秋サンマ、脂の甘みと独特の香りに舌鼓
秋の味覚サンマ。2017年もサンマ漁が本格化し、北海道の東部沖では主力の大型船が出漁している。18日までの水揚げ量は、前年同期より8割多い。昨年まで2年連続で大不漁だったが、今秋は海水温などの条件は良いという。水揚げされた生鮮サンマはすぐに梱包され、一晩で東京・築地市場へ届く。鮮魚店では1匹200~300円ほどで並んでいる。
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北海道根室市の花咲港。夜明け前からサンマを満杯に積んだ船が続々と帰港する。地元の船長は「今年は魚群がまとまっている」と話す。30分ほどかけて水揚げし、船の燃料を満タンにすると、再び猛スピードで海へ戻っていく。別の船長に「お風呂にでも入ってゆっくりしないんですか」と聞くと「サンマ漁は序盤が稼ぎどきだ」と説明してくれた。日本人は初物好き。「初サンマ」として高値で取引される今、一刻でも惜しいというのが本音のようだ。
朝7時、根室漁協花咲卸売市場に鐘が鳴り響くと白熱のセリが始まる。地元の水産関係者が100人ほど集まり、壇上のセリ人と大声で掛け合う。この日の根室は肌寒かったが、セリ場は熱気がムンムン。今年は「例年以上に全国各地から引き合いが強い」(杉山水産の照井誠社長)という。鮮度とサイズの良い物を見極め、いかに競り勝つかプロの腕の見せどころ。仕入れた後は、隣接する工場でサイズごとに仕分けして、すぐに梱包して高速トラックで札幌へ運ぶ。東京、大阪や沖縄には航空便で発送する。
今は1匹120~130グラムと小型が中心だ。5年ほど前まで、北海道で揚がるさんまは1匹180グラムほどあり、皿からアタマと尾がはみ出るような大型が普通だった。「グリルに入りきらないほど大きいものもあった」(築地の卸大手)。
サイズが小さくなった理由は、北太平洋の公海上で中国や台湾船が成長前のサンマを「爆漁」しているためとの見方がある。日本船の10倍以上ある千トン級の大型船で、国内漁業関係者は資源保護のため自粛している「『水中灯』などの機器を使い漁獲量を伸ばしている」(三陸沖で操業する漁師)。北太平洋のサンマ漁獲量は、2013年に台湾が日本を抜き世界一に、3位の中国は直近4年間で30倍に伸びた。日本はまだ2位にとどまるが、昨年は過去最低の水準だった。
花咲港にある食堂で塩焼きを注文するとおかみさんが「まだ小さめだから」と2匹焼いてくれた。小ぶりとはいえ鮮度は抜群で、脂のうまみも味わえる。おいしいサンマの見極め方を尋ねると「形が丸みを帯びていて、くち先が黄色いもの」。そしてピンと皮が張り「ピカピカ光っているものが新鮮な証拠」と教えてくれた。
地元の居酒屋では、サンマの刺し身が登場した。人気店「魚河岸 浜作」のこの日の刺し身の盛り合わせはサンマが主役。ほかにツブガイ、ウニなどもあわせて盛りつけていたが、例年この時期はサンマを入れるようリクエストする人が多いという。秋口になると徐々に脂肪の層が厚くなり、脂肪率が20%を超えることもある。ピカピカ光る身を口に入れた途端、脂が溶け出し甘みを感じる。サンマ独特の香りが後に続く。水揚げしたばかりの鮮度の良い刺し身は秋の格別のごちそうだ。
サンマは北海道から本州中部沖まで幅広い海域に生息するため、自慢の料理がある地域が多い。根室ではご当地グルメ「根室さんまロール寿司」が人気だ。根室産のコンブでサンマと北海道産の大葉、ネギを巻いている。サンマの脂のうまみと大葉の相性が抜群だ。地元の水産物を活用し、漁村を活性化するため考案された。「サンマの町だからね」と浜作の佐々木智宏店長は話す。千葉県ではたたいた身に味噌、卵黄などを加えて焼いた「さんが焼き」、福島県では「みりん干し」。福井県の米かすに漬けた「へしこ」は大切な保存食だ。
水産庁の調べによると、昨年までは道東沖にサンマが嫌う「暖水塊」という海水温が高い部分があったが、今年は消えた。「サンマがやってきやすい環境」(水産庁)とみている。「早く丸々太ったサンマがあがってきてほしい」(照井社長)。
都内の鮮魚店では120~130グラムサイズが1匹200~300円ほどで並んでいる。今週末には宮城県の気仙沼など三陸沖でも水揚げが始まる予定。まとまった水揚げが続けば「月末までには値下がりする可能性がある」と築地の卸大手では話していた。
(佐々木たくみ)
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