接インタビューを行った。
本章では、その内容を紹介する。
インタビュー先については、製造する金型の種
類や、活用する主なITの内容のバランスにできる
だけ配慮しつつ選定した。製造する金型の種類は、
プレス用金型が1社(ユミックス�梶j、鍛造用金型
が1社(�潟с}ナカゴーキン)、プラスチック用金
型が2社(�蟹BUKI、�潟Gービー)である。本レ
ポートで採り上げた主なITは、3次元CADシス
テム、3Dスキャナー、成形シミュレーションシス
テム、センサー技術、AI、3Dプリンターである。
改めて次章で詳述するが、金型製造業者が抱え
る経営課題への対応として、(1)大幅な効率化、
(2)金型の差別化、(3)周辺市場や新市場の開
拓、(4)技能の承継と標準化といった視点に重き
を置いて、IT活用の実態を調査したものである。
表 インタビュー企業の概要
番 号
企業名
(本社所在地)
訪問先
(所在地)
事業内容
活用する主なIT(注)
掲載
ページ
1
ユミックス��
(大阪府枚方市)
本社工場
(同左)
金属プレス用金型、金型
用標準部品の設計・製造
・3次元CADシステム
・3Dスキャナー
・ 成形シミュレーション
システム
10
2
�潟с}ナカゴーキン
(大阪府東大阪市)
東京工場
(千葉県佐倉市)
鍛造用金型の製造、数値
解析シミュレーションソ
フトの販売
・ 成形シミュレーション
システム
・センサー技術
14
3
�蟹BUKI
(山形県西村山河北町)
本社工場
(同左)
プラスチック射出成形用
金型の製造、射出成形品
の量産
・センサー技術
・AI
18
4
�潟Gービー
(神奈川県川崎市)
白河工場
(福島県西白河泉崎村)
プラスチック射出成形用
金型の製造、射出成形品
の量産、金型・製品設計
サービス
・3次元CADシステム
・3Dプリンター
22
資料:筆者作成
(注)本レポートで主として採り上げたものであり、各社が活用するITすべてを含むものではない。
日本公庫総研レポート No.2019-4
9
2019年11月

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1 ユミックス��
⿝独自技術を武器に世界の自動車メーカーと直接取引
⿝ITと人のバランスを意識して高い技術力を維持
代 表 者
天満 幸治
従業者数
118人
創 業 年
1945年
所 在 地
大阪府枚方市
資 本 金
7,000万円
U R L
http://www.umix.co.jp
事業内容
金属プレス用金型、金型用標準部品の設計・製造
(1)海外企業との直接取引を拡大
ユミックス�鰍ヘ、自動車のフェンダーやサイド
パネル、ルーフ、ドアといった大型の外板用のプ
レス金型を製造している。販売先はBMW、フォ
ルクスワーゲン、ボルボ、GM、ダイムラーなど
の欧米の自動車メーカーを中心とした海外向けが
約8割、トヨタ自動車、ダイハツ、マツダなどの
日本の自動車メーカー向けが約2割となっている。
いずれも商社や部品メーカーを通さず、直接取引
を行っている。
一般に、金型が大きくなればなるほど、成形品
の精度を確保することは難しい。スプリングバッ
11 などが生じるためだ。プレスする素材や形状
によっても出来上がりに違いが生じる。同社はこ
うした課題を克服し、最終のプレス成形品で公差
にして1,000分の20ミリメートルを確保している。
また、高張力鋼板12、アルミなど加工が難しい素
材でも、同程度の公差でプレス加工が可能な金型
をつくることができる。
同社は1945年に創業した後、長らく主に家電
関係の金型をつくっていた。60年代に入ると、
国内の自動車の生産の拡大とともに、自動車関連
部品の金型を多く手がけるようになっていく。し
かし、80年代半ばから90年代にかけて、急速に
進んだ円高を背景に、国内の取引先からは、コス
ト削減を強く求められるようになっていった。
そのような状況のなか、90年代前半にGMとの
取引を開始した。後述のロータリーカムの導入に
より、他社と比べてプレス工程の回数を少なくで
き、精度も高い金型を製造できたことが評価され
たのだ。その後も、アウディやダイムラーといっ
た海外メーカーとも次々に取引をするようになっ
ていった。
海外の自動車メーカーには、日本のように系列
企業という概念がないため、技術のある企業であ
れば、積極的に取引を行う姿勢にある。異なる自
動車メーカーの技術者同士がサプライヤーについ
ての情報交換を行ったり、自動車メーカーの技術
者がほかの自動車メーカーに転職した場合に、
移った先でも前の会社の取引先に取引を打診する
ことがよくあるという。そうした背景から、海外
メーカーとの取引が増えていったのだ。日本の自
動車メーカーの価格重視傾向がより強まったこと
も、それを後押しした。
(2)独自技術の「ロータリーカム」
同社の技術力の源泉となっている「ロータリー
カム」の原型を開発して特許を取ったのは、1981年
のことだ(図−10)。
11 材料を曲げて工具を離した後、材料が元に戻る現象、またはその力のこと。
12 通常の鉄より引っ張り強度が高い鋼材。自動車の軽量化に役立つ素材として利用が増えている。延びにくくひずみやすいために、加
工が難しいとされる。
10 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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カム機構とは、上下からの縦方向にかかった力
を、横方向に変換する機構のことである。通常は
複数回プレスが必要となる複雑な曲げ加工を、
1ショットでプレスできるという特徴をもつ。
ロータリーカムは、それをさらに進化させ、負角
成形13 を可能とする回転機構を組み込んでいる。
一般的なカム機構と比べて、より複雑な形状を
1ショットで仕上げることができる。成形品の精
度も高めることが可能になるとともに、成形品の
取り出しが容易であるという特徴ももっている。
このロータリーカムに順次改良を加え、より高度
な加工を可能にしてきたことが、同社が海外の有
名なメーカーから、自動車の外観を決定づける重
要な部品の金型を任される大きな要因となったの
である。
(3)ITが高精度な加工を下支え
求められる高い精度を実現し、品質の安定化を
図るには、最新の設備と熟練の技能に加え、その
時々の新たなITの活用が必須であった。
設計に3次元CADシステムを導入したのは、
2000年ころのことである。取引のあった米国の
図−10 カム機構とロータリーカム機構
成形完了
成形開始
成形対象物
回転機構
成形品
縦方向の力
カム機構により変換された
横方向の力
負角成形
縦方向の力
カム機構により変換された
横方向の力
ロータリーカム機構
従来のカム機構
資料:同社提供資料をもとに筆者作成
13 鋭角部分を内側から金型を当てて成形すること。
日本公庫総研レポート No.2019-4 11
2019年11月

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自動車メーカーがすでに導入しており、設計デー
タをやりとりするうえで必要となったためだ。導
入時は、操作に慣れず、むしろ時間がかかるなど
の問題もあったが、必要に迫られ使い込んでいく
うちに、うまく使いこなせるようになっていった
という。簡単な操作で複雑な設計ができるため、
設計の効率化、高度化につながり、生産性や品質
が大きく向上した。
プレス成形支援システムと呼ばれる、プレスの
出来上がりをシミュレーションするソフトウエア
も購入し、活用している。成形品の素材や金型の
形状などの諸条件を入力すれば、プレスを実行し
た後の成形品の仕上がりを、データや図で表すこ
とができる。あらゆる素材、形状に対応可能であ
り、設計の効率化や試作回数の削減につながって
いる。形状が複雑な金型だと、実際にプレス機に
装着した際に、うまくかみ合わなくて金型が一部
破損する場合がある。そうすると、顧客は金型の
修理代を負担しなければならない。破損した金型
によりプレス機が故障することもある。シミュ
レーションソフトを使うことによる、そうしたリ
スクの防止効果は大きい。
検査部門においては、3Dスキャナーを2005年
ころに導入した。製造した金型や試作した成形品
の表面形状を自動でスキャンし、不良品を判別す
る。レンズを交換するだけで、小さな部品から、
10メートルを超える大型の成形品まで測定でき
るため、全体の測定時間を大幅に短縮することが
可能となっている。
(4)過度のIT依存を避ける
このように、同社では、設計から検査まで、幅
広く最新のITを取り入れている。しかしながら、
天満社長は「コンピューターやシステムの使い方
を完璧に覚えたところで、必ずしも良いものがつ
くれるとは限りません。ITはあくまで道具でし
かないのです」と言う。同社では、システムで算
出された結果をそのまま用いることは極力行わな
い。コンピューターの計算は完璧だが、プログラ
ムが不完全なことがある。データ入力を間違え
ば、結果も違ってくる。工程ごとにその都度、検
証を行い、経験にもとづく修正を加えることが必
要となる。
製造現場での人材育成は、基本的にはベテラン
から若手へのOJTによる。ロータリーカムの金
型の構造は独特で、金型の図面があればすぐにつ
くれるかというと、けっしてそうではない。やは
り、現場での経験や慣れが重要なのだ。
最近の製造業の現場では、若手がいきなり3次
元CADを扱うこともめずらしくなく、ものの構
造を正しく理解していないと思われる図面を引く
人が増えているという。そうしたことのないよう
同社では、基本的な製図理論のOff−JTも行って
いる。
ロータリーカムを組み込んだ金型
天満幸治社長
12 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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(5)技術力を高める工夫
設計を行うためには独特の技能や知識が必要と
なるため、一般的に、設計専門の人員を抱える企
業が多い。製造現場の従業員は、設計部門から送
られてくるCAD/CAMのデータをもとに、NC
(数値制御)工作機械の操作盤の操作だけを行う
という役割になる傾向も、同業他社ではみられる
という。
それに対し、同社では、製造部門と設計部門の
間でも、ジョブローテーションを行っている。製
造部門の人間が設計も行うようにすることで、現
場の作業のしやすさを意識した設計ができる。設
計を通して金型の構造を正しく理解することで、
製造部門に戻った際に、作業の意味を一つ一つ理
解して進めるようになる。こうした取り組みが会
社全体の技能向上につながり、成形品の精度を高
めることにも結びついていると天満社長は考えて
いる。
同社が、世界の自動車メーカーの変わりゆく
ニーズに対しても対応し、重宝されているのは、
最先端のITの導入と、それに頼りすぎずに、あ
くまで人の技術や知識を大切にして柔軟性を保っ
ているという、そのバランスにあるのではないだ
ろうか。
同社の金型でプレスした自動車用フェンダー
同社の金型でプレスした自動車用サイドパネル
日本公庫総研レポート No.2019-4 13
2019年11月

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2 �潟с}ナカゴーキン
⿝最新設備で顧客のコストダウンにつながる金型を開発
⿝センサー技術で金型の高付加価値化や顧客の成形工程の効率化を実現
代 表 者
山中 雅仁
従業者数
228人
創 業 年
1961年
所 在 地
大阪府東大阪市
資 本 金
8,500万円
U R L
https://www.yamanaka-eng.co.jp
事業内容
鍛造用金型の製造、数値解析シミュレーションソフトの販売
(1)高付加価値の鍛造用金型を製造
�潟с}ナカゴーキンは、山中雅仁社長の父が創
業した鍛造用金型の製造業者である。顧客の要望
に応じて設計、製造する金型でつくられるのは、
主にエンジンやステアリングなどの自動車用の部
品だ。取引先は、国内の自動車メーカーやその
1次下請け企業で、売り上げの9割以上を自動車
関連が占める。
同社の金型の特徴は、超硬合金を用いているこ
とである。超硬合金は硬度が高く、耐磨耗性、耐
衝撃性に優れており、金型の長寿命化に効果を発
揮する。加工が難しいとされているものの、同社
の金型の公差は1,000分の1〜1,000分の2ミリメー
トル、成形品の公差は1,000分の10〜1,000分の
100ミリメートルと非常に精度が高い。金型を精
緻につくることで、大きな成形品でも削りや磨き
といった仕上げ作業が必要なくなり、顧客側の成
形品1個当たりの製造コストを下げることが可能
となる。高精度の加工を実現するために、工場内
の温度は常に一定に保っている。温度の変化に
よって、金型の材料や機械設備にひずみが生じる
ためだ。最終検査も、測定誤差を最小にするため
に、専用の恒温室で行っている。
顧客の製品開発に当たり、例えば切削から鍛造
への加工方法の変更などを提案できるのも同社の
強みだ。こうしたノウハウの蓄積に大きく貢献し
たのは、CAE(Computer Aided Engineering)の
採用と、試作用プレス機の導入の二つであった14
(2)CAEで試作回数を削減
山中社長は同社に入社した直後の1989年に、
米国に留学した。その際学んだのが、CAEだ。
データにもとづく製品開発の有用性に感銘を受け
た山中社長は、帰国後の1995年に、専用のソフ
トウエアを米国企業から購入して研究を開始して
いる。国内では、大手自動車メーカーがようやく
導入し始めた頃である。
導入当初は計算に時間がかかり、スムーズには
使えなかった。97年に同社が日本国内の販売代
理店となり、自社が解析したデータや金型製造業
者としての要望を米国企業に伝え、共同でソフト
ウエアを改善していった。現在同社では、CAE
を使って、同社の金型の製造工程で発生する問題
点や、顧客が鍛造で成形品をつくる際の問題点を
予測し、設計の改善に生かしている。
まず、金型を製造するに当たり、工具にどのよ
うな負荷がかかるか、切削の際にどのくらい切り
屑が発生するか、仕上げの熱処理による金型の変
形がどの程度か、などを予測する。成形工程での
14 CAEの明確な定義はない。コンピューターを用い、材料力学や構造解析をもとに製品の設計や工程をシミュレーションする。作業全
般を指す場合もあれば、その作業のためのプログラムと周辺装置を合わせたシステムのことを指す場合もある。ここでは、システム
を指すものとした。
14 日本公庫総研レポート No.2019-4
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金属材料の変形の様子や、スプリングバック15
大きさもシミュレーションする。こうしたデータ
を金型設計に活用することで、経験と勘で行って
いた作業が視覚化されるとともに、設計段階で製
品の完成度を高めることが可能になった。その結
果、2000年ころには、平均して7〜8回必要だっ
た試作が、今では2回程度にまで減っている。約
半年かかっていた開発期間も、1〜2カ月へと大
幅に短縮し、コスト削減にもつながった。類似の
金型を受注したときに、以前のデータを参考に設
計することで、設計にかかる時間やコストをさら
に下げることができるというメリットもあった。
若手とベテラン技術者のコミュニケーションも
活発になった。それまでは、経験が少ない若手
は、ベテラン技術者に対して意見を言う機会が少
なかったが、コンピューター設計に強い若手が解
析結果をもとに自ら提案し、ベテラン技術者と一
緒に検討するようになった。今では、ベテラン技
術者自身が自分の設計アイデアをシミュレーション
することで、さらにレベルの高い金型を製作する
ことが可能になっている。
(3)試作用プレスで鍛造工法を開発
同社は4台の試作用の大型プレスを保有してい
る。試作のためだけに、これだけのまとまった設
備を保有している企業はめずらしいという。なか
でも、1,200トン多軸複動サーボプレスは自慢の
機械だ。プレスの速度を細かく変化させたり、複
雑な位置制御が可能になったりしているため、こ
れまでプレスでは困難とされていた成形ができ
る。この設備の動きと成形品の出来上がりをシ
ミュレーションするのが、前述のCAEである。
同プレスでの開発事例に、自動車のステアリン
グで使われる部品がある。一般的には、粉末冶金16
を使用した成形か多段プレスによる板鍛造成形で
製造する。多段プレスで製造する場合は全部で8
工程かかるが、同社が開発したサーボプレスを用
いた製造方法では、1回のプレスのみで製造でき
るようになった。顧客がプレス機を導入したり、
工場のレイアウトを変更したりする必要はあるも
のの、8工程の機械をそろえるのに比べると、
トータルコストは大幅に削減できたそうだ。
(4)課題は金型の価値への正しい理解
こうした設備投資と技術の積み重ねで、同社の
金型は国内外の同業他社と比べ、品質、価格が共
に高まった。一方、顧客である大手企業は、価格
を重視する傾向が一層強くなっている。価格が高
い理由を説明し、それを顧客に理解してもらうの
は簡単ではないのが現実である。
今後、自動車の電動化が進むなかで、自動車
メーカーが鍛造部品の取扱品目を大きく増やすこ
とは想定していないと山中社長は言う。ただ、成
長産業といわれる航空・宇宙分野や医療分野への
進出は考えていない。他分野への進出は高いリス
クも想定されるからだ。
むしろ同社が目指すのは、自動車業界の潜在的
なニーズに応えることだ。そのため、金型の高付
加価値化や新しい鍛造方法の提案といったサービ
スを、今後さらに強化していく考えだ。
15 脚注11に同じ
16 金属の粉末を型に入れて、高温で焼結することで精度の高い金属部品をつくる製法のこと。
山中雅仁社長(左)と新商品開発室長の金さん(右)
日本公庫総研レポート No.2019-4 15
2019年11月

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同社では、金型の寿命の長期化によるコストメ
リットを常に説明するようにしている。顧客が金
型を内製している場合でも、充実した設備と徹底
した温度管理でつくり上げた同社の金型のほう
が、寿命が長くなることを説明する。価格が2倍
でも、寿命が2倍以上になれば、メリットがある。
しかし、それを説明するためには、客観的なデー
タをそろえて価値を訴えるなど、顧客の理解を得
る努力が欠かせないのである。
(5)センサー技術で付加価値を高める
金型の価値をさらに高めるため同社が活用しよ
うとしているのが、センサー付きボルトである。
センサー付きボルトとは、ボルトに圧電素子17
ユニットを埋め込んだ、いわばボルト型の荷重
センサーだ。製造機械に使われているボルトや金
型固定ボルトを置き換えるだけで、簡単に導入で
きる。圧力センサーは一般的に、圧縮側の力を測定
するが、同社の荷重センサーは、引っ張るほうの
力も測定可能なことが特徴だ。センサーから得ら
れる荷重変動の数値を高精度に測定することによ
り、機械や金型の状態を正確に把握できる。デー
タを遠隔地で確認することも可能だ。
同社が取り扱うセンサー付きボルトは、ドイツ
の工科大学が開発し、同大学発のベンチャー企業
がライセンス製造している。同社が参加する国際
冷間鍛造グループ18 で紹介を受けたことがきっか
けで、アジアでの特許使用権と総販売権を取得す
るに至った。山中社長は、センサー付きボルトの
利用価値について、最初は半信半疑だったとい
う。同社でその研究を担ったのは、山中社長が留
学先の先生に紹介された韓国人の金氏で、工学博
士号をもつ。データ解析のエキスパートとして入
社し、現在は新商品開発室長を務める。金氏が率
いる開発チームが数年かけてデータを集めていっ
た結果、金型に大きな価値を加えることのできる
システムを開発することができた。
それが、センサー付きボルトを利用した異常検
知システムである。金型の破損やプレス機の不具
合など、少しでも異常が発生すると、負荷のバ
ランスが崩れて異常な圧力が検出される。それを
アラームとして認識し、オペレーターに知らせる
システムだ。異常に気づかずに生産を続けると、
不良品を生み出し続けてしまう。金型や機械に負
担がかかり、大きな修理が必要になる可能性も出
てくる。このシステムを導入することで、データ
に異常が現れたら、すぐに機械を止めることがで
きるのだ。
今後、こうしたセンサー付きボルトとプログラム
を合わせたシステムの販売を強化していく方針だ。
17 振動や圧力が加わると電圧を発生させる素子。素子とは、電機回路の構成要素。
18 世界約30カ国の研究者や技術者が集う、冷間鍛造の研究会。
自動車のステアリング関連部品
1,200トン多軸複動サーボプレス
16 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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すでに数社に納入が決まった。現在は、プレス機の
稼働データを蓄積して、プログラムを調整している。
金氏のチームはそのほかにも、センサー付きボ
ルトの用途をいくつか見つけだした。一つは、金
型部品を製造する条件の最適化である。例えば、
部品を切削する際に、ボルトにかかる力のデータ
を取りながら、加工の順番、工具の種類、工具の
負荷といった条件を変えて加工する。そのなかか
ら、生産時間が短く、部品の精度も高い最適な条
件を見つけだす。
もう一つは、工具の寿命測定である。同社が使
用する超硬合金は硬いため、切削する工具の寿命
が短くなることが課題となっている。現在は、ベテ
ラン技術者が穴開け工程の音で工具の状況を判断
しているが、音の異常に気づいたときには、すで
に工具の摩耗が進んでいることがわかった。そこ
で、加工機械に設置したセンサー付きボルトのデー
タを分析し、工具の異常を事前に予測できるシス
テムを構築した。工具交換の適切なタイミンがわ
かり、技術者による工具の確認作業が省略可能に
なるほか、再研磨費用の削減にも結びついている。
(6)多能工化で人材育成
同社が生産性向上のために、現場で取り組んで
いるのが、技術者の多能工化である。金型製作で
は、仕上げ工程の磨き作業をはじめとして、熟練の
技能が求められる作業が多数ある。そうした技能
を、ほかの部門の技術者に少しずつ学ばせるのだ。
同社では、金型製造の工程を工作機械や作業ご
とに細分化し、それぞれに対し、各技術者の到達
度を4段階で評価したスキルマップを作成している。
新しい工程の作業に挑戦し、現場の長が認めれば、
そのスキルを取得したと認定される。各技術者は、
まずは担当する前後の工程の作業に取り組むが、
最終的にはすべての工程の作業を身につけること
が目標だ。達成度合いにより、賞与に反映させる
ことで、従業員のインセンティブを高めている。
こうした取り組みが、現在担当する仕事の効率
化にも役立つのである。また、部門間の繁閑に応
じて人員を再配置しやすくなるとともに、バック
アップの人材がいることで休みも取りやすくな
り、働き方改革にもつながっている。
スキルマップはパソコンで作成と管理をし、工
場内の壁に掲示している。「パソコンで誰でも見
ることはできますが、工場内の壁に紙で貼ったほ
うが視認性が高く、現場の長と各社員が到達度を
常に確認し、共有できます。現場の長は新しい工
程への挑戦を促しやすくなり、社員も目標を立て
やすくなります」と山中社長は語ってくれた。
センサー付きボルト
スキルマップ
日本公庫総研レポート No.2019-4 17
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3 �蟹BUKI
⿝事業承継を機にIT化の遅れを取り戻す
⿝AIやセンサー技術を活用し、生産の効率化や技能の承継を実現
代 表 者
松本 晋
しん
かず
従業者数
62人
創 業 年
1933年
所 在 地
山形県西村山郡河北町
資 本 金
7,800万円
U R L
http://ibki-inc.com
事業内容
プラスチック射出成形用金型の製造、射出成形品の量産
(1)強みは加飾技術
プラスチック射出成形用金型の製造を行う
�蟹BUKIの一番の特徴は、「加飾技術」にある。
同社の取り組む加飾技術とは、射出成形用の金型
に直接凹凸の模様をつけて、プラスチックの表面
に鮮やかな模様を浮きあがらせる技術であり、成
形品に高級感をもたらす。髪の毛のような細かい
線で金属のような質感を生みだすヘアライン模様、
鏡のような黒い光沢のピアノブラック、割れた石
の表面のような石目模様、ハニカム模様など、どん
な模様でも、写真があれば、それをスキャンして
3次元の図面に引くことで、立体上に表現するこ
とができる。
この加飾の仕上がりを左右するのは、磨きの技
術である。磨きの工程は機械ではなく、ベテラン
技術者が手作業で行う。1メートルを超えるよう
な大型のものや、複雑な立体曲面上へ磨きを施す
ことは難しく、自信をもって良いものができたと
いうまでには10年以上かかるという。
加飾技術は仕上がりの美しさだけではなく、顧
客のコスト削減にもつながる。射出成形と表面加
工を同時に行えるからだ。顧客は、射出成形後に
行っていた塗装や印刷といった2次加工の工程を
省略できるようになった。現在は、アームレスト
(肘かけ)やダッシュボードをはじめとした自動
車の内装部品の製造で主に使われている。同社の
売り上げは、自動車向けが9割を占めている。
(2)経営危機下での事業承継
そんな同社も、経営危機に瀕したことがある。
2000年以降、主力取引先だった家電メーカーが、
生産工場を海外に移転していった。加えて、2008年
のリーマン・ショックが大きな痛手となった。同
社の受注数量は減少し、受注単価も低下した。最
盛期にはグループで350人いた従業者数は、一時、
28人まで減少した。経営陣も目まぐるしく代わっ
たが、状況は好転しなかった。
そうしたなか、製造業向けにコンサルティング
業を展開する�外
オーツー
2が、2014年に経営を引き継い
だ。同社の高い技術力に目をつけたためだ。それ
以来、�外2の社長を務める松本社長が同社の社
長を兼ねている。
事業を承継したときは課題が山積だった。当
時、自動車も電気製品も、画期的な新製品が少な
くなり、既存製品のマイナーチェンジを繰り返す
だけになっていた。金型も大幅な変更を求められ
ることなく、新規に設計を行うものが減ったた
め、技術ではなく価格が発注先決定の主な判断基
準となってしまっていた。社内の人員構成も、業
績悪化の過程で高齢化が進んでおり、企業として
の将来にも不安が残されていた。
こうした状況に陥っていた同社が、今ではAI
やセンサー技術を活用した事業を展開し、業績を
回復させている。どのような取り組みを行って
いったのかを一つずつみていこう。
18 日本公庫総研レポート No.2019-4
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(3)IT化で業務改善
�@ アナログからの脱却で生産効率が向上
�外2が経営に参画した当時、同社のIT化はほ
とんど進んでいなかった。従業員にはメールアド
レスすら付与されていなかった。現場では紙文化
が浸透しており、受注があれば、伝票を手書きし、
データをパソコンに打ち込み、それをプリントア
ウトして工場の製造現場に持っていっていた。同
じ作業を、人と手を変えて繰り返していたのだ。
それでは時間がかかるうえに、ミスも発生する。
そうしたデータを、設計と現場の端末をオンラ
インでつなぎ、パソコン上で共有化するようにし
た。まずは、初歩的なデジタル化に取り組むこと
で、製造現場を大幅に効率化したのだ。
�A 動画を用いたマニュアルづくり
加飾の仕上がりを左右する金型の磨き工程の
チームは、経験15年のベテラン技術者、入社5年
目と3年目の若手の3人からなる。受注の増加に
対応し、金型の出荷量を増やしていくには、若手
2人の技能を急ぎ引き上げていく必要があった。
そこで同社では、タブレット端末で使える市販の
動画マニュアル作成ツールを活用した。
動画マニュアルには、ベテラン技術者の作業の
様子を収録した。手順書として使えるのはもち
ろん、無意識で行っている動作を共有することが
できる。手の動かし方よりも、腰を落として姿勢
を安定させることのほうが重要であるといった気
づきが得られることもあった。
動画マニュアルを活用するポイントは、教える
側ではなく、教えてもらう側が自らマニュアルを
作成することだそうだ。業務に精通していない人
が、自ら撮影して観察し、気づいたことをコメン
トとして残すほうが、技能が身につきやすいから
だという。
(4)AIの活用で効率化と人材育成
�@ 見積もり作成支援
一般に、金型の見積もりは、製造現場のキー
マンとなるようなベテラン技術者に任されること
が多いという。同社でも、以前は、ベテラン技術
者が一手に見積もりを作成していた。内壁が深い
金型を受注した場合、「金型から取り出しにくい」
「取り出し用の押し出しピンを長くする必要がある」
「そのためには金型のサイズを一回り大きくする必
要がある」といった、製造過程で重要となるさまざ
まなポイントを瞬時に想定して作業量を考え、見
積書に反映させる。まさに、経験と勘の世界である。
これを承継しようにも、経験の少ない若手技術者
が適切な作業量を判断することは難しかった。
そこで、同社はAIによる見積もり作成支援シ
ステムを導入した。開発したのは�外2の関連会
社で、システム開発を行う�貝
IGHTzである。
このシステムは、最初に、今までつくった見積
もりについて、金型の形状、工程の順番、見積金
額などのデータをすべて入力する。そのうえでベ
テラン技術者にヒアリングを行い、なぜそのよう
な工程を選んだのかという思考回路や判断基準と
いった暗黙知を一つずつAIに記憶させた。こう
して、誰でもベテラン技術者の思考を引き出すこ
とができる仕組みを構築したのだ。
仕様書から各数値を入力していくと、AIが最
松本晋一社長
日本公庫総研レポート No.2019-4 19
2019年11月

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適な工程を決定し、見積金額を算出する。今で
は、若手の技術者だけではなく、場合によっては
営業担当者でも、簡易な金型の見積もりであれ
ば、一人で作成できるようになってきている。難
度の高い金型の見積もりでもAIで行えるように
することが、今後の課題だ。
�A 匠の技術を見える化
同社は、金型の製造現場でもAIを活用してい
る。自社で行う成形品の試作時の調整作業、ある
いは顧客の工場で行う量産立ち上げの際の調整作
業をAIで効率化しているのだ。
一般的に、金型の製造では、いったん金型が完
成したら成形品を試作し、金型の不具合を修正す
る。この工程は、ベテラン技術者の経験と勘に頼
る部分が大きい。それでも修正が一度や二度では
完了せず、日数がかさむ場合もある。若手技術者
にこの工程を教えるのは、なかなか難しい。
そこで同社は、金型にセンサーを設置して、ベ
テラン技術者の経験と勘の数値化を試みた。成形
時の金型内部の温度や圧力、金型内外の構造物の
変形度合いを計測し、外からは観察できない変化
をデータで見えるようにした。そうしたさまざま
な条件の下で、不具合がある場合にベテラン技術
者がどう対応しているかをAIに記憶させた。これ
により、不具合が発生した際に、そのときの加工
条件と不具合の内容を入力すると、AIが最適な修
正方法を提示できるようになった。調整作業が容
易になり、試作の回数も減っている。対応策が数
値でわかるため、ベテラン技術者でなくても、あ
る程度修正できるようになり、経験を積んでいく
ことで、人材の育成にもつながっているという。
顧客にとっても、量産立ち上げにかかる時間を
短縮できるというメリットが生まれた。同社がい
くら検査して金型を納品しても、同社の工場と顧
客の工場では、使用する材料や設備が同一ではな
く、気象条件も異なるため、うまく調整しないと
成形不良が出ることは避けられない。
通常は、顧客側の技術者が、その都度射出圧力
や射出時間、樹脂温度などの設定条件を調整して
対応する。量産立ち上げに要する時間のうち、金
型の調整にかかる時間は約15〜20%を占めると
もいわれる。それを削減できれば、大きなコスト
ダウン効果があるというわけだ。
そこで同社は、金型設置に当たり、設定条件の
データを提供するサービスを開始している。試作
時に得た、金型内部の温度や圧力のデータなどを
提供し、それをもとに金型を調整してもらう。顧
客は立ち上げまでの時間を減らし、コストダウン
を実現できる。
�B 治具の使用可否を判断
同社では、エンドミルという切削工具の摩耗状
況を画像で読み取り、引き続き使えるかどうかを
加飾したプラスチック成形品
加飾用金型
20 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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AIに判断させる装置も開発している。
これまでは顕微鏡で一つずつ目視でチェックし
ていたため、人によって、継続使用の判断に大き
なバラつきがあった。まだ使える工具を交換して
しまうこともあれば、使えないものを使用し続
け、不良品が発生することもある。そこで、ベテ
ラン技術者が判断した結果の画像をAIに記憶さ
せるようにしたのだ。
装置の動きはこうだ。製造設備から取り外して
並べてある工具を、ロボットがつかんで画像を撮
影し、AIが継続使用の可否を自動的に判断する。
ロボットは判断にもとづき工具を分類し、工具箱
に整理する。人の手を省くことで作業時間を短縮
できるとともに、判断の精度向上により工具費も
削減できる。そして何より、金型の品質が安定化
するのである。
同社は、上記のAIやセンサーを用いた各シス
テムを、社内の生産性向上や人材育成に使うだけ
でなく、新規事業として外部に販売していく計画
である。中長期的には、こういったシステムの販
売を強化していきたいと考えている。
(5)変化が成長をもたらす
こうしたIT化の方針が、すんなりと社内に受
け入れられたわけではない。後ろ向きな反応を示
す従業員もなかにはいた。松本社長は、「会社も
人も変化を受け入れ続けていくことが、生き残り
や成長につながっていく。それを私が言い続け、
従業員がそれに反応して変化してくれることが重
要」と言う。
松本社長が考えるキーパーソンは、どちらかと
いうと保守的な性格の従業員だという。そういっ
た従業員にAI導入のプロジェクトを任せてみた
り、まったく違う業種である�貝IGHTzに出向し
ないかと声をかけてみたりしている。変化に対応
する従業員は、放っておいても勝手についてく
る。保守的な従業員が携わり、少しでも業務や現
場に変化が出てくれば、ほかの従業員も興味を
もって新しいことに取り組む雰囲気が醸成され
る。自ら望んで�貝IGHTzに出向する従業員が出
てくるなど、効果が表れ始めているという。
営業の方法にも変化が必要だと考えている。同
社は、家電向けの金型をつくっている頃から、な
るべく完成品メーカーに直接提案するようにして
いる。同社が得意とする加飾技術を活用したデザ
インが採用されれば、金型の受注に結びつくから
だ。最近では、建築家やデザイナーが集まるデザ
イン展に、加飾技術でつくった成形品を出展して
いる。自動車だけでなく、インテリアや建築など
の他業種にも販路を広げていく方針であり、その
ためには、最終ユーザーに直接アピールしていく
ことが重要だと考えている。
工具の摩耗をAIで判定する装置
センサー付きの金型
日本公庫総研レポート No.2019-4 21
2019年11月

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4 �潟Gービー
⿝海外工場を含めた最適生産体制を構築し、短納期、低コストを実現
⿝3Dプリンターを活用して金型を高付加価値化
代 表 者
田中 耕
こう
従業者数
160人
創 業 年
1951年
所 在 地
神奈川県川崎市
資 本 金
1億円
U R L
http://www.ab-mold.com
事業内容
プラスチック射出成形用金型の製造、射出成形品の量産、金型・製品設計サービス
(1)海外との競争と市場の消失
�潟Gービーは、プラスチック射出成形の金型を
製造している。自動車の内装部品やカーナビゲー
ションシステムの部品といった自動車関連、化粧
品やシャンプーなどのディスペンサー19 などの成
形に使われている。売り上げの構成は、自動車関
連部品用金型が約70%、ディスペンサー用金型
が約30%となっている。
2010年ころまで、同社の主力製品は家電や弱
電製品の部品用の金型だった。マウス、キーボー
ドなどのパソコン関連の部品やデジタルカメラの
部品といった比較的小さいものから、プリンター
やコピー機の筐体まで、さまざまなプラスチック
部品を成形する金型を、大手電機メーカー向けに
製造していた。当時は、相次ぐ新製品の発売やモ
デルチェンジがあり、取引先から次々と金型の受
注が舞い込んだ。豊富な設備と技術力を背景に、
これを短納期、低コストでこなせる規模のプラス
チック射出成形用金型メーカーは少なく、取引先
からは重宝された。
しかし2010年以降、パソコンやコピー機をつ
くっていた取引先は、海外に工場を移転してい
き、金型を徐々に現地で調達するようになって
いった。デジタルカメラも、スマートフォンの普
及に伴い、市場が大幅に縮小した。その結果、国
内の生産量が少なくなり、金型の受注も減少して
いった。
家電用のプラスチック射出成形用金型は、それ
ほど高い精度を求められないため価格競争に陥り
やすく、中国企業との競争が激しくなっている。
人件費が低いうえに、最新設備を多数取りそろえ
て技術力を高める中国企業が増えているという。
そのため同社も、家電用の金型の製造を、後述す
る自社の海外工場に移管し、国内では自動車用や
ディスペンサー用の金型という新たな分野にシフ
トした。同社はどのようにして、新分野に進出し
たのだろうか。
(2)新分野への進出
電気機器の国内生産が減少するなかで、生き残
りのためにまず取り組んだのが、自動車部品用の
金型の製造である。同社の営業担当者が自動車部
品のメーカーに対して地道な営業を行った。ハー
ドルは高かったものの、何とか取引にこぎ着ける
ことができた。そのとき評価されたのは、家電用
金型で培った短納期で低コストの生産体制と、先
行的に取り入れノウハウを蓄積していた最新の技
術だった。
3次元CADを導入したのは、大手企業が導入
し始めたばかりの1990年代前半だった。数値制
御による自動生産機械や3次元測定器も、他社に
19 上部を軽く押すなどの簡単な操作により、液状のものを適量だけ取り出せる入れ物、装置のこと。同社は、上部の装置部分の金型を
製造している。
22 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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先駆けて導入していった。それらの設備を使っ
て、顧客から受け取った2次元の設計資料を3次
元CADデータに変換したり、精度の高い金型を
効率よく製造したりするノウハウなどを蓄積して
いった。研究開発段階から取引先と擦り合わせを
行い、時には金型の専門家という観点から、製品
の品質を安定化させるための設計上のアドバイス
も行った。試作用の金型を短納期で設計、製造し
てほしいというニーズにも対応していった。電機
向けが中心だった時代に培ったこうした技術やノ
ウハウが、同社生き残りの鍵となったのである。
ディスペンサー用の金型の開発、製造に至った
のも、そうした高度な技術の蓄積をもとに、顧客
ニーズを小まめに吸い上げた結果だといえる。同
社の営業担当者が、自社の白河工場近くにあるプ
ラスチック容器メーカーに営業に行った際、ディ
スペンサーの開発に悩んでいることを聞いた。繰
り返し押してもスムーズさが失われないようにす
るには、成形品の公差を非常に小さくする必要が
あり、金型にも高い精度が求められた。内部の構
造も思いのほか複雑である。同社は、顧客と何度
も擦り合わせを行いながら、構造をできるだけ簡
素にしつつも、高い成形品精度を実現できる金型
を完成させた。
金型設計のノウハウを生かしてデザインを提供
し、デザイン料をもらうというサービスも行うよ
うになった。最近では、玩具メーカーから受け
取った2次元の絵をもとに、どういったデザイン
にすれば樹脂成形しやすいかということを踏まえ
た3次元のフィギュアなどのデザインを作成し、
提供するという仕事も引き受けている。
(3)海外工場との役割分担
海外へと積極的に進出したことも、効率的な生
産体制の構築につながっている。同社は2001年に、
中国に設計拠点を設立している。当時、次々に受
注が舞い込み、金型の設計が間に合わなくなった
ためだ。中国では、優秀なCADの技術者が多く、
採用には困らなかった。人材育成は、日本から技
術者を派遣した。中国人の技術者を日本に呼び寄
せ、本社工場で仕事を学ばせたこともあった。
その後も、取引先の現地工場の設立に合わせ、
同社も海外展開を加速させた。現在、中国に製造
拠点を設けているほか、タイ、フィリピンにも現
地法人を設立し、金型の設計と製造を行ってい
る。一部の工場では、プラスチック成形品の量産
も行い、日系企業だけではなく、現地の企業とも
取引するようになっている。
現在、海外拠点も含めたグループで受けた金型
の注文をいったん集約し、顧客の求める公差、納
期に合わせて最適な拠点を選んで設計や製造を
行っている。例えば、日本で受注した金型で高い
精度が必要なものは、日本で設計から製造まで行
う。中国で受注し、精度がそれほど求められない
ものは、中国で設計する。製造は、工場の繁閑に
応じて、中国で行ったり、タイやフィリピンの工
場に振り分けたりする。各取引先に求められる金
型のニーズに対して、的確な品質、コスト、納期
で応えられる体制を築いているのだ。
これを可能にしているのがITだ。設計データ、
部品加工データは、各拠点間でインターネットで
やりとりを行い、共有している。今では当たり前
になった技術だが、インターネットが普及してま
だ間もない2000年代前半に導入したものだ。各
3Dプリンターと田中耕社長
日本公庫総研レポート No.2019-4 23
2019年11月

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工場でつくる金型の精度は、日本本社と同じ3次
元測定器を導入することで、一定の水準を確保し
ている。
(4)3Dプリンターによる高付加価値化
同社では、金型の高付加価値化にも常に取り組ん
でいる。そのためのツールの一つとして 2008 年
に導入したのが、3Dプリンターだ。3Dプリンター
とは、3次元データをもとに、金属や樹脂の層
を積み上げて立体を造形する機器である。従来の
切削やプレス、鋳造や鍛造による成形と異なり、
複雑な造形物を短納期で製造できるため、試作
品の製造や1回限りの製品の製造に向いていると
いう。
田中社長は、試作用金型を3Dプリンターで製
造すれば納期が短縮し、製造コストの削減にもつ
ながると考えた。田中社長が中心となって、各部
門から人材を集めたチームで研究開発を進めた。
しかし、設計図面との誤差が発生し、どうしても
狙いどおりの精度にならない。試作用金型は量産
用ほどの強度は求められないとはいえ、それでも
十分な強度にはならなかった。結局、金型そのも
のを完成させるまでには至らず、いったんチーム
は解散したものの、田中社長はその後も一人で研
究を続けた。その結果、2011年には、二つの金
型部品の実用化のめどをつけた。
一つ目は、効率的な冷却機構をもつ金型のため
の部品である。プラスチックの成形では、高温に
した樹脂を金型の内部に射出する。射出後は、樹
脂を固化させるために金型を冷却する必要があ
る。素早く冷却するために、金型内部に水や空気
などを通す水管と呼ばれる管を組み込むことがあ
る。従来は溝を掘った金属板を重ね合わせるなど
して組み込んだり、ドリルで横から穴を開けたり
していたため、複雑な形状の管をつくるのは難し
かった。3Dプリンターを使えば、3次元の曲線を
描く複雑な水管を製造することができる。
田中社長が開発した水管を内蔵した部品を金型
に組み込むと、それまでの直線的な水管をもつ金
型に比べ、成形品の冷却時間が約3割短くなった。
顧客にとっては、1回の射出から次の射出までの
時間が短縮し、生産リードタイムが短くなるとい
うメリットがある。また、成形品の反りも防止で
きるため、成形品の品質が安定するというメリッ
トもあった。
二つ目は、通気性のある金型を実現するための
部品だ。金型内部の空気や、樹脂の射出時に発生
するガスを排出しやすくしたり、成形品の取り出
しを容易にしたりする効果がある。多孔質構造を
もつ部品を3Dプリンターで製造し、金型の一部
に組み込んでいる。多孔質構造とは、気体が通過
する細かい穴が開いた構造のことだ。3Dプリン
ターを用いれば、さまざまな通気率をもつ部品を
自在に製造することができる。
同社の金型で成形した自動車用の部品
同社の金型で成形したディスペンサー
24 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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金型に樹脂を射出する際は、金型内部の空気
や、射出時に発生するガスを抜く必要がある。一
般的には、溝を金型に設けて排気するが、それに
は、高い圧力で樹脂を射出する必要がある。田中
社長は、通気性のある部品から排気することで、
それまでより低い圧力で射出しても、空気やガス
を抜くことに成功した。顧客にとっては、より射
出圧力の低い小型の射出成形機で成形できるた
め、設備投資額を抑えられる効果がある。
また、通常、射出後の成形品は金型内に張りつ
いており、それを取り出すには、突出しピンとい
う金属のピンで押し出す。その際、ピンの痕が
残ったり成形品が変形したりすることがある。通
気性のある金型であれば、成形品を空気の力で取
り出すため、突出しの痕や変形を伴うことがな
く、品質が安定するのだ。
同社は2012年から、3Dプリンターで製造した
部品を組み込んだ金型を本格的に製造している。
3Dプリンターを使った部品は、同社が製造する
金型の20%程度に組み込まれている。現在は、
複雑な水管、多孔質部品だけではなく、ピンや入
れ子20 などの金型部品も一部3Dプリンターで製
造している。
同社は、通常の機械設備では加工できないよう
な複雑な部品を製造することで、付加価値の高い
金型を顧客に提供できるようになっている。これ
からは、より多くの顧客にこうした金型の価値を
理解してもらい、販売を増やしていく方針である。
3Dプリンターでつくった同社のロゴマーク
20 細かく加工がしにくいため、別途加工して後から取り付ける部品のこと。
ワイヤカット放電加工機が並ぶ工場
日本公庫総研レポート No.2019-4 25
2019年11月

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第3章 ITを活用した中小金型製造業の戦略
本章は、第2章のインタビューをもとに、ITを
活用した中小金型製造業の経営戦略について論じ
ることとする。まず、中小金型製造業者の経営課
題を確認したうえで、そうした経営課題へ対応策
としてITをどのように活用しているのかをみて
いく。そのうえで、ITの導入プロセスにおける
留意点について、整理したい。
1  中小金型製造業者の経営課題
インタビュー結果から、中小金型製造業者が抱
える共通の経営課題として浮かびあがってきたの
は、(1)受注単価の下落、(2)受注数量の減少、
(3)最終製品の市場の縮小、(4)人材育成と技能
承継、の四つであった。以下では、実際に現場で
何が起こっているのか、それぞれ具体的にみてい
こう。
(1)受注単価の下落
まず、各社が共に直面しているのは、受注単価
の下落という課題である。金型製造業者の顧客
は、金型を調達するに当たり、品質よりも価格を
重視する傾向を強めているためだ。その要因とし
ては、次の二つが挙げられる。
第1は、金型製造業者が主な顧客とする自動車
業界や電機業界で、画期的な新製品の登場や大幅
なモデルチェンジが少なくなっていることであ
る。新たな構造をもつ部品の金型であれば、最初
から設計する必要があり、顧客は高い品質を求め
る傾向にある。しかし、マイナーチェンジにとど
まれば、金型も大幅な変更を求められることな
く、品質よりむしろ価格がより重視されるように
なるという。
第2は、海外の金型製造業者、特に中国企業と
の競争が激しくなっていることである。かつては
人件費の低さが中国企業の優位性であったが、最
近ではそれに加えて最新の加工機器を多数取りそ
ろえた工場が増えており、製造技術も向上してき
ている。その結果、中国企業と競合する金型が増
え、価格競争がより激しくなっているのである。
(2)受注数量の減少
次に挙げられるのが、受注数量が減少している
ことである。自動車や電機などの完成品メーカー
や部品メーカーは、コスト競争力をつけるために
生産拠点を徐々に海外に移してきた。進出当初は
金型を日本で調達して現地にもっていくことが多
かったが、海外の金型製造業者の技術力が向上し
たことや日本の金型製造業者の海外進出もあっ
て、進出先で金型を調達する顧客が増えてきてい
る。技術的に高精度、高機能な金型は国内に残っ
ているが、そうした金型の需要は、全体としてそ
れほど多くない。
全体として価格面、品質面とも競合が増して、
国内の金型製造業者の受注数量が減少している 
のだ。
(3)最終製品の市場の縮小
どんな製品にもライフサイクルがある。一度、
取引先を確保したとしても、最終製品の市場自体
が縮小してしまえば、金型の受注も減少は免れな
い。例えば、デジタルカメラは、1990年代から
2000年代にかけて急速に生産数量が増え、多く
のモデルが市場に投入された。それに合わせて金
型製造業者も多くの受注を得ることができた。
しかし、2010年代になると、スマートフォンの
日本公庫総研レポート No.2019-4 27
2019年11月

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普及に伴いデジタルカメラの国内生産規模が大幅
に縮小した。
現在、好調な分野の取引先があっても、将来的
には受注がなくなる可能性は否定できない。こう
した課題を、金型製造業者は常に抱えているので
ある。
(4)人材育成と技能承継
金型の製造には、見積もりの作成からはじまっ
て、設計、前加工、切削加工、磨き加工、仕上げ
加工、測定、そしてトライと呼ばれる成形品の試
作など、数多くの工程がある。金型をつくって顧
客に引き渡してからも、顧客の機械に金型を設置
して、量産に向けての立ち上げ支援や、メンテ  
ナンスまで取り組む企業もある。近年、こうした
一連の工程の多くで、かつての職人の手作業を機
械設備に代替する試みが進められてきた。ただ、
ベテラン技術者の経験や勘に頼る作業も多く、す
べてが代替できているわけではない。
事例企業は各社とも、熟練技能の担い手となる
人材を育てようとしており、特に引退の近いベテ
ラン技術者の技能を若手従業員へ承継させること
に力を入れている。しかし、多くの企業が、そう
した人材育成と技能承継の取り組みに一定の時間
とコストがかかるという問題に直面している。
2  ITを活用した対応策
こうした経営課題に対して、事例企業はどのよ
うに対応しているのだろうか。本節では、各社の
ITの活用を中心とした課題の解決策をみてい 
こう。
(1)大幅な効率化で採算を確保
顧客からの価格の引き下げ要請に応じたり、競
合品に対抗したりするために価格を引き下げるこ
とは、企業の採算を悪化させる。一方、受注確保
のためには、ある程度の販売単価の引き下げに応
じざるをえない場面もあろう。そうした状況で、
利益を確保するためには、やはりコストダウン 
への取り組みが欠かせない。事例企業では、事務
の効率化、設計のシステム化、製造・検査工程の
自動化、生産性の向上などの点でITをうまく活
用し、コストダウンを達成している。また、その
なかで、熟練技能が必要となる工程のITへの代
替にも取り組んでおり、作業工数の削減につなげ
ている。
�蟹BUKIは、三つの作業にITを活用して、効
率化を図っている。一つ目は、見積もり作業への
AIの活用である。ベテラン技術者が見積もりを
作成する際には、金型の大きさや成形品の形状な
どから製造にかかる工数を瞬時に判断し、コスト
を積算する。そうした判断基準を詳細に聞き取
り、いわゆる経験や勘をいくつかの要素に分解し
たうえでデータ化し、AIに覚えさせる。難度の
高い金型でなければ若手でも見積もりを作成でき
るようになり、全体の作業量の平準化に役立てて
いる。
二つ目は、成形品の試作時に発生する、金型の
不具合を修正する作業である。その効率化のため
に、センサー技術とAIを用いている。新しく金
型をつくる場合、図面どおりに仕上げれば完成で
はなく、出来上がった金型を機械設備に取りつけ
てみて、何度か試し打ちをして調整を行い、最終
版にすることが多い。同社は金型内部にさまざま
なセンサーを設置して、成形時の各種データを
AIに分析させている。具体的には、樹脂を射出
した際の金型の温度や圧力、あるいは樹脂の流れ
や金型の動きなどを計測してデータ化し、AIに
入力する。こうしたデータの蓄積をもとに、新た
な試作の際に発生した異常値に対して、AIが的
確な修正方法を提示してくれる。試作回数が減
り、完成までの時間の短縮とコストダウンにつな
がっている。
28 日本公庫総研レポート No.2019-4
2019年11月

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三つ目は、工具を検査する作業であり、同じく
センサー技術とAIを活用している。工作機械に
取りつける刃物の摩耗状況を画像センサーで認識
し、引き続き使えるかどうかをAIに判断させて
いる。人の手を省くことで作業時間を短縮できる
とともに、判断の精度向上により工具費も削減す
ることが可能となっている。
ユミックス�鰍ニ�潟с}ナカゴーキンは、成形品
の出来上がりをシミュレーションするソフトウエ
アを活用している。金属でもプラスチックでも、
成形品は金型そのままの形になるわけではない。
成形の過程で、成形品が微妙に変形する。そうし
た変形度合いを見越して、金型を微調整する必要
がある。両社が導入しているソフトウエアを使え
ば、成形品の素材や金型の形状、成形圧力や時間
といった成形の前提条件を入力することで、成形
品の仕上がりを、図やデータで表すことができ
る。経験と勘で行っていたことを視覚化すること
で、金型の設計段階で、成形品の完成度を高める
ことが可能になった。その結果、金型の製造にお
いて成形品を試作する回数が減り、リードタイム
の短縮やコストの削減につながっている。
海外を含めた各拠点において工程のデジタル化
を進めながら、拠点間のデータ通信環境を整えるこ
とで、国内拠点と海外拠点との役割分担を明確にし
ている事例もみられた。グループ全体で効率化を実
現することで、コストダウンに結びつけている。
�潟Gービーは、海外拠点も含めたグループでの
受注をいったん集約し、顧客の求める精度や納期
に合わせた最適な生産拠点に配分して、製造して
いる。例えば、日本で受注した金型で高い精度が
必要なものは、日本で設計から製造まで行う。精
度がそこまで求められないものは、中国で設計し
製造する。工場の繁閑に応じて、タイの工場に製
造を任せることもある。各取引先から求められる
金型の多様なニーズに対して、的確な品質、コス
ト、納期で応えられる体制を築くことで、効率化
を図っている。それが可能になっているのは、設
計データや加工データをITを活用して共有して
いるためである。
(2)技術による金型の差別化
コストダウンは採算性を高める手段として欠か
せない。しかし、価格競争に巻き込まれたままで
は、いくらコストダウンをしても終わりがない。
金型の付加価値を高め、他社と差別化すること
で、価格競争を回避することが重要だろう。差別
化は、金型の受注数量減少への対応策にもなる。
事例企業のなかには、独自の技術により、他社で
はまねできない金型を開発している例がみられ
た。成形品の精度を高める金型や、顧客の生産に
かかる時間を短縮させたり、歩留まりを改善させ
たりする金型などである。いずれも顧客のコスト
削減に貢献しているのだ。  
�潟с}ナカゴーキンは、金型の原材料に超硬合
金を用いている。超硬合金は耐磨耗性、耐衝撃性
に優れ、金型の寿命が長いという特徴がある。成
形品の出来上がりをシミュレーションするソフト
ウエアを駆使した高い設計力と、充実した設備や
徹底した温度管理も加わって、精度が非常に高い
金型の製造を実現している。精度が高いことによ
り、成形後の仕上げにかかる工程を少なくするこ
とができ、顧客の成形品1個当たりの製造コスト
を下げることにも成功している。また、同社は、
シミュレーションソフトと連動し、複雑な動きが
可能な試作用プレス機の活用により、大幅に工程
を省略する成形方法を生み出した。例えば、これ
まで8工程かけて製造していた成形品を、1回の
プレスで製造できる金型を開発し、金型の受注量
を増やしているのだ。
ユミックス�鰍ヘ、その時々の新たなITを導入
して、独自開発のコア技術であるロータリーカム
機構を進化させている。同機構を組み込んだ金型
は、自動車のボディーなどの大型の成形品の精度
日本公庫総研レポート No.2019-4 29
2019年11月

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を高めたり、顧客の製造工程の短縮化に貢献した
りしている。複雑な構造の部品でもプレス機から
取り出しやすく、歩留まりも良いことや、金型自
体もコンパクトで軽いという特徴をもっている。
なおかつ、高い精度を実現して品質の安定化を図
るためには、3次元CADシステムはもちろん、
プレス成形支援システムや3Dスキャナーといっ
たITの活用が欠かせないのである。
�潟Gービーは、3Dプリンターを活用し、二つ
の特殊な金型部品の開発に成功した。一つ目は、
樹脂の冷却を速める金型部品である。1回の射出
から次の射出までの時間が短縮できるため、顧客
の生産リードタイムが短くなる。二つ目は、通気
性のある金型部品である。金型内部で発生するガ
スや空気を排出しやすくしたり、成形品の取り出
しを容易にしたりする効果がある。射出圧力の低
い小型の射出成形機でもガスがたまらずに成形で
きるため、顧客はより少ない設備投資額ですむ。
また、取り出しの際に傷がつきにくくなるため、
顧客の成形品の品質が安定して歩留まりも良く
なったのだ。
(3)周辺市場や新市場の開拓
最終製品の市場が縮小し、自社の金型の必要が
なくなるという懸念に対しては、受注のある今の
うちに、新たな需要を自ら開拓していくことが重
要となる。受注がなくなりかけてからでは、新た
に動くことが難しくなってしまうからだ。需要開
拓の具体策として、次の三つが挙げられる。
第1は、これまで金型を用いない方法で製造し
ていた成形品を、金型を用いて製造する方法を開
発し、金型の需要そのものを増やすことである。
�蟹BUKIは、自社の強みの加飾技術を強化し
ている。同社の加飾技術は、金型に直接凹凸の模
様をつけて、プラスチックの表面に鮮やかな模様
を浮きあがらせる技術である。これまでダッシュ 
ボードなどの自動車の内装部品は、模様をつける
ために、射出成形後に塗装や印刷といった2次加
工を行う必要があった。加飾技術を施した同社の
金型を用いれば、そうした工程を省略することが
でき、顧客のコスト削減につながる。
第2は、金型製造業で培った技術を生かし、周
辺市場を開拓することである。事例企業のなかで
は、金型そのものを製造するのではなく、金型製
造工程の一部分をサービスとして提供している事
例がみられた。
�潟Gービーは、金型設計のノウハウを生かし、
2次元の図面を3次元化するサービスを行ってい
る。玩具メーカーから受け取った2次元のキャラ
クターの絵から、どういったデザインにすれば金
型がつくりやすくて樹脂成形しやすいかというこ
とを踏まえ、3次元のフィギュアのデザインの設
計図を作成し、デザイン料を受け取っている。
第3は、金型を販売した後も顧客がスムーズに
金型を使い続けられるように、立ち上げ支援や 
メンテナンスを効率化することである。特にメン
テナンスは、各地に点在する顧客に対して金型製
造業者が直接手がけることは難しいため、専門の
業者が行うことが多い。センサーを活用すれば、
離れていても金型の状態を把握できるため、販売
後も継続的にサポートするというサービスに取り
組むことも可能になる。いわゆる「製造業のサー
ビス化」と呼ばれる取り組みであり、ものづくり
とは異なる、新たな市場の開拓となる。
�蟹BUKIは、試作時に金型にセンサーを設置
し、樹脂を射出した際の金型の温度や圧力を計測
している。そうして得たデータを、金型を納める
際に、顧客に提供するサービスを行っている。そ
のデータをもとに顧客が金型を調整することで、
立ち上げまでの時間を短くし、コスト削減に結び
つけている。
�潟с}ナカゴーキンは、金型などに取りつける
ボルトにセンサーを埋め込むことで、ボルトを通
して金型が受ける圧力を計測し、プレス機の故障
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や金型の破損を事前に検知するサービスを提供し
ている。異常が発生する前の対応を促し、顧客の
生産性の低下を防いでいるのだ。
(4)技術の承継と標準化
本節の冒頭でもみたように、コストダウンの過
程でITの活用を進めている企業は多い。熟練技
能の機械化や自動化で、従業員に必要な技能の種
類は少なくなり、水準も低くてすむようになって
いる。それでも、金型製造にはベテラン技術者の
経験や勘に頼る作業も多く、依然としてITでは
代替できない工程もある。各社とも、地道な
OJTやOff−JTにより、人材育成と技能承継に取
り組んでいる。
ユミックス�鰍ヘ、製造現場のOJTを重視して
いる。金型は、図面があればつくれるというもの
ではなく、やはり、現場での経験や慣れが重要だ
と考えているためだ。工程全体に気を配ることが
できるようにするため、設計部門と製造部門の間
でのジョブローテーションも行っている。さらに、
OJTの効果を高めるため、経験の少ない若手に
対しては製図や金型設計の基本に関するOff−JT
の研修も並行して行うようにしている。
もちろん、こうしたOJTの現場でも、ITは活
用されている。�蟹BUKIは、市販の動画マニュ
アル作成ツールを導入し、金型の磨きの技能を引
き継いでいる。タブレット端末上で動画マニュア
ルを作成することで、作業手順書として使うとと
もに、ベテラン技術者が無意識で行っている動作
までを標準化し、共有している。
現在、第一線で活躍しているベテラン技術者
も、いずれ退社する。そのときに慌てて人材育成
に着手するようでは、今の品質を維持できなくな
る可能性もある。将来も企業が安定して存続して
いくためには、ITや機械設備を効果的に活用し
て技術を標準化し、熟練技能を若手に承継するこ
とが必要になるだろう。
3  IT導入プロセスの留意点
(1)ITをどこに使うか
ITはあくまでツールであって、万能ではない。
やみくもにITを導入しても、効果は望めないだろ
う。インタビューした各社をみると、ITを導入す
る際に、自社にどのような課題があるかを十分整
理していることがみてとれた。何を改善すべきか
を明確にしたうえで、そのためにはどのようなIT
を導入すればよいかを検討しているのである。
�蟹BUKIは、顧客が価格をより重視するよう
になった結果、販売単価が下落していくという課
題が生じるなか、企業を存続させるためにコスト
削減を図る必要があった。また、従業員の高齢化
が進んでいるという課題に対しては、熟練技能を
ITで代替することも目指した。その両者の解決
方法として、まずは設計と現場の端末をオンライン
でつなぎ、パソコン上で共有化するといった初歩
的なIT化から取り組んでいった。自社のITスキ
ルを段階的に発展させていき、現在ではセンサー
技術やAIといった新たなITを導入し、見積もり
や金型の不具合の修正、工具の検査といった工程
を大幅に効率化させたり、技能の標準化を実現し
たりしている。
他社と差別化するには、自社の強みとなる技術
を的確に把握し、その技術を磨きあげて一層強化
するような分野でITを導入することも重要で 
ある。
ユミックス�鰍ヘ、独自技術のロータリーカムを
生かして、求められる高い精度と品質の安定化を
実現するために、その時々の新たなITを活用し
ている。金型の構造が複雑になるなか、3次元
CADを先行的に取り入れて設計の高度化を図っ
たり、金型の出来上がりをシミュレーションでき
るプレス成形支援システムを活用することで、効
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率的な設計を実現したりしている。
ただし、ITを導入することが、必ずしも課題
を解決する最適な方法であるとは限らない。今、
世の中にあるITでは、自社の課題は十分に解決
されない場合もあるだろう。ただし、時間の経過
や、技術の進化に伴って、そうした課題を解決で
きるITが開発される可能性もある。常にアンテ
ナを張って最新の技術水準を把握し、何ができそ
うかを検討し続けることが重要であろう。
(2)IT化を誰が推進するか
ITを導入するに当たっては、IT化を進めるた
めの体制づくりが必要である。その際重要なの
は、経営者のリーダーシップであろう。インタ
ビューした企業は、いずれも経営者自らIT化の
方針を立て、どういったITを導入するか判断し
ている。ただし、経営者自身が必ずしも技術開発
の中心となる必要はない。特に、これまで社内で
使ったことのないような技術や、技術開発のハー
ドルが高いものは、社内で能力のある人材を集めて
チームを組んだり、外部から高度な知識をもつ人材
をスカウトしたりしているケースがみられた。
�潟с}ナカゴーキンは、データ解析のエキス 
パートとして同社に入社していた韓国人の金氏
に、センサー付きボルトの研究を任せている。専
門家である金氏が開発チームの中核となったこと
で、金型に大きな価値を加えることのできる金型
異常検知システムの開発に成功したのだ。
(3)IT化の社内への浸透
ITを導入した後に大切なことは、現場に携わ
る従業員がそれを効果的に活用していくことであ
る。高度なITを導入しても、一部の従業員しか
使えない、あるいはすべての機能を使いこなせな
いのであれば、効果は限定的なものとなる。そこ
で、社内で研修などを行い、幅広い従業員が利用
する仕組みを整えることが重要になる。一方で、
研修などの準備を行わなくても、特に年齢が若い
ほどIT環境への抵抗が少なく、操作がやさしい
ものであれば導入がスムーズにいく場合もある。
あるいは、導入したITを活用せざるをえない状
況に迫られて、うまく使えるようになった事例も
みられた。
�蟹BUKIが活用する動画マニュアルは、入社
3年目の若手自らがつくる。タブレット端末の使用
に抵抗感がないため、スムーズに作成できてい
る。ユミックス�鰍ヘ、3次元CADシステムを導
入した際、従業員は操作に慣れず、むしろ時間が
かかるなどの問題もあった。しかし、取引のあっ
た米国の自動車メーカーがすでに導入しており、
必要に迫られ使い込んでいくうちに、うまく使い
こなせるようになった。
センサー技術やAIといった慣れない技術を製
造現場に持ち込む場合には、従業員が強い抵抗感
をみせることも考えられる。新しい技術の必要性
を理解させる工夫を行い、意識を変えていくこと
が必要だろう。
�蟹BUKIは、新たなITを導入していくなかで、
後ろ向きな反応を示す従業員もいた。そうした少
し保守的な性格の従業員に、あえてAI導入のプ
ロジェクトを任せてみたり、AIをはじめとした
システム開発を担う関連会社に出向させたりする
ことで、ITを担う人材を育成している。そうし
た人材の意識が変わることで、少しでも現場に変
化が出てくれば、ほかの従業員も新しいことに興
味をもって取り組む雰囲気が醸成されるという。
その結果、初めは後ろ向きだったが、自ら出向を
希望する従業員も現れてきたという。
4  今後に向けて
第1章で紹介したように、金型は「産業のマ  
ザーツール」と呼ばれている。すなわち、ものづ
くりの要である。その要の産業が、厳しい環境に
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置かれていることをみてきた。顧客からは単価の
引き下げを要求されたり、顧客の海外進出や、最
終製品の市場消失などで受注がなくなったりする
こともある。中国企業をはじめとした海外企業も
コスト競争力や技術力をつけており、競争は激し
くなる一方である。
そのようななか、第2章で紹介した事例企業
のように、ITを駆使して生産性向上やコストダ
ウン、あるいは付加価値の高い金型の開発や製造
を実現し、競争力を強化している企業もみられる。
もちろん、ITはあくまで道具であり、導入すれ
ばすべてがうまくいくものではない。特に、新し
い技術であるセンサー技術やAI、3Dプリンター
などは、まだ活用方法が十分確立していない。し
かしそれだけに、用途の開発に成功すれば、飛躍
的に生産性や付加価値が高まり、他社と大きく差
別化することが可能となるだろう。例えば、AI
や3Dプリンターで新たな効果をもつ金型の開発
に成功すれば、顧客に金型の価値を見直してもら
うきっかけとなり、関係の強化につなげていくこ
とができるだろう。また、センサー技術を応用し
て海外の顧客への対応も迅速になれば、旺盛な海
外需要を取り込み、売り上げを伸ばしていくこと
も可能だ。
金型の製造においては、機械化できない作業が
多く残っている。そういった部分の技術は人手に
よりしっかりと承継して品質を保ちながら、IT
を効果的に活用して顧客に新たな価値を提供する
ことが、競争力を強化するための一つの解となる。
金型製造業が強くなることが、日本のものづく
りの発展にとって欠かせないのである。
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発行日
発行者
2019年11月28日
日本政策金融公庫 総合研究所
〒100-0004
東京都千代田区大手町1-9-4
電話 03(3270)1269
         (禁無断転載)

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レポー
 No.
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9年11月
IT活
立ち