その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はナカムラクニオさんの『 美術館に行く前3時間で学べる 一気読み西洋美術史 』です。

【はじめに】世界を読み解く鍵を手に入れるために

 西洋美術史は、世界の謎を読み解く鍵のような存在です。これが頭に入っていると何を見ても突然、世界がスッキリ分かるような感覚があるのです。

 例えば、東京ディズニーシー(千葉県浦安市)を歩いていても、建物は南イタリアがモチーフとなっており、ルネサンス風なのですが、「ギリシャ風の柱はアカンサスの葉が装飾として付いているから、コリント式だな……」と分かります。東京・日本橋にある日本銀行本店のエントランスや講談社ビル旧本館(東京都文京区)のような柱を見ても、パルテノン風で柱の上下に飾り気がなければ「これは、ドーリア式だな」とか、大原美術館(岡山県倉敷市)のエントランスの羊の角のような飾りを見れば、「ほお、イオニア式か」と思ったりします。

 また、東京のお茶の水でニコライ堂(東京都千代田区)を見るだけでも、「これはイギリスの建築家ジョサイア・コンドルが設計しているけれど、ロシア風のビザンチン様式を取り入れているな」とか、築地本願寺(東京都中央区)など伊東忠太の建築を見ても「ガーゴイル(西洋の妖怪)が守り神として鎮座しているということは、ロマネスクの聖堂やゴシック建築の影響かな」などと考えるようになってくるのです。つまり、自分なりの見方ができるようになります。こうなってくると何を見ても、面白くなってきます。日本の唐草文様を見ると、ペルシャやシルクロードの経路が感じられ、仏像を見ただけでも、ガンダーラやギリシャ彫刻との比較ができてきます。

 西洋美術史の構造を理解するコツは案外簡単。西洋美術史の巨大な6つの固まりを把握することです。

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 言葉を持たない先史や古代の美術は、「祈り」や「儀式」のために使われました。中世になると宗教の「布教」や「教え」の手段となります。ルネサンス以降、美術は「個」を尊重するのですが、その利用者が多様化し、国王や貴族のアピール、市民生活の娯楽などに変わります。

 やがて近代になると、人々の感性や内面を表現するものと変わっていき、「個性」や「感情」を形にします。そして、芸術は鑑賞されるものへと変化しました。20世紀になるとダダイズムという「概念の芸術」が生まれ、コンセプトを重視する現代美術へと進化していくのです。こうやって、大きな流れをつかみ、独自の目線で読み解けば、西洋美術史は面白い歴史小説のようにも感じます。

 この本は西洋美術史を一気読みしながら、物語のように楽しんでいただけたらうれしく思います。

ナカムラ クニオ

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【目次】

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