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 武漢から生じた新型コロナウイルスの影響が拡大している。本記事の執筆時点でも影響は拡大しており、収束の見通しは付いていない。重症急性呼吸器症候群(SARS)ほどではないにしても、たぶん春先、あるいは夏までかかるだろう。東京五輪・パラリンピックの関係者は無事に開催できるか気が気ではないはずだ。

 ところで、現在、工業製品の生産地を中国から他国へ移管する動きが進んでいる。それは米中の経済戦争をきっかけに始まり、そしてこの新型コロナウイルスでさらに加速した。中には、中国の製造業における作業者の人件費高騰を理由にしているものもある。つまり、いつ中国シフトが起きてもおかしくなかったが、一連の事件が引き金を引いたという。

 また、私が聞いた流布では、中国で造られた製品を触りたくない、という消費者の声があった。そこにコロナウイルスが付着している可能性があるというのだ。

 だが、全面的に中国製を回避できるならともかく、実際には中国はグローバルサプライチェーンの一部に組み込まれている。中国を今後も完全に拒否できるわけではない。そこでこの機会に、中国製の品質は悪いのか冷静に考えてみたい。

「メード・イン・チャイナ」の食品は買わない?

 中国品質が悪いとささやかれている。少なくとも、他国よりは悪いといまだに思う向きもある。その代表例が食品だろう。私の肉親にもいるように、「メード・イン・チャイナ」の食品は買わないというポリシーの人々もいる。原材料を国内産だけでそろえることを、品質確保の根拠としている飲食店や小売店がある。

 2014年7月、米ハンバーガーチェーン大手のマクドナルド(McDonald's)で事件が起きた。期限偽装食品問題が発覚したのだ。上海福喜食品が使用期限切れの鶏肉を混入させたと分かった。同社の鶏肉は、日本マクドナルドが国内で販売する「チキンマックナゲット」の約2割に使われていた。日本マクドナルドは上海福喜食品への発注をやめた。

 当時私はテレビの情報番組に出演しており、上海福喜食品の工場の隠し撮り動画が公開されていた。地べたに落ちた鶏肉を加工機に投入する画像が流れた。マクドナルドが怠惰だったわけではない。監査時はしっかりとした生産体制だった。ただし、監査が終わった瞬間、乱雑な生産状態に戻っていた。これらの報道が相次ぎ、中国ブランドは失墜した。

 これは氷山の一角なのか、あるいは、全体像を示すものなのか。

 厚生労働省は、様々な「監視指導・統計情報」を公表している。その中でも「輸入食品監視統計」は日本語のみならず英語版でも発行しており、珍しく対外的な主張を感じる。そこで、食品衛生法違反事例を挙げている。これは、「販売等を禁止される食品及び添加物」「食品又は添加物の基準及び規格」の逸脱品をカウントしたものだ。さらに、「生産・製造国別の届出・検査・違反状況」が書かれている。

 その平成29年(2017年)度版によれば、国(地域を含む)別の違反件数および総違反件数に占める割合は以下の通りである。

国別違反件数と総違反件数に占める割合
(データの出所:平成29年度 輸入食品監視統計)
違反件数 総違反件数に占める割合
中国 191件 23.3%
米国 135件 16.4%
ベトナム 65件 7.9%
タイ 59件 7.2%
イタリア 38件 4.6%
フランス 32件 3.9%
国別総違反件数に占める割合
国別総違反件数に占める割合
(データの出所:平成29年度 輸入食品監視統計)
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 やはり中国製の品質は悪いのだろうか。