リーマン・ショック以降、日本のものづくりを支える中小金型製造業者の経営環境は厳しさを増してい
る。主な顧客である自動車メーカーや電機メーカーなどの国内生産額が減少し、金型の需要が伸び悩む一
方、輸入量は増加し、海外の金型メーカーとの競争が激しくなっている。近年は、そうした変化に対応す
るため、センサー技術やAI、あるいは3Dプリンターといった新たに発展してきたIT(Information
Technology:情報技術)を積極的に活用する企業がみられるようになっている。そうした企業は、コスト
ダウンを実現したり、付加価値の高い金型を開発したりして、競争力を高めている。
そこで本レポートでは、金型製造業者へのインタビューを行い、そうした新たなITの活用策を中心に、
厳しい経営環境に立ち向かう中小金型製造業の生き残り策を探った。
本レポートの構成は次のとおりである。
第1章では、統計データとアンケート調査をもとに、中小金型製造業を取り巻く経営環境の変化につい
て整理している。
第2章では、ITを積極的に活用する中小金型製造業者4社の事例を紹介している。
第3章では、第2章の企業事例をもとに、中小金型製造業者の抱える経営課題や、経営課題へのITを活
用した対応策、それに、ITを導入する際の留意点について、それぞれ整理している。
経営課題として、受注単価の下落、受注数量の減少、最終製品の市場の縮小、人材育成と技能承継の四
つを挙げている。それらへの対応策としては、大幅な効率化による採算の確保、金型の差別化、周辺市場
や新市場の開拓、技術の承継と標準化の四つを指摘した。
ITの導入における留意点は、ITをどこに使うかということと、IT化を誰が推進するかということ、そ
れに、IT化をいかに社内に浸透させるかの三つの観点からまとめている。
本レポートをまとめるに当たり、横浜国立大学・三井逸友名誉教授にご指導いただいたほか、多くの関
係機関や企業の方々に調査にご協力いただいた。ここに記して感謝したい。また、ありうべき誤りはすべ
て筆者個人に帰するものである。
(日本政策金融公庫総合研究所 松井 雄史)